86.ある国の魔導師2
-エンペラス国 上位魔導師視点-
目の前には表情を強張らせた奴隷たちが並ぶ。
魔石のヒビの修復に必要な命。
魔石を元の状態に戻す必要があるのだから必要な儀式だ。
だが、胸に広がる何か得体のしれないモノ。
その答えをつかむことができないままこの日を迎えた。
奴隷の数は第1弾として100人、ヒビの状態如何でその数は増えるだろう。
全てがこの国で奴隷たちに強制的に産ませたモノ。
奴隷になるために産まれてきたモノたちだ。
使い捨ての戦士としてまた研究材料として、
最下層の仕事をするモノとして絶えずこの国では奴隷に強制的に産ませている。
この国ではそれが常識なのだ。
国民たちも知っているが自分たちより下の奴隷に気を使う人間などいない。
逆に生活がよくなるなら必要だと考える者の方が多い。
異議を唱えた者はすべて見せしめとして公開処刑されてきた。
今は心で何かを感じても声を上げる者はいないだろう。
この国はそういう国だ。
集められたのは15歳未満。
腕にナイフで傷をつけられ物のように魔法陣に放り込まれる。
奴隷の呪縛があるので拒絶などできない、ただ表情だけが悲壮感を漂わせる。
魔導師長が隣にくる気配を感じる。
原因の究明は時間だけが無駄に過ぎ、成果は何も出ず。
いずれ王から怒りを食らうだろう。
魔法陣が黒く光りだす。
ため息をつき部屋から出るため後ろを向く。
これから魔法陣からツタが出て1人ずつ奴隷たちを刺殺していくのだ。
そして奴隷たちを魔法陣の中に引きこむ。
今までと同じ光景が想像できる。
幾度となくみてきた光景。
足を踏み出そうとした瞬間。
白い光が部屋を襲う。
その眩しさであちらこちらで聞こえる叫び声。
何が起きたのか。
光が消えるのを待って、目が落ち着いてから周囲を見渡す。
「…何が…」
魔導師長から聞こえる声。
確かに、何が起きたのか。
魔石の周りの魔導師たちは倒れている。
奴隷たちは何が起きたのか不思議そうに周りを見渡している。
確かめたが1人として奴隷たちは命を落としてはいないようだ。
魔導師長に声をかけようとするが何かを凝視している。
視線を追って動きを止めてしまう。
魔石に得体のしれないモノが結ばれている。
今まで見たこともない形。
それが何かはわからないがただ事ではないことは理解できる。
うめく声のようなものが耳に届く。
聞こえた方に視線を向けると倒れていた魔導師たちからのようだ。
慌てて駆け寄り声をかける。
何かとても怯えた視線を向けられる。
少し戸惑っていると部屋の中の異変に気が付いた騎士たちが部屋に駆け込んできた。
その姿に少しホッとする。
騎士が指示をだし魔導師たちを移動させてくれた。
その時、魔導師たちが少しおかしかった、あとで調べなければと頭に記憶する。
奴隷たちは元の場所へ移してもらうよう手配し、とりあえず場を収める。
だが、魔石だけはどうすることもできない。
王に説明をする必要がある。
だが、何が起きたのかおそらく誰も的確な説明はできないだろう。
ただ、魔石に何かが起こったことだけがその状態からわかるだけ。
……
魔導師長の報告に真っ青になった王の顔。
そこに知らされた魔導師たちの記憶の欠如。
目を見開いた魔導師長の顔と異様な静寂が訪れた謁見の間。
この国は間違えたのだ。




