84.ダイアウルフ2 チャイ
-犬に間違われているチャイ視点-
主が収穫をゴーレムたちと行っている。
正直、不思議な光景だ。
ゴーレムは主の仕事を代わりにさせるために居るのだ。
それを主も一緒にやるなど、変わっている。
少し前まで主は少し体調が悪そうで皆が心配していた。
やはり魔力を使いすぎているのではないかと。
倒れてしまうのではと、絶えず誰かがそばで様子を見るようにした。
今の姿は以前の問題のない状態に近い。
魔力も落ち着いているのだろう。
よかった。
しかし数日前のあれには驚いた。
いきなり主自身からかなり膨大な魔力が放出されたのだ。
あれほどの量をこの目で見るとは。
量だけでなく魔力の質にも驚かされた。
濁りのない純度の高い魔力。
主には驚かされてばかりいる。
だが、あれは驚いただけでなく怖さも一緒だったが。
魔力を一気に失うと命の危険にもつながる。
まさかと一瞬頭が真っ白になった。
皆が川に集まる中平然と川から出て水を飲んでいる主。
少し考え込んでいたようだが、集まった俺たちを見て驚いていた。
住処にいる全員が集まっていたからだろう。
それから数日、狩りに行くもの以外が住処から出ていかない。
やはり心配なのだ。
だが、少しずつ前の日常に戻りつつある。
主も体調が悪くなる前の様子に戻っている。
結界内を流れる魔力はいつも通り穏やかで優しい、問題ないと言える。
もう一度主を見る、もう大丈夫なのだろう。
おそらく結界を広げるなど、大量に魔力を必要とすることがあったためにバランスが崩れたのだろう。
魔力の大量放出の原因はわからないが、あれでバランスが整ったのなら必要だったのかもしれない。
まぁ主が今、ここで元気なら問題ない。
……
今日はコアさんと狩りに行く。
いつも通り数匹の獲物をさくっと狩って帰路に就く。
「主からイメージが送られてこない」
主と最初に出会ったのはコアさんだ。
コアさんの次があの洞窟に居たコアさんの仲間と俺。
最初の頃、主からイメージが数度送られてきた。
主の言葉を俺たちは理解できず、また主も俺たちの言葉を理解できなかった。
だからだろう主から重要なことについてなのかイメージで伝えられたことがあった。
それが日に日になくなり、今では手振りでの会話に変わった。
不満ではないが。
「主の優しさだろう、無理やり頭にイメージを送るのは送られた側に負担がある」
そうだ。
確かに不意にイメージが送られると、負担というかダメージがあるが。
それでもよかったのだが。
「チャイ、つながりが切れたわけではないぞ」
…コアさんに読まれている。
一方通行のイメージでも強いつながりを感じていたのだ。
それがなくなって寂しいというか悲しいというか。
「わかっているが」
「まぁ、確かに少し寂しいが」
コアさんは喉の奥で笑って獲物を空中に浮かせたまま走り出す。
それを追いながらも、思いが頭を離れない。




