81.ある国の魔導師
-エンペラス国 上位魔導師視点-
目の前にある巨大な魔石。
その魔石に入った縦のヒビ。
修復せよとの命令が下ったため、魔導師たちは準備を始めた。
私はその修復準備に参加せず、原因の究明。
魔導師たちのトップの存在である魔導師長。
魔導師長が王にもたらした1つの現実。
魔石の結界は破れていない、また調べた結果歪みも穴もない状態。
その状態で結界内への攻撃が行われたことを。
その報告を挙げた時の王の顔。
信じることを拒否したいそんな雰囲気が全身からにじみ出ていた。
だが現実なのだ。
どう調べても結界には何の問題もなかった。
数日後に原因の究明を最優先にする命令が下された。
魔導師長の顔に苦渋がにじみでる。
補佐をする私もその難しさがわかる。
どう調べろと言うのか。
全くどこから手を付けていいのかがわからない。
攻撃が届く以外はすべてが正常なのだ。
おかしな所がないのにどうやって調べるのか。
魔石を見る、自業自得なのかもしれないと心の隅で思う。
魔石を強化するためにどれだけの命が使われてきたか。
命令とはいえ、実行したのは魔導師だ。
そう、魔導師長とその補佐たちなのだ。
王は自身の寿命を延ばす前に魔導師たちを実験に使った。
魔導師長と補佐3人。
寿命を延ばすために殺されたモノたち。
その数を正確に知っているのはこの4人だけだ。
そして魔石に注がれた命の数がどれほどかも。
成功するまでにどれほどの命が無駄に散らされたのかも。
今でも思い出す。
1人の少女、最後の最後まで私の顔を睨み付け、目をそらすことはしなかった。
あの当時、寿命を延ばすことに成功し、自分が人より優れたものになれたと喜んだ。
だから…少女の目が気に入らず何度も殴りつけてしまった。
それでも目をそらさず。
それを見て優越感に浸った当時。
思ったことは1つ、強いことがすべてなのだと。
あの日からすべてが順調に過ぎてきた。
立ち止まることもなく多くの死を積み上げた。
だが、今はあの少女の目そして叫んだ言葉が頭からはなれない。
「世界はお前たちを許さない」
頭からはなれない言葉が口からこぼれ落ちる。
隣の魔導師の仲間がびくっと震えるのがわかる。
補佐としてここまで一緒に来た1人だ。
森の王は魔石の力で抑えられたはず。
いや、抑えきった。
ならば今、この国を攻撃しているのは森の王ではない。
その上、もしくはもっと上の存在がいたということになる。
森はこの世界の中心、それをしのぐ存在。
おそらく我が国の王が求めた存在が、すでに居たのだ。
世界の王と呼ばれる存在が。
もしくは森の王たちが世界を守るために呼び寄せたか。
この国は世界の王の怒りをかった。
してきたことの報いとして。
捨てたはずの罪悪感がひしひしと心を蝕む。
王に仕えるには必要のなかったモノ、あると邪魔になるモノ。
だから捨てたはずだった。
だが、おそらく捨ててはダメだったのだろう。
魔石を見つめる。
この世界で一番、強固な存在だったはずのモノ。
まさかこれほどのひびが入ってしまうなど。
このひびを修復するために、またどれだけの命がささげられるのか。
…世界の王はそれを許すか?




