76.ガルム アイ
-犬で間違いないアイ視点-
長い時、見えない敵と戦い続けた。
仲間が飲み込まれて襲いかかってきた時、自分を見失いかけた時。
その都度何度も最期と覚悟しながら生きながらえてきた。
それでも限界が見え始めた時、周りを見ると仲間の数はかなり減りあとわずか。
少しでも休める場所を探して森をさまよい、1つの洞窟にたどり着いた。
王の誰かが作ったであろう場所で、最後の最後まで魔眼と闘おうと仲間と寄り添う。
どれほどの日が過ぎたのか不意に心地よい風が洞窟内を流れる。
飲み込まれそうになっていた意識が解放されふっと軽くなる。
何が起きたのか。
周りを見るが洞窟の中ではわからない。
今の森では1つの変化が恐ろしいことにつながるかも知れないと緊張する。
何とか立ち上がり警戒をしているともう一度風が流れる。
魔力を含んだ風。
心地よく体の隅々まで癒すような優しい魔力。
体から魔眼の力が完全に消え去る。
他の仲間も同じようで、少し軽くなった体に驚いている。
ずいぶん体力を奪われているようで、立ち上がることはできるが動くことがままならない。
森がどうなったのか確かめたいが、今の状態では無理だと判断。
もう少し体力を戻してから森を確認しようと仲間と確かめ合う。
……
最初の変化から何日過ぎたのか、あまりに体力を奪われすぎてなかなか動けない。
それでも何とか森を確認すれば、森に溢れていた魔眼の力が消えていた。
しかも、あの日の癒してくれた魔力が森全体を守っていることがわかる。
脅威は去ったと考えるのは早すぎるかもしれないが、それでもホッとする。
仲間の数匹がすでに限界に近い。
何か獲物を狩ってきたいが体力的に今は無理だ。
ここ数日は癒しの魔力が風に乗って届くようになった。
その魔力のおかげで僅かずつだが体力が戻りつつある。
あと少し体力が戻れば最低でも小さなモノは狩れるだろう。
……
小さい獲物を狩ることができた。
まさかたったそれだけでぼろぼろになるとは思わなかったが。
癒しの風に感謝だ。
あれのおかげで治りが早く体力の戻りもいい。
まだまだ完全ではないため自分を癒せないのがつらい。
数日の休憩日。
洞窟の入り口で音がする。
動ける仲間と警戒をしながら様子を見る。
王の一角のフェンリル。
その横はダイアウルフ?
なぜ、種の違うものたちが?
…あれはアルメアレニエ?
糸を持つアルメアレニエなど聞いたことがないが。
感じる気配はアルメアレニエだ。
人間?
なぜ、人間が!
人間は敵だ!
威嚇するとフェンリルとダイアウルフが怒りを露わにする。
ダイアウルフの姿に驚いた、巨大化?
人間に意識を奪われたがここに居るのは俺たちより強者ばかり。
降伏して様子を見る。
人間が近づいてくる。
恐怖を感じ襲いかかりそうになるが、フェンリルが守るように殺気を送って動きを封じてくる。
動けないでいると魔力が4度体を通り過ぎる。
その魔力に驚く。
癒しの魔力と同じ。
魔力にはそれぞれ特徴が出るため同じではない。
確かにこの人間から、癒しと魔眼を払いのけてくれた魔力と同じものを感じる。
そして一気に体から抜けた体の不調。
そうかこの人が、我々を救ってくれた魔力の持ち主なのか。
フェンリルが仕え、ダイアウルフが限界突破の力を得て、
アルメアレニエが新たな進化をするほどの魔力を持つ主。
自然と尻尾が振れてしまう。




