96.エンペラス国の王
-エンペラス国 王様視点-
「どうなっている!」
我の声に誰も答えようとせん。
王の我が聞いておるのに!
こやつら全員殺してやろうか。
どいつもこいつも役に立たない無能どもが。
あ~、忌々しい。
どうなっておるのだ。
森の王は死んだか弱っているかのどちらかのはず。
なのに今さら、そう今さら何だというのだ。
もう少しでこの手にすべてが落ちてくるはずだった。
…クソ!
「失礼いたします」
目の前で跪く魔導師長。
我の力によって人より優れた力を手に入れることができた果報者。
にも関わらず役に立たぬ裏切り者が。
声を震わせ話す内容に苛立ちが募る。
「ヒビの修復が不可能だと申すか」
「…はい、何度か試しましたがすべて失敗しました」
「…」
「修復にあたった魔導師達は記憶と魔法を全て忘れているようで」
「それで、その魔導師達はどうした?」
「…部屋にて様子を」
「殺せ、役に立たないモノはいらん」
「…しかし、彼ら」
「さっさと殺して来い!」
近くにいる騎士に命令を下す。
騎士たちは一瞬迷いを見せたようだがすぐに行動する。
魔導師長がなにか言いかけていたようだが、無駄に時間をかけるな。
すぐに動けない屑などここでは死に値する。
「とっとと解決しろ、これは命令だ!」
「…御意」
部屋から出る魔導師長の姿を憎々しげに見つめる。
今度失敗したら奴を使って強化するか。
しかし何が原因だ?
これまで何度も魔石の強化はしてきたが、いきなりできなくなるなど…。
ちっ忌々しい。
本当に役立たずばかりだ。
椅子の肘掛を何度もたたく。
苛立ちが収まらん。
魔石の結界が役に立たん?
ひびが直らん?
そんな事があるわけがあるか。
何か見落としがあるのだ、無能な魔導師どもが。
しかしあの時の雷、我を脅かしおって…誰がやったか調べが付いたら覚えておれ!
見落とし。
此度の事、まさかほかの国からということは。
森をカモフラージュにして何か。
いや、どの国も腑抜けばかり。
我の強国を相手にできるものなどおるものか。
…だが、調べることは必要だろう。
第2騎士団に調べさせるか。
……
ここに来るのも久しぶりだ。
目の前に並べられた奴隷。
苛立ちを晴らすには奴隷をいたぶるのが一番。
ここ数百年といろいろやり尽くしたので飽きていたが、そろそろ我の剣にも力を溜めておく。
もしかしてと言うことがあるからな。
にしてもどの奴隷も醜いモノだ。
あの頭にある耳を見るだけで汚らわしい。
我がこの世界に少しでも役立つようにしてやろう。
鞘から抜き出す魔剣の赤黒い光の何とも美しいことよ。
古代遺跡から見つけた魔剣。
魔石より力を注ぎ命の血を繰り返しささげた至高の剣の力になれるとは何とも贅沢な。
奴隷の強張る顔に笑みがこぼれる。
一気に振り下ろされる剣。
「ぅっわ」
腕に響く痛み。
何が起こった?
目を向けると剣が白い光に包まれている。
我を呼びながら走り寄る誰かに腕を抑えられる。
痛みに睨み付けると魔導師の1人が腕に治療魔法をかけているようだった。
腕を見ると血が滴り落ちている。
痛みが引いていくが…。
我が血を流すだと。
我には結界が何重にもかかっている。
その我の血を…。
何が起こった?
…剣に力を生贄を…何が起こった?
剣を見る。
すでに白い光は消えて剣は地面に横たわっている。
ふらふらと立ち上がり剣を拾う。
赤黒く輝く美しかった我の剣が、黒く濁り刃はぼろぼろ……見る影もない。
しかも、得体のしれない白い何かが、絡みついている。
何が起こった?
何が起こった?
地面に剣を叩きつける。
ビギッと音がして剣の刃の部分が折れる。
魔石と同時に見つけた魔剣。
生贄を注ぎこの世界最強の剣に成長させた。
我の手に持つにふさわしいと。
何が起こった?




