59..変わる。
無表情になったアルギリスを見る。
どうやら彼の何かに触れたようだ。
今までとは比べものにならないほどの怒りを感じる。
「守る? 信じる?……ぎゃははははっ」
アルギリスは、そう呟くと少し黙り込み次の瞬間笑い出した。
その異様な笑い方に、傍にいた2柱の神が体を引くが見えた。
今のアルギリスは力が不安定になっている。
近くにいるのは危険だ。
3柱を結界で包み、風魔法でゆっくり移動させる。
それに気付いた2柱の視線を感じるが、無視をする。
アルギリスに、移動させた事を気付かせるわけにはいかない。
「愚かだな。おそらく多くの者がお前に従っただろう。その力に惹かれてな」
力に惹かれて?
まぁ、そう言われればそうかな。
コア達が最初から俺に好意的だったのは、力が強かったからだろう。
「あははっ、それはただ力に屈服していただけだ。お前の事を本当に慕っていたわけでは無い」
それはどうかな?
確かに俺の力が強い事で、始まった関係かもしれない。
けど、今ではいい関係を築けたと思っている。
「お前が消えたら、きっと呪界では争いが起こるだろう。お前の後釜を狙った者達によってな。そしてお前が守りたかった者達は、呪界を壊すだろう。何が『守ってくれると信じている』だ。馬鹿々々しい」
「争う事は、無いと思う」
だって、俺の立場になれる者は今のところヒカルだけ。
呪神達はいるけど、まだそれほど強い力を持っていないんだよな。
「あはは。お前は本当に愚かだな。俺は今までに多くの神達を見てきた。その全ての神が、上の者が消えた瞬間からその地位欲しさに何でもした。そう、本当に何でもだ!」
「それはアルギリスが神国を狂わせたからだろう? 忘れたのか?」
「ふふっ、昔からだよ」
「昔から?」
「そうだ。神達は、俺を信じると言いながら裏切った」
「裏切ったねぇ」
「俺が強くしてやると言ったのに、ちゃんと成功体も見せてやったのに、奴等は『それは駄目だ』と俺を非難し排除しようとした」
それは、自業自得なのでは?
それに、成功体というのは自分の子供の事か?
「ありえない」
自分の子を実験体にして、成功体と言って見せびらかしたのか?
「そうだろう。奴等は、俺の功績を妬んだんだ。だから、俺の事を創造神に進言しようとした奴等を捕まえてやった」
俺の言った呟きを良い方に解釈したアルギリスは、勝手に不愉快な話を続けていく。
これ、聞いておいた方がいいのかな?
あまり、聞きたくないんだけど。
「クククッ、捕まった時の奴等の顔。最高にいい気分だったよ」
異空間に俺の呪神力が生き渡ったから、アルギリスの神力が溜まり始めたな。
あれ?
アルギリスの力は神力だよな?
微かにだけど、違和感がある。
何だ?
「謝れば許してやったのに、奴等は悲壮な表情で俺を非難し続けた。だから、神力を奪ってやったんだ。そして苦しむ奴等の前で、俺に賛同した者達に売りさばいてやった。あの時の絶望した表情は、本当に面白かった。それに、馬鹿な奴等でもいい実験体になったしな」
本当に、屑だな。
「多くの神達は、俺の事を支持した。それなのに、それに危機を感じた創造神が、俺の功績を非難した。『命を代償にしてはいけない』と。代償? 違う。彼等は弱く、役立たずだった。それを、俺が意味のある存在にしてやったんだ!」
あれっ、ちょっと待った。
神と呼ばれ出したのは、アルギリスが死んだ後だよな?
「力の入れ替え」が頻繁に行われていた時は「光の民」と呼ばれていたはずだ。
アルギリスは「光の民」の中でも力が強く、特別な存在と崇められていたけど「神」とは呼ばれていない。
それなのに創造神がいたのか?
「アルギリス。その時はまだ『光の民』と呼ばれている時代では?」
「違う。我は生まれた時から『神』だ」
オウ魔界王の調べた事が、間違っていたのか?
まぁ、その可能性はあるかな。
かなり昔の事だから。
でも、俺はオウ魔界王を信じる。
「違うだろう? アルギリスは光の民だったはずだ。神ではない」
「違う! 我は生まれた時から、偉大なる神だ!」
アルギリスから膨大な炎が向かって来る。
それを手で払う。
ぼわぁ。
壁にぶつかった炎が壁を伝う。
そして、どんどん火が広がって行く。
「水」
壁を燃やしている炎に、水をぶつけた。
バコバコ、バタン、バタン、バタン。
「あっ……」
魂が消滅する影響だな。
力の制御が全く出来ない。
まさか、火を消すために出した水が壁を攻撃して破壊してしまうとは。
「うん。仕方ない」
制御が出来ないのは消滅のせいで、俺のせいでは無い。
たぶん。
あっ、右手の小指が……。
「よしっ。終わらせるか」
自慢話を聞く時間は無いみたいだからな。
「アルギリス。君は神では無かったよ。だって、君は――」
「うるさい! 人間の分際で我に歯向かうな! はぁはぁはぁ」
興奮したのか、アルギリスの呼吸が荒くなる。
そして体内で揺れる、彼の神力。
違和感が強くなった。
彼の力をもう少し調べたいな。
あっ、結界に吸収させよう。
「吸収する結界」
あっ、攻撃してもらわないと。
「その人間ごときに負けているけどな、アルギリスは」
「死ね~」
俺の言葉に苛立ったアルギリスは一気に力を解放し、拳台の神力を大量にぶつけてきた。
手で払いそうになったのを我慢して、ジッと待つ。
「危ない」
後ろから聞こえた声に、振り向いた。
「えっ!」
驚いた!
2柱だと思って振り返ったら、3柱になっていた。
無事に起きていたんだな、良かった。
結界がアルギリスの攻撃を次々と吸収していく。
そして、俺の持つ呪力と反応した。
「あぁ、だから違和感を覚えたのか」
そう言えば、彼もだったな。
もう一度振り返り、目が覚めた神を見る。
「くそっ」
攻撃が効かないと分かったアルギリスは、どこからか先のとがった棒?を持ち出し、手に持つと、俺に向かって来た。
だが、結界に防がれる。
ぶわっ。
「うわっ」
棒のような物が結界に触れた瞬間、黒い煙になって消えた。
「捕まえた」
そんなつもりは無かったけど、近くに来たので右手でアルギリスを掴む。
良かった、まだ指がある!
無くなっていたら、捕まえられなかったからな。
「ぐっ、放せ!」
「どうやっているんだ?」
俺の言葉に、戸惑った表情をするアルギリス。
「呪われたら黒くなるのに、どうしてなっていないのか知りたいんだけど」
息を吞み、焦った様子を見せるアルギリス。
彼の神力に感じた違和感。
その正体は、呪いの残骸。
それが彼の神力に混ざり込んでいた。
俺の中の呪力がふわっと膨れ上がるのを感じる。
制御したいけど無理だし、放置でいいよな。
バチッ。
「うわっ」
「うぁぁあああ」
俺の手を振りほどくと、アルギリスは膝をついて頭を抱える。
それに首を傾げる。
静電気がバチッとしたぐらいで、そこまで痛くないよな?
「がぁぁぁあ」
えっ?
アルギリスはその場で体を大きく揺らすと、大声をあげた。
数秒後、アルギリスの見た目が変わって行くので目を見開く。
アルギリスの綺麗な肌は、どんどん黒く変色して行く。
髪はぼろぼろと落ち、体はどんどん痩せて行く。
あまりの変容に、言葉が出ない。
「何があったんだ?」
横に視線を向けると、俺にこの場所を教えてくれた神がいた。
「呪いにかかっていたんだよ。それをどうやって隠していたのかは、分からないけど。それで……俺の力に反応して暴走した? 良く分からないが、アルギリスの見た目が変わった」
ぎょろっとした目が俺を見る。
それに嫌な予感がする。




