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異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
後片付けまでしっかりと
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54.大好きです。

―一つ目リーダー視点―


いつもより随分と早く主の起き出す気配に、部屋に向かいます。

そしていつものように扉を叩こうとして、なぜか手が止まってしまいました。

ぐっと手を握り、深呼吸をします。

よしっ、大丈夫です。


コンコンコン。


「どうぞ」


主の部屋はとてもシンプルで、ベッドとソファだけです。

服は、三つ目達がその日に着る物を持って来るので部屋にはありません。


「おはよう」


主を見ると、いつもの優しい笑顔で私を見ています。

その笑顔を見ると心がぽかぽかと温かくなるのに、今日は胸がギュッと痛くなりました。


「おはようございます」


いつもなら、今日の予定を確認します。

ですが、今日は聞きません。

なぜなら主が何をしようとしているのか、私を含め仲間達は全員が知っていますから。


主は昨日、時間をかけて家や庭、川や畑、果樹園を。

そして地下神殿とそこから繋がる空間をゆっくりと巡りました。

夕方には創造神と魔界王に会い、夕飯時には皆に声をかけ最後には「ありがとう」と笑顔で伝えていました。

だから、全員が気付いたのです。

今日、主は戦いに行くのだと、そしてもう帰ってくる事は無いのかもしれないと。


ずっと私には不思議に思う事があります。

主は、呪神になる前も命が危険にさらされる事がありました。

でも、何とか回避しようとしています。

そう、生きるために奮闘していました。


でも今回は、少し迷った様子はありましたが受け入れてしまいました。

それがどうしてなのか、どんなに考えても私には分からないのです。

どうして、もっと頑張ってくれないのでしょうか?

どうして、もっと我々を頼ってくれないのでしょうか?


「どうしたんだ?」


「あっ」


いつの間にか下を向いていたようで、顔を上げると主が心配そうに私を見ています。

主を見ていると、「どうして、生きるために頑張ってくれないのですか?」と、聞いてしまいそうです。


でも我慢しなければなりません。

主の決めた事です。

だから、どんなに分からなくても聞いては……。


「どうして、生きる事を諦めたのですか? どうして我々をもっと頼ってくれないのですか?」


やっぱり無理です。


主は「消滅」を受け入れましたが、私は納得出来ません。

「死」なら、主の生まれ変わりを待ちました。

でも「消滅」はその希望すらありません。

だから、どうしても納得なんて出来ないんです。


「諦めたか、か。それについてはごめん。でも、皆の事は頼りにしているよ」


「嘘です。頼ってくれません」


こんな事を言うつもりはありませんでした。

主が我々を信じ、頼ってくれている事を知っているから。

でも……。


「本当に、もの凄く頼っているんだよ」


「……」


「頼りになる皆がいるから、俺がいなくなっても任せられると信じられたから。だから俺は安心して戦いに行ける」


戦いになんて行って欲しくないです。

でも、きっと全ての世界のためには、解決しないと駄目な問題なんでしょう。


「私は……我々は主の力になれていますか?」


「もちろん。ゴーレム……岩人形達は俺にとって、最強の味方だ」


昔の呼び方ですね。

ゴーレムではなく岩人形。

懐かしいです。


「そしてそれは、これからも変わらない」


「これからも変わらない」ですか?

主は、主がいなくなっても我々が皆を支えると信じているのですね。

まぁ、当然です。

主が残して全てを、我々が絶対に守ります。


本当は、ちゃんと分かっています。


「主は幸せですか?」


「あぁ、凄く幸せだよ。最高の仲間達に出会え、そして任せられるんだから」


主を見ると、とても優しい笑みが浮かんでいます。

痛いと訴える胸が、少しだけ温かくなったような気がします。


「まぁ、まだアルギリスの問題が残っているけどな。巨大な魔法でもぶち込めば何とかなるだろう」


主の言葉に、小さく笑ってしまいます。

巨大な魔法ですか?

魔法の勉強はしたはずなのに、最後まで主の魔法は規格外なんでしょうね。


「主なら、間違いなく倒せます」


主の表情は晴れやかで、戦いに向かう恐怖や戸惑いは無いのでしょう。

そして、消滅する事にも怖さは感じていないようです。

主の心が穏やかなら、もう何も言いません。


「あっ、これって妹が言っていた『無双』なのかな?」


主の言葉に首を傾げます。


主の会話にときどき登場する「妹さん」。

主と血の繋がった家族です。

いったい、どんな方なのでしょうか?


そういえば、アイオン神に頼めば家族の様子を聞けたはずです。

でも主が、彼女に家族について聞いた事がありません。

どうしてでしょうか?


「残して来た家族について、どうしてアイオン神に聞かなかったのですか?」


「あぁ、それは……勇気が無かったからだよ」


主の意外な答えに、少し驚いてしまいます。


「勇気ですか?」


「うん。でも……聞けばよかったかな」


主を見ると、少しだけ後悔した様子でした。

でも、すぐにその表情は消え、私を見て笑いました。


「リーダー。今から俺、無双してくるよ」


えっとそれは、もの凄い力をふるうという事でしょうか?

正直、今までもかなり無双してきたと思うのですが。


「勇者になって無双。うん、妹の言う『俺つえぇ』ってやつだな?」


今までも「主はつえぇ」という状態だったと思うのですが。

まぁ、主ですからね。

えぇ、主ですから。


「リーダー。皆を頼むな」


行ってしまうのですね。


「はい。皆をしっかり守ります」


「リーダーがいてくれて良かった。皆も、ありがとう」


主は私に声を掛けると、上を見て片手を上げて笑顔になります。

そして、ふわっと呪神力が大きく揺れると主の姿がスッと消えて……行ってしまいました。


「……」


主、私も一緒に行きたかったです。

でも、主が作ったこの世界を託された者として、ここに残って皆を守ります。

ですが、胸がもの凄く痛いです。

私は岩人形です。

本来なら、痛む胸など無いはずですが、主の作った我々には痛む胸があります。

今この時だけは、それがとてもつらいです。


「リーダー」


私を呼ぶ声に視線を向けると、ヒカル殿がいました。

彼は私の傍に来ると、ギュッと抱きしめてくれます。


「見送りを、ありがとう」


「……」


「はい」と返事をしたいですが、どうしてでしょう。

声が出ません。

しっかりしなければと思うのですが、駄目です。

今は、駄目です。


「主……」


主、私はあなたが大好きです。

これからもずっと、ずっと大好きです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何度読んでも泣いてしまう…。 なんなら開いた時点で目が潤んでしまうよ。 リーダー大好き。
[気になる点] 「もちろん。ゴーレム……岩人形達は俺にとって、最強の味方だ」 昔の呼び方ですね。 ゴーレムではなく岩人形。 懐かしいです。 目次が100までしか見れないので、どこか探せないけと…
[一言] リーダーが涙を流せない代わりかのように涙が止まらず…… 翔にも呪界の未来を見守り続けて欲しいし、皆にも寂しい思いをして欲しくないと、どうしても感じてしまいますね(;_;) 皆に笑顔で「ただい…
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