53.3柱のお茶会。
俺と創造神、オウ魔界王の力を合わせて異空間を作る。
そして、出来た異空間にテーブルとソファを出す。
リーダーが用意してくれたお茶とお菓子をテーブルに置いて、お茶会の準備完成。
「完璧だな。どうぞ座って。お菓子は俺のお薦めだ」
2柱に椅子を勧めると、オウ魔界王は椅子に座りお菓子を1つ食べた。
早いな。
「直接会うのは久しぶりだな。1週間前にも聞いたが元気か? これ、甘さがちょうどいい。うまいな」
2つ目のお菓子を食べるオウ魔界王を見て、笑ってしまう。
「元気だ。果実を使った焼き菓子だよ。それより、オウ魔界王は寝不足か?」
元気そうなのに、目の下にある隈が気になる。
チラッと俺を見たオウ魔界王は、お菓子がかなり気に入ったのか3つ目、4つ目と食べていく。
こんなに気に入ってくれるとは、ビックリだな。
「あぁ、命花の研究が楽しくてな。魔界王としての仕事が終わってからだから、寝る時間が無いんだ。ここ7日ほど」
「いや、寝ないと駄目だろう」
7日!
ありえない。
「命花の花が弾けたから、それを調べたくて」
研究好きは分かるけど、さすがに7日は駄目だな。
「睡眠は大事だぞ」
「ははっ。ゴルア魔神と同じ事を言うな」
「彼がオウ魔界王を心配しているからだろう」
「それはありがたいんだが、最近のゴルア魔神は小言が多くなってきた。あれは、どうにか出来ないかな?」
オウ魔界王の言葉に、呆れた表情になってしまう。
「注意をしても無視をするからじゃないか? だから何度も何度も言う事になるんだ」
「えっ?」
俺の言葉に驚いた表情になるオウ魔界王。
どうして無視した事がバレたんだと、思っているんだろうな。
「ゴルア魔神を安心させれば、小言も減るかもな」
俺の言葉に、眉間に皺を寄せるオウ魔界王。
真剣に考えているのは、研究が続けられる方法を考えているからだろうな。
本当に研究が好き過ぎるんだから。
チラッと、もう1柱の神。
創造神に視線を向ける。
ここに来てから、無言なのが気になる。
あぁ、この表情は。
俺が自分のために決めた事なのに、もの凄く罪悪感を覚えているんだな。
馬鹿だな、気にしなくていいのに。
「創造神」
「すまない」
俺の言葉に、頭を深く下げる創造神。
オウ魔界王が、そんな彼の肩に手を置いた。
「顔を上げろ、創造神」
「オウ魔界王、でも……7」
顔を上げた彼は、泣くのを我慢している様に顔を歪ませている。
その表情に、つい笑みがこぼれた。
「全く……」
気にしなくてもいいと言っても、駄目だろうな。
罪悪感を覚える必要が無いと言っても、同じ事。
さて、どう声を掛けるのは正解だろう?
「本当は俺が……俺が解決しなければならない問題だから」
そうかな?
出来る者がすればいいんじゃないか?
「呪界王に、全てを背負わせてしまった」
「誰かに薦められたわけでも、押し付けられたわけでも無いので、『背負わせて』と言う言い方は正しくないかな。俺が自分で決めたんだから、背負ったが正解」
俺の言葉に、戸惑った表情をする創造神。
「俺が自分で決めたんだよ。俺がアルギリスを倒すと」
「……そうかもしれないが。でも、神国がアルギリスを倒す事が出来れば、呪界王が自ら動く事は無かった。それに、そもそも神が愚かな事をしなければ呪界王が……」
その後に続くのは「消滅する事も無かった」かな。
もしくは「勇者召喚に巻き込まれる事も無かった」かな。
確かにそうだな。
でも、もうそれは言ってもしょうがない事だ。
創造神の視線が俺の左腕に向く。
アイオン神から、しっかり報告は上がっているんだな。
「創造神。アルギリスを倒すのは俺のためなんだ」
「えっ?」
不思議な表情で俺を見る創造神。
「俺が安心するためなんだよ」
アルギリスを残してい消滅したら、呪界の事や仲間の事が気になってしまう。
消滅すれば、そんな感情も無くなるだろう。
でも、消滅する寸前まで、心配で、心配で落ち着かないだろう。
だから、動けるうちにアルギリスを倒すのは、俺が安心するためなんだ。
倒すための魔法で、俺の消滅が早まる事になったとしても。
消滅を知って怖いと思った事もある。
腕の痛みに恐怖を感じた事もある。
でも、今はそんな感情が一切湧かない。
それも何処かおかしいのかもしれない。
でも、今はそれに感謝だ。
負の感情に囚われている時間など、俺には無い。
「安心?」
「そうだ」
安心して消滅するためだと言ったら、気にするんだろうな。
「アルギリスを倒すのは、俺が安心したいからだ」
俺の言葉にオウ魔界王が、悲し気に笑ったのが見えた。
「分かった。……呪界王、ありがとう」
「どういたしまして」
ぎこちないが笑みを見せる創造神。
少しでも、彼の心に傷が残らなければいい。
3柱でお茶やお菓子を楽しみながら、ゆったりと過ごす。
そういえば、このメンバーでゆっくり過ごすのは初めだな。
「あっ、そうだ。2柱に相談があったんだ」
創造神の言葉に、視線を向ける。
「神々を監視する5柱と言う組織が神国にはあるんだ。神国に住む全て神を強さで評価した序列とは別の物なんだけど、この組織が神国に必要だと思うか?」
創造神の言葉に、首を傾げる。
神達の監視は必要だと思うけど、ん~難しいな。
「その存在がしっかり機能しているなら必要。それ以外だったら、不必要だな」
あぁ、確かにそうだな。
機能していない組織なら、無い方がいいだろう。
「機能している……いや、微妙な状態かな?」
「監視する5柱はどうやって決めているんだ?」
オウ魔界王の言葉に、創造神の眉間に皺が寄る。
「神国序列の上位にいる神達なんだ。神の暴走を抑える必要があるから、問題が無ければ……1位から5位の神が、監視する5柱となる」
あぁ、その1位って……。
「監視する神が、一番暴走したんだな」
「……うん」
情けない表情をする創造神。
それを見たオウ魔界王が、少し困った表情をする。
でも、1つ頷くと創造神に視線を向けた。
「はっきり言うが、今の監視する組織は潰した方がいいかもしれないな」
「やっぱりそうだよな」
はぁと溜め息を吐く創造神。
「ただ監視する組織は必要だと思う。神を監視する……神族?」
「それは無理だ。力の差があり過ぎる」
オウ魔界王の言葉に、創造神が首を横に振る。
「呪界王の所はどうするんだ?」
オウ魔界王が俺を見る。
「龍達に任せた」
俺の言葉に、創造神が驚いた表情をした。
「龍と言う事は神獣?」
「あぁ、呪界にいる龍は呪神ぐらい強いから」
神国の龍より強いそうだ。
ロープが教えてくれた。
「そういえば、呪界に住む龍は異様な力を持っていたな」
そうらしい。
「神獣か。でも神国の神獣は神より弱い。監視してもらうなら、神獣を強くして」
創造神が、ぶつぶつと独り言を呟く。
それを見ながら、ゆっくりとお菓子を楽しむ。
「よしっ。神獣に頼み込む。もっと強化して監視役になって欲しいと」
頼み込むのか。
創造神の言葉に、笑ってしまう。
あっ、もう夕方だな。
皆が夕食に集まってくる頃だ。
「そろそろ、解散だな。俺は片付けてから戻るよ。2柱は先に戻ってくれ」
俺の言葉に、息を吞む創造神。
オウ魔界王は顔を下に向けた。
「そうだな。もう……解散だな」
オウ魔界王は顔を上げると、いつも通りの表情で笑う。
それに笑みを返す。
次の約束はしない。
「ありがとう」
創造神の言葉に、彼の肩をポンと叩く。
「ミルフィース創造神、オウ魔界王。ヒカルを頼むな。迷っている事があったら、支えて欲しい」
俺の言葉に、2柱は頷く。
そして、それぞれの世界に戻って行く。
「翔呪界王。魔界を救ってくれてありがとう」
「翔呪界王。最後に名前を呼んでくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
2柱の姿が消える。
「名前か」
創造神の名前は、なんとなく呼べなかった。
もしかしたら、神国に対してわだかまりが残っていたのかもしれない。
彼等は悪くないと思いながら、心の隅で。
まぁ、最後にそれも無くなったみたいだし良かった。




