マーズに近頃の近況と、依頼について聞いたぞ
ギルドへ行き、マーズ子爵がちょうど来てたので依頼を直接頼もうとする3人。
さて、ポルトゥス行きの護衛の依頼はスムーズに見つかるのだろうか?
「はじめまして、マーズさん。僕はアルドと言います。グラちゃん…グラティアさんとムジカさんとは友達です」
「ほう…ムジカ様、グラティア様とご友人でございましたか。申し遅れましたが、私はアヴァルス・マーズと申します。この冒険者ギルドや、商人ギルド、その他いくつかの店も管理しております。どうぞお見知りおきを」
アルドを値踏みするように見るマーズの顔は、何を考えているのか。きっとろくな事を考えていないことだけはわかった。
「久しぶりだね、マーズくん。グラティアのことはもちろん知っていると思うけども、グラティアの彼氏くんのアルドは初めてだろうけど、これからよろしく頼むよ」
マーズに対して話すムジカは、いつもの口調ではなく、はっきりと言葉を紡いでいた。威圧の意味も込めているのだろうか。
「ムジカ様、私がまだ20の半ばになる前でございましたね、私共が隣国のシルヴァとの揉め事で困っていた案件に助力をいただいたのは。あの時のご恩は未だに忘れておりません。ムジカ様やグラティア様がいなければ、ここルミノースの中央都市マグヌスも、きっと平穏ではいられなかったことでしょう」
んー、なんかよくわからんが、きっと10年以上前に、なんかやたらと大金を積まれて、暴れている獣人族の大群を収めてくれという依頼をムジカ経由で受けた記憶はある。
「うんうん、まぁ獣人の国シルヴァも決して無知な者ばかりではないんだけど、40〜50年に一度くらい、力を持った獣人が徒党を組んで暴れる時があるからね〜。まぁ一度きっちり教育をしておけば、当分は大丈夫だと思うよ。それよりも、今日はこのアルドを冒険させるために、ポルトゥス行きの依頼を探しに来たんだけど…ちょうどいい護衛の依頼なんかあるかな?」
このルミノース王国は大陸の南西にある。そして、今話に出ていたシルヴァ王国は大陸の南東。地図上ではルミノースの右隣にある森林の国なのだ。獣人が治める国なだけあって、住民の数はとても多いが世代の入れ替わりがとても激しい。国同士の協定とやらで、基本的に他国に攻め込むことは禁止されているのだが、寿命が短い獣人は寿命だけでなく、割と気も短い。そのためムジカが言っていたように、たまーに団体で暴れてお互いの国を困らせる輩がいたりするのだ。
「ポルトゥス行きの護衛ですか…今のところ公に出している依頼にはないのですが。そもそも、ムジカ様も多少は聞いておられるかもしれませんが、ポルトゥスでの漁獲量がここ数年でかなり減っておりまして…貴族であちらに行くのは魚介目当ての観光がほとんどのため、それがない分余計に減っているという状況でございます」
「なるほどね〜。なんか海に魔物が出てきたとかかな〜?そういう情報って、なかなか街経由でも入ってこないもんね。依頼がないならもう普通に馬車かなんか使って行ってもいいんだけどね。あ、護衛じゃなくても、ポルトゥス付近で採取できる何かの依頼でもいいよ」
魚が獲れなくなってきて、その分こちらマグヌスではどんどん魚が高くなっている。先ほどのラ・メーラが異常に高値だったのも、その原因もあると思う。
「ムジカさん、ギルドの依頼っていうのは、その街ごとでしか受けることができないんですか?ここマグヌスと、あちらポルトゥスのギルドとは全く繋がっていないの?」
アルドがムジカに聞く。
「そうそう、そうなんだよアルド。街のギルド同士は全く繋がりはないよ。あ、じゃあマーズくん。こちらで依頼しているポルトゥス付近の依頼を、一応当たってもらってもいいかな?ここで待つよ」
「かしこまりました。お茶と菓子を用意しますのでしばしお待ちください」
マーズが出て行き、少ししてからギルドの受け付けの女性が紅茶とクッキーを持ってきてくれた。紅茶は爽やかなレモンの香りがしていた。クッキーはバターを多めに使ったようなほろっとした食感のクッキーだった。私の好みだ。
「ねぇねぇグラちゃん。さっき話してたシルヴァ王国って、ルミノースとは仲が悪い国なの?」
「うむ。仲が悪いというわけではないが、前にも話したことがあるかもだが、元々シルヴァも、ルミノースから獣人だけが抜けて出来た国という感じだからな。他種族国家のルミノースを目の敵というか、よく思っていない者もいるにはいるだろう。ただ、先ほどもムジカが言ってたように、争いが絶えないわけではない。50年に一度くらいもめるくらいだな」
「ふ〜ん、そうなんだね。その50年に一度あるかないかの揉め事を、ムジカさんとグラちゃんで抑えたっていうこと?さっきマーズさんが言ってたのは」
アルドは私達の話していることを割とちゃんと聞いてるようだ。まぁもう16歳だものな。私からすると出会った頃の小さなアルドのイメージがあるから、背は大きくなっても、つい子供扱いをしてしまう。
「そうだよ、アルド。まぁアルドは次にある40年後くらいに起きるかもしれない騒乱の時には、50歳を超えてるもんね。その争いに携わることはないかもだね」
ムジカが私の代わりに答える。
「そうですよね〜、もう40年後なんて、僕はもう死んでいるかもしれませんもんね。なんかそう聞くと、僕の。人族の一生って短いですよね」
アルドは少しだけ淋しい顔をした。そうなのだ、やはり人族は寿命が短い。アルドと出会ってからの8年もとても早かったが、この早かった8年があと5回ほど続くだけだと思うと…私はそれを考えるのをやめることにした。
「少し遅いな、マーズのやつ」
ちょうどその時、部屋の外で物音がして、すぐにドアをノックしてきた。少ししてからドアがゆっくり開く。戻ってきたのはマーズだけかと思ったら、2人だった。
「あれ?ラグルスくんもいたんだ。今来たの?」
「お久しぶりです、ムジカ様、グラティア様。あとマーズから聞きました。お二人のご友人のアルド様。私はここ中央都市マグヌスと周辺の領地を任されております、ラグルス・ラジールと申します。よろしくお願いします」
ただポルトゥスに行きたいだけなのに、また大層なやつが来てしまった。なんとなく、嫌な予感がしてきたぞ。
マーズ子爵の次はマグヌス伯爵が現れた。
マグヌス伯爵が出てきたわけはなんだろうか。そして、なんとなく嫌な予感がするグラティア。
無事に依頼を受けることができるだろうか。
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、256歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。街中で出会った人族のアルドに興味を示し、行動を共にする。
アルド(情熱):人族の男性、16歳。2人暮らしだった父フィデリスは不慮の事故で亡くなる。グラティアに好意を寄せるが…。
ムジカ(音楽):エルフ族の男性、320歳。吟遊詩人。
色々な国や、世界を巡りながら、詩を綴る。グラティアとアルドの2人のことを気に入っている。女たらしだがグラティアのことは口説こうとしない。
マグヌス伯爵ラグルス・ラジール:人族の男性、42歳。マグヌス領を治める貴族。思慮深く、温和だが、したたかである。クラルス(清潔)
マーズ子爵アヴァルス・マーズ:人族の男性、38歳。冒険者ギルド、商人ギルドを管理する貴族。元商人で金で爵位を手に入れた。名前通り強欲ではあるが、経営力は抜群である。アヴァルス(強欲)
◯シルヴァ王国プチ情報
この物語の初めの方にも触れていたが、シルヴァ王国は獣人が治める王国である。作中でグラティアが言っているように、ルミノース王国から多種族国家に反発する獣人族が独立して興した国だが、大陸で地続きの国のため、いくら協定があったとしても50年に一度くらいは小競り合いがおこる。その周期は獣人族の寿命が15年〜30年と短いことも原因であると考えられる。小競り合いを経験した者は、もう無意味なことは起こすまいと誓うのだが、その者自体が寿命で亡くなっていくと、結局同じことが起こる。




