5.奴はオカルトの中でも最弱
「黒の十四軍、集結!」
昼、黒島。
エルフィンは輝き、黒の十四軍を集結させた。
軍団はほぼ黒島在住。ヒマなのですぐに集まる。
朝の畑仕事とイカの世話を終えた皆はエルフィンの輝きに大吉様大吉様と集まってくる。上空には普段は月の裏にいるクーゲルシュライバーだ。
「お? また何かやるのか?」
「直接見るなよ。目をやられるぞ?」
「対ショック、対閃光防御か」
そして近所の自衛隊は観客。
トラックターミナルから日食観察キットを手に興味津々で眺めている。
黒島入植者一号の雄馬とリリィも一緒だ。
「諜報軍が新たなオカルトを発見しました。日本国政府からの要請はまだですが輝き召喚を試みます」
エルフィンが集合した皆に言う。
「また輝き召喚だな」
「そうですわね」
「がん、ばる」
「イカ養殖作業も今日は終わり。大吉様との散歩までのヒマ潰しだな」
「どうせ麻田殿が何とかしてくれと泣きついてくるでしょうから、今やっても問題は無いでしょう」
「がんばるです!」
「やるでしゅ」「やるです」「やるですぅ」
「黒の艦隊全艦、こてんぱん用意」
『『『サケーッ』』』「酒ばかり叫んどらんと、働けや!」
「皆さん、お願いいたします」
集まった皆は意気込み満々。
しかしブリリアントとエルフィンは微妙な顔だ。
「エルフィン、釣れると思うか?」
「どうせ要請を受けるでしょうから、試すだけはしてみましょう……せーのっ!」
「「「「「「「「「「「「「「輝き、召喚っ!」」」」」」」」」」」」」」
べべべべべべべべべべべべべべっかーっ!
そして、ぽんっ!
リリィ達を召喚した時と同じように、皆が激しく輝き何かを召喚する。
が、しかし……
現れたのは茶碗に盛られたご飯と、やかんに入ったお茶であった。
「お茶漬け? いえ、これはぶぶ漬けと言うべきでしょうか大吉様」
「京都人かよ」
まさかのぶぶ漬け対応。召喚お断りしますだ。
「エルフィン、やはり対策されたな」
「そうですね。リリィの件を知っている者ですか」
じょぼじょぼ……ブリリアントがぶぶ漬けを作りつつ、エルフィンに言う。
大吉は首を傾げた。
「え? 対策できるの?」
「こういう手を使ってくると知っていれば対策するのは当然です。そもそも相手がいるという『だけ』で輝き召喚するなんて、宝くじを当てるようなものですよ?」
「それも……そうだな」
どこで何をしている誰かは知らないが、来い。
リリィ達を呼んだ時の輝き召喚を言葉にすればこんな感じ。
これで来てしまったのだからリリィと雄馬は相当チョロいと言うべきだろう。
「リ、リリィ……」
「わ、私はオカルトの中でも最弱ですか? オカルト界の面汚しですか!?」
「「「「「「「「「「「「「「そうだな」」」」」」」」」」」」」」
「「がぁん!」」
頷く黒の十四軍に二人は涙目。
最弱扱いにショックを受ける雄馬を励ます大吉だ。
「お前ら、世直しする前に俺らに敗れて良かったな。突っ走ってたら今頃この世にいないぞ? こっちの世界じゃこてんぱんでは許して貰えないからな」
「そ、そうですね……がぁん」
励まされてもショックな雄馬。
「甘い訓練を三日で投げ出す位だしな」
「俺らと同等の訓練なんて出来る訳ないから、甘めにしたのにな」
「相当甘かったのになぁ」
「ここの支店は運送会社の中でも超楽だからなーっ。逃げ出すなよーっ!」
「がぁん!」「ユウマ様!」
そして観客の自衛隊にショックの追い打ち。
頭を抱える雄馬と励ますリリィの姿に、本当に輝き召喚で釣れて良かったと思う大吉だ。
そして、ぶぅおおおお……ブリリアントがぶぶ漬けをブレスで炭にする。
大吉が見るブリリアントの初ブレスがぶぶ漬け相手。
何とも平和な有様に大吉も苦笑い。
ブリリアントは炭ぶぶ漬けをじょりじょり食べながら言った。
「これからは輝き召喚の前に調査をせねばならぬな。というかA、もう少し情報を渡せないのか?」
「すみません。世界中で活動しておりますので確実性はご容赦下さい」
「大丈夫、捕捉した」
ブリリアントに答えたのは第十二軍、宇宙軍のセカンドだ。
「質量転送を検出した。質量はそのぶぶ漬けと一致する」
黒の艦隊、ぶぶ漬けの移動を検出する。
「すげえ!」
「スパイ衛星なんざ目じゃねえな! さすがオカルト宇宙艦隊!」
観客の自衛隊拍手喝采。
「五光分の位置に配置した観測艦に超光速通信した。じきに証拠映像も届く」
しばらくして、クーゲルシュライバーから映像が投影される。
「証拠映像」
「……確かにぶぶ漬けが消えてるな」
大吉が唸る。
太陽から地球までの距離はおよそ一億五千万キロ。
そして太陽の光が地球に届くのにかかる時間は八分十九秒。
黒の艦隊の観測艦が配置された五光分はその六割程度の距離、およそ九千万キロの距離となる。黒の艦隊の観測艦はその距離からぶぶ漬けを観測したのだ。
「過去すら観測出来るのかよ!」
「ますますすげえ!」
超絶オカルト観測技術に観客の自衛隊はまた拍手喝采。
セカンドも役に立ったと自慢げだ。
が、しかし……炭ぶぶ漬けを食したブリリアントが立ち上がる。
「ま、そんな観測なぞすでに意味は無いがな」
「そうですね。ぶぶ漬けなど送ってこなければもう少し粘れたのに」
エルフィンも皆も余裕。
ブリリアントが叫んだ。
「すでに炭ぶぶ漬けはわが血肉。のし付けて返してやろう!」
ブリリアントがぺっかと光る。
「輝き返却!」
ブリリアント消失。
そして五秒後、男と女を咥えて輝き転送で戻ってくるブリリアントだ。
黒の十四軍、今回もあっさり解決。
「ただいま戻りました大吉様!」
「……呪い返しみたいなものか?」
呪いを破られると呪いをかけた者に戻ってくるという。
それと似たような感じらしい。呪いではなくぶぶ漬けだが。
納得する大吉。
そして横に立つエルフィンは首を傾げる。
「大吉様も、雄馬も、この男性も、どうしてオカルト側は女性なのでしょうか?」
「「「ゲームだから仕方ないじゃん! 仕方無いじゃん!!」」」
大吉、雄馬、ブリリアントに咥えられた男性は叫んだ。
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