57.アルギリスは?
最初の場所に戻ると、右の廊下を進む。
「この異空間、異様に広いな。しかも廊下がまっ白だから、同じ所をぐるぐる歩いていても気付かないかもしれない」
魔法の気配は無いから、そんな事は無いと思うけど不安だ。
「あっ」
廊下が二手に分かれている。
真っすぐ行くか、左に曲がるか。
どっちにアルギリスがいるんだろう?
左手を見る。
人差し指と中指まで消えてしまったな。
「アルギリスを倒すまでは、消滅しないでくれよ」
あれ?
これは神達の気配か?
廊下を真っすぐ行った先だな。
「複数だな」
でも、何かおかしい。
異様に怯えていないか?
俺の気配に気付いた?
いや、そんな感じでは無いな。
「とりあえず、アルギリスの居場所をダメもとで聞いてみるか」
まぁ、教えてくれる事は無いだろうけど。
アルギリスについて、何か分かるかもしれない。
「とりあえず、会ってみようかな」
廊下を真っすぐ進もうと足を前に出すと、ふわっと馴染みの力を感じた。
「これは、呪力だな」
かなり弱いため、この異空間に満ちている神力で分かりにくいが、確かに呪力だった。
「まだ何処かに、さっきの様な呪力の塊があるのか?」
呪力の塊があるなら、そこに囚われている者達を助けたい。
「何処だ?」
この異空間に、どういう魔法が掛かっているのか分からなかったため、呪神力をセーブしてきたけど解放しようかな。
おそらく俺の呪神力に、呪力が反応するはずだ。
ただ、俺の呪神力とアルギリスの神力がどう反応するか分からないんだよな。
「異空間が崩壊する事は無いと思うけど、まさかの事態もあるしな。……でも、時間が無い」
よしっ、やろう。
崩壊したら……崩壊した時に考えよう。
いや、その時は逃げよう。
胸に手を置き、呪神力を異空間に一気に解放する。
まぁ、いつもの垂れ流し状態だ。
「あっ」
廊下を真っすぐに行った先。
複数いる神達の気配が、慌ただしく動くのが分かった。
こっちに来るかな?
……あれ?
気配が消えて行く。
まぁ、完全に消えていないから分かるけど。
「攻撃するために気配を消したのかな?」
でも、こっちではなく俺から離れて行っていないか?
もしかして、逃げいるのだろうか?
「襲って来ないなら、放置で良いか」
まさか、逃げるとは思いもしなかった。
「あっ、見つけた」
異空間に流した呪神力が反応した。
左に曲がった廊下の先を見る。
どうやらこっちに呪力の塊がある様だ。
そして、その近くに強い力を持つ者がいる。
人数にして4人。
いや、3人?
1人は……よく、分からないな。
「アルギリスがいてくれるといいけど」
左に曲がり廊下を進む。
どんどん近付いて来る3人の気配に、緊張してくる。
「ふぅ」
一度立ち止まり、深呼吸をする。
アルギリスを倒すという事は、捕まえるか殺すという事だ。
「殺すか」
捕まえる事が出来たら、一番いい。
でも、殺す事になる可能性もある。
アルギリスを倒すと決めた時に、覚悟したつもりだった。
でも、やはり怖い物だな。
「殺す事になっても、アルギリスを止める」
アルギリスを倒さなければ、また世界の脅威になるだろう。
だから、俺が止める。
皆が生きる世界に、不安要素を残したくないからな。
「どれだけ、アルギリスが強くても必ず倒す」
気持ちを振るい立たせて、呪神力が反応した場所に向かう。
ある扉の前で止まると息を整え、取っ手を回し部屋の中に入った。
「えっ?」
これは、どういう状況なんだろう?
部屋に入って見えた光景に、足が止まる。
まさか3人、いや4人か。
4人のうち2人が死にかけているなんて、想像もしていなかったよ。
神力の強さが良く分からなかった1人は……死にかけているうちの1人だな。
「何者だ?」
怯えた様子で俺に声を掛ける人物に視線を向ける。
深くフードを被っているため、顔は見えないが年配の男性の様だ。
「俺は呪界から来た呪界王だ」
チラッとフードの男性の奥を見る。
ベットに眠る男性。
その辺りから、呪力を感じる。
でも、眠る男性からは強い神力を感じる。
では、呪力は何処から感じるんだ?
「くっ」
苦しそうな声に視線を向けると、折り重なって倒れている男性の1人がこちらに視線を向けた。
「あっ」
何かを伝えたいみたいだが、怪我が酷いのか声が出ていない。
早く治療をした方がよさそうだな。
2人とも息はあるが、かなり危険な状態みたいだから。
「我々を、お助け下さい」
「はっ?」
フードの男性を見る。
「その2人が、アルギリス様に攻撃を!」
眠っている男性を守る様に立つフードの男性。
つまり、眠っているのがアルギリスという事か。
「俺はアルギリスを倒しに来た者だから、助けるのは無理だな」
悪いけど、アルギリスを助ける気は全く無い。
でも眠っているなら、捕まえられるな。
ただ、あの眠りは普通の眠りでは無いらしい。
こんなに騒いでも起きてこないんだから。
あれがアルギリスかと、眠っている男性を見る。
なんだろう。
何かが、おかしい気がする。
本当に、眠っている男性がアルギリスなのだろうか?
それぞれの力を調べてみるか。
4人の神力を、呪神力で包み込んで……。
「倒す……では彼に利用されて来た者達はお助け下しさい」
「んっ?」
フードを被った男性の言葉に、首を傾げる。
「利用?」
「はい。アルギリスは人質を取り、我々に命令をしました。『大切な者を助けたたいなら、指示に従え』と」
だから、神達は怯えていたのか?
「我々はいつの間にか、アルギリスに歯向かえない様に魔法を掛けられ、これまでずっと……」
ん~。
この部屋を見渡す。
この部屋も、神力が満ちている。
かなり強い神力だ。
そう、本当に凄く強い神力だ。
広い異空間を、ずっと維持するだけの力だからな。
ベッドで眠る男性を見る。
彼から感じる力は、確かに強い。
強いけど、凄く強いわけではない。
あぁおかしいのは、それだ。
彼がアルギリスだとしたら、この異空間を維持する事は出来ない。
なぜなら、眠っている男性の力では弱すぎるから。
「あっ……なるほど」
アルギリスの神力が満ちたこの異空間では、この部屋にいる3柱の神力にアルギリスの神力が混ざり込んでいるようで、調べても強い方の神力の情報しか分からなかった。
でも、アルギリスの神力だけを排除したら、残った神力を調べる事が出来た。
そして分かった事実に、頷く。
「確かに、人質を取っているみたいだな」
「えっ?」
折り重なっている2人の男性に近付くと手を翳し、少し迷う。
神だから、神力だけでヒールを掛けた方がいいのだろうか?
それとも呪神力が混ざった力でも大丈夫なんだろうか?
「ヒール」
呪神力を含んだ全てが混ざった力で彼等を治療する。
力のせいで後遺症が残ったら、申し訳ないが許してくれ。
瀕死の状態だったから、神力だけだと不安だったんだ。
「なぜ?」
フードの男性をチラッと見る。
顔が見えないのでどんな表情をしているのか分からないが、声から戸惑っているのが伝わって来た。
おそらく治るわけが無いと思ったんだろうな。
だって「ヒール」を掛けた時に、この異空間の神力に邪魔されたから。
まぁ、俺の方が強い力を持っていたから邪魔する力を弾き飛ばしたけど。
「……あなたは」
上に被さっていた男性が目を覚ます。
そして、俺を見て涙を流し始めた。
それに少し戸惑う。
なぜ、涙?
「ぐっ」
下敷きになっている男性が目を覚ましたのか、苦しそうに声を出した。
「あっ」
泣いている男性を浮かせ、下敷きになっていた男性の横に移動させる。
「悪い、ヒールの前にやるべきだったな」
泣いていた男性が、下敷きになっていた男性に申し訳なさそうな表情を向ける。
それを見た、男性が小さく笑った。
もう、この2人はもう大丈夫だ。
流れた血が多いせいで今は動けないが、暫くすれば動けるまで回復するだろう。
「さて」
フードを被った男性、アルギリスに笑顔を向ける。
「倒しに来たよ。反抗せずに捕まってくれると助かるんだけど」
時間も無いし、とっとと終わらせよう。
左手の肘から先が消えちゃったからね。




