冒険者ギルドへ行き、マーズ子爵を探しにいくぞ
貴族御用達の店「ラ・メーラ」を満喫した3人。
そこで話していた、アルドの初めての冒険のため、美味い魚のため、
港町ポルトゥスに向かう依頼を探しに、冒険者ギルドに行くことになった。
「グラちゃん、ごちそうさまでした〜!ほんっとに美味しかったです!」
アルドが満面の笑みでお礼を言ってきた。結局あのあと、ラ・メーラではデザートを2品頼み、仲良く分けて食べた。ムジカが支払いを分けようとしてきたが、出すと約束したので私がきっちりと支払った。
まぁ正直なところ、私が金を使うことと言えば、1日に3〜5度の食事と、たまにおやつと、服を買うくらいだからな。たいがい減らない。毎日高級店で食べるわけではないから、たまには良いのだ。
「グラティア、ありがとう。とても美味しかったし、楽しいひと時だったよ。この足でそのままギルドに行ってみるかい?」
ムジカが私に問う。先ほど言っていた、依頼のことだな。港町ポルトゥスは、ここマグヌスより西にまっすぐ行ったところにある海沿いの街だ。何度か行ったことはあるが、あの街は徒歩でいくところではない。1日歩いて着くか着かないかぐらいの距離なので、乗り合い馬車で3〜4時間くらいだろうか。歩くのが嫌いというわけではないが、さすがに1日中は疲れる。
「まぁ、ここから一番近くの街がポルトゥスなのと、魚を食べるのが目的だからいいんだが、そんなに都合よく依頼が来ているだろうか」
「ねぇねぇグラちゃん。グラちゃんやムジカさんはたまにギルドで依頼を受けたりとかすることはあるの?」
「そうだな。まぁこちらから出向くというより、向こうから依頼をしてくることのほうが普段は多いかな。例えば一般的なそれほど難しくない依頼であれば、私やムジカのようなエルフ族でなくても対応できるが、少々大変な時はこちらにお呼びがかかる時がある。さっきの店でも話していたが、ギルドは王国、要は貴族が管理しているので、そこから話が来る」
ここ中央都市マグヌスの領地を治めているマグヌス伯爵だったか、名前は…忘れてしまったが、そいつの下の…んー、マープだったか、ハープだったか、そんなやつがギルドを管理していたはずだ。そのマープは生粋の貴族ではなく、元々は商人で、王国が金の提供を引き換えに爵位を与え、管理を任せるようになった、という感じらしい。ムジカがそう言っていた。
「まっ、急な依頼の場合は、僕やグラティアや、力のある者に話が来るんだけども、そうでない時は直接聞きにいけばいい、ってことだね。とりあえず行ってみよ〜」
ギルドのある場所は、前にもよく皆で行っていた酒場の並びにある。アルドとはギルドの登録をするために、ついこの前に行ったが、その時は依頼内容などは見ていない。
まぁ、もし違う街に行くとしたら、よくあるのは貴族の護衛などが多い。貴族とひとくくりには言っているが、その家によって規模というか偉さももちろん違う。王族などの血筋などの位の高いものは別格らしいが、ルミノースにあるそれぞれの都市と、その近辺の領地を治めている伯爵とやらもそれなりに金を持っている。
街同士の交流があるかどうかは別として旅に出ることになると、やはり道中の危険が伴うので金で護衛を雇うこともある。護衛がてら街に遊びに行って、その用事が終われば、また帰りも護衛する。行きと帰りはもちろんセットになっているので、それなりの報酬はあるというわけだ。
ムジカが誰に問うでもなくつぶやく。
「あいついるかなぁ、マーズくん。なんか色々ウロウロしてるから捕まらない時あるもんね。あいつがいたら話が早いんだけど」
おぉ、そうだ。マーズだった。ギルドの管理を任されているやつの名だ。あいつはかなり金に汚いというか、欲をむき出しにしている感じで私は嫌いだ。ただ、ムジカはきっとそういうやつのほうが、話が早いと言ってるのだろう。
話している間にギルドに着いた。冒険者ギルドの中はそんなに広くはなく、壁に様々なギルドからの依頼の内容が書かれている紙が綺麗に貼り付けられているが、それは実際は一部の内容で、カウンター越しに受付のものが何人か待機しており、そこで自分の力量や特性にあった依頼を勧めてもらったり、選んだりするようになっている。私の場合は先ほどムジカが言っていたように、あまりここに直接来ることは少ない。
「いらっしゃいませ。あっ、グラティア様、ムジカ様!わざわざお越しいただきありがとうございます」
名前は知らないが、受付の女性の1人が声をかけてきた。冒険者ギルドという名前は野暮ったいイメージだが、結局のところ元商人が管理しているだけあって、商売に直結している依頼や仕事がほとんどである。
たとえば武器や防具、装飾品、服の素材。薬や食物の素材。調味料の素材。それを買い取り、自分で管理している店に卸したり、他の店にも卸したり、加工する工房へ卸したりして利益を得ている。その仲介という存在である。
冒険者という呼び名はカッコいいが、色々なところへ赴き、雑用をこなすような、なんでも屋のようなイメージだな。手に職を持つ者は、加工したりそれを販売する側に回るし、それがないものは、その素材を集める側に回る。どちらが良いというわけではなく、自然な分業という具合であろう。
「こんにちは。久しぶりだね、可愛いお嬢ちゃん。元気だったかい?あ、今日はマーズくんは来ているかい?もし居たら呼んでほしいんだけど」
「はいっ、おかげさまで元気にしております。あっ、マーズ様は中におられるので呼んで参りますね」
ムジカの軽口に受付の女性は顔を少し赤らめながら答えた。ムジカは根っからの女たらしである。もうそれが体というか、魂に染みついているのだろう。まぁそれのおかげで物事がスムーズに進むのならいいのだが。受付の者は今日は3人いて、1人がマーズを呼びに行った。
◇
ほどなくして受付の女性が帰ってきて、私たちに告げる。
「マーズ様は今しばし取り込み中でございまして、中の応接室で少々お待ちいただけますか。そこまで時間はかからないようですので」
「わかったよ、ありがとうね。さっ、中に入ろ〜」
ムジカと受付の女性に先導されて、私とアルドもギルドの受付の横にある扉から、ギルド内の応接室に入る。いくつか部屋があるようで、そのひとつを案内される。応接室は小さな部屋で、特に余分な装飾はなく、中央に木製の長方形のテーブルと、両側に三人掛けくらいのソファが置かれていた。その片方に座った。
「なんかこういう部屋って、緊張しますね〜。僕一人では絶対来ることないですよね」
アルドは実際緊張しているようで、ソファにも座らずキョロキョロしている。こういうところは大きくなってもまだ子供なのだなと思う。
「あはは、まぁ応接室に入るのって僕たちの功績があるからなんだけど、普通なら外の長椅子とか、そもそもマーズと直接交渉することもあまりないかもね」
「マーズと直接話してどうするつもりなのだ、ムジカ。ポルトゥスに行くついでの依頼なら、貴族の護衛が手っ取り早いとは思うが」
「うんうん、そのつもりだよ。それに僕自身がマグヌスに帰ってくるの久しぶりだから、色々聞いたり、話したりしておかないとね」
そういうものなのか。私はずっとマグヌスにいてもそもそもあまり色々な者と話したりすることが少ない。煩わしいことに巻き込まれるくらいなら、ひっそりと平和に暮らしているほうが良いからな。
応接室の扉がノックされた。そして、ゆっくりと扉が開かれる。
「お待たせしました。ムジカ様、グラティア様、そして…お連れのお坊ちゃま。私の管理している店の者に指示を与えていまして。すみませんでした」
アルドがお坊ちゃまと呼ばれて少しムッとしている。
「はじめまして、マーズさん。僕はアルドと言います。グラちゃん…グラティアさんとムジカさんとは友達です」
「ほう…ムジカ様、グラティア様とご友人でございましたか。申し遅れましたが、私はアヴァルス・マーズと申します。この冒険者ギルドや、商人ギルド、その他いくつかの店も管理しております。どうぞお見知りおきを」
アルドを値踏みするように見るマーズの顔は、何を考えているのか。きっとろくな事を考えていないことだけはわかった。
ギルドを管理するマーズ子爵に出会う3人。
ちょうどよくポルトゥスへの依頼を受けることができるのだろうか。
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、256歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。街中で出会った人族のアルドに興味を示し、行動を共にする。
アルド(情熱):人族の男性、16歳。2人暮らしだった父フィデリスは不慮の事故で亡くなる。グラティアに好意を寄せるが…。
ムジカ(音楽):エルフ族の男性、320歳。吟遊詩人。
色々な国や、世界を巡りながら、詩を綴る。グラティアとアルドの2人のことを気に入っている。
マグヌス伯爵ラグルス・ラジール:人族の男性、42歳。マグヌス領を治める貴族。思慮深く、温和だが、したたかである。クラルス(清潔)
マーズ子爵アヴァルス・マーズ:人族の男性、38歳。冒険者ギルド、商人ギルドを管理する貴族。元商人で金で爵位を手に入れた。名前通り強欲ではあるが、経営力は抜群である。アヴァルス(強欲)
フロース(花):人族、男、36歳。フィデリスとパーティを組む冒険者、剣士。おとなしい性格。
アリシア(誠実):ハーフエルフ、女、90歳。フィデリスとパーティを組む冒険者、魔法使い。おっとりとした性格。人族の母親はすでに他界しており、エルフ族の父親は不明である。
◯マグヌスプチ情報
中央都市マグヌス及びその周辺の領地を、マグヌス伯爵がおさめている。そして、ギルドや複数店舗を管理・経営しているマーズ子爵は領地を持たない貴族である。これは何故かと言うと、上の紹介にもあるように、アヴァルス・マーズは元商人であり、その経営の手腕と財力との両方を買われ、王国への金の提供と爵位をトレードしたのである。一見すると嫌なことのように思えるが、王国も商人も利益があり、適材適所という意味ではとても合理的な配置である。血筋だけで貴族を名乗り、なんの能力もない者も多いので、マーズに関しては実力でその立場を勝ち取ったと言えるであろう。




