97.ある国の騎士5
-エンペラス国 第1騎士団 団長視点-
振り上げられた魔剣。
並べられた奴隷。
ため息を吐きたくなるがこらえ静かに視線を下に向ける。
この国では当たり前の、だが慣れない光景。
どうも俺は…。
広場に光があふれる。
あまりの眩しさに手を翳してみるが意味をなさない。
光にくらっとふらつくが耐え、王のいた場所を見る。
何が起こったのか。
王の腕から血が滴り落ちて、治療師たちが慌てている。
視線をずらして、まだ白く輝いているモノを見る。
空中に浮かんだ白い光を纏った魔剣。
何とも綺麗な光だ。
その光が消えていくと魔剣も地面に落ちた。
ここからでは見ることができない。
奴隷たちに視線を向ける。
驚いた表情をしている。
…驚いている。
奴隷たちは反抗しないように心を封じられているはず。
その彼らが。
もう一度確認しようと身を乗り出すが、
すぐに騎士たちが奴隷たちを連れていってしまった。
……
魔導師が回収した魔剣。
部屋に帰ろうとしたときに見かけたので見せてもらう。
以前見た時は魔剣から感じる魔力の力強さと、まがまがしさに驚いた。
布をとって出てきた魔剣。
…これが同じ魔剣なのか?
確かめたが同じものらしい。
だが、目の前の魔剣は力など感じない。
黒く濁った刃こぼれが激しい1本の剣。
そして刃に絡まる白い何か。
…これは魔石にかけられたモノと同じに見える。
魔導師達が調べたが、いまだこれにどんな効果があるのかわかってはいない。
じっくり、手に取って魔剣を眺めるが何が起こったのかは分からない。
魔剣に絡まるモノに触れてみるが、特別何かを感じることもない。
礼を言って魔剣を返す。
今回の魔剣とヒビの修復が失敗した事、おそらく同じ事が起こったのだろう。
魔石と魔剣。
どちらも古代遺跡から見つかった物だ。
これが問題なのだろうか。
魔導師達が慌てている姿が視界の隅に映る。
近づくと1人の魔導師が倒れている姿。
何があったのかと聞くと術を発動中に倒れたらしい。
術の発動?
魔剣に生贄を注ぐためには、剣で切ると同時に術の発動が必要らしい。
その術を発動させていた魔導師ということだ。
ぐったりして動かない。
治療師が来たようなので場所を移動して様子を見る。
治療師が手を翳すが首をひねっている。
魔導師はまだ倒れたまま。
治療師がもう一度、治療を施しているようだが変化がない。
治療の必要がない?
何処にも問題がないということか?
しかし倒れているのだが。
少しすると魔導師が目を覚ましたようだ。
治療師がホッとしている。
周りの魔導師に責められていたからな。
これで安心だろう。
踵を返して部屋に戻ろうと歩き出す。
「なんだお前たち、ここは何処だ?俺は…」
目を覚ました魔導師が声を張り上げ叫ぶ。
その言葉に周りに静寂が訪れる。
立ち止まり彼らの様子に目を向ける。
1人の魔導師が叫んだ魔導師の腕をつかみ声をかけている。
その腕を振り払い周りを見て不信感をあらわにする魔導師。
この光景を知っている。
魔石のヒビの修復にあたった魔導師達と同じ。
…記憶のない魔導師。
魔導師の仲間なのだろう、絶望の表情をしている。
それはそうだろう、数時間前に彼以外の記憶のない魔導師はこの世から消えた。
王の命令で。
「そうか」
不意に魔石と魔剣の共通している事柄に思い至った。
確かにそうだ。
どちらも命を注がれようとしていた。
奴隷を生贄として殺す直前。
また、我々は怒りをかってしまったのか。
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