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異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
後片付けまでしっかりと
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50.気付きたくない。

―土龍 飛びトカゲ視点―


穏やかな笑みを見せる主に、心が痛む。


我々と比べると、主はまだこれからと言っていい年齢だ。

それなのに、この小さな体で神国が生み出した脅威と戦うと決めてしまった。

その表情を見れば分かる。


もう主は決めたのだ。

その命の使い方を。


神国にいる神獣達に会い、魂が消滅しない方法を探した。

どの神獣達も協力的で、少し驚いたな。

でも、彼らの記憶の中に探している答えは見つけられなかった。


我々の動きをロープが気にしている事は分かっていた。

でも、止まれなかったのだ。

主を失うかもしれない現実を認めたくなかったから。


主の傍がとても落ち着く。

それは、主の力がとても優しいからだ。


そういえば、この優しい力に導かれ主に出会ったのだったな。

あの日から、主の力は変化し強くなり姿を変えた。

でも、この優しさだけは変わる事が無かった。


庭に視線を向けると、黒く丸い存在。

のろくろちゃんと呼ばれる者が、子供達と一緒に遊んでいるのが見えた。

主の優しさは、呪いと言う他者に対して負の感情しか抱かない存在さえ変えてしまった。


「主こそが奇跡なのだろうな」


この存在こそが、この世界に齎された奇跡。


「どうした?」


不思議そうに俺を見る主に、空を仰ぐ


「もうすぐ春だと思ったのだ」


主の体調は、いつ良くなってしまうのだろう?

「元気になって欲しい」と、思えない日が来るなんてな。


皆で春を迎えられるだろうか?


「そうだな。もうすぐ、冬が開けるな」


ユグドラシルが、呪界を支える存在になった日からこの世界は変化した。

主が気付いているのか分からないが、神国とも魔界とも世界のあり方が違うのだ。

特に世界の王の役目をユグドラシルが半分補うので、次の王。

ヒカルは、かなり楽になるだろう。


そして神獣である我々もまた変わった。

神獣の役目は、星の守り。

神国では、神は星に生命体を生み出し守る役目があり、天使は神と生命体を繋ぐ役目があった。

そして神獣は星自体を守る役目がある。

他の神達が星を攻撃した時に、その身を盾に星を守るのだ。


元第一の神がこの星を襲った時、我々は力不足で守る事が出来なかった。

だから次こそ守ると思っていたが、この身を盾にする事は二度と無いだろう。

なぜなら、呪神力で張る結界は神国にいる神獣の本気の攻撃すら防ぐからだ。

結界に傷1つ付けられなかった神獣達は、結界の強度に驚いていたな。


その後、我々の様子を見ていた若い神達が挑戦したいと言い出し、俺は快く許可を出した。

神の攻撃に対応できるのか、調べたかったからだ。

結果、呪神力で張った結界を神達は傷付けられなかった。


呪界の星には、前は呪力で、今は呪神力で結界が張られている。

つまり、我々神獣の役目が無いという事になる。

そのせいなのか、呪界では神獣の役目が星の守りから、呪神を見守る役目に変わった。

星に初めて降り立った時、自然と自分の役目が変わった事に気付いた。

最初は戸惑ったが、今は納得している。

呪神の見守りで重要なのは、呪神の暴走を防ぐ事。


これは今ではなく、未来に必要となる役目なんだろうな。


呪界が呪神力で周り出すと、神国と魔界でも変化が起こったらしい。

それぞれの世界に手伝いに行っている蜘蛛やアリが、楽しそうに話してくれた。


魔界では、魔珠宝が無くても他者の力に影響を受けなくったらしい。

これまでは、魔珠宝が無ければ長く一緒にいる相手の力と自分の力が反発しだして傷付けあっていた。

でも、ある日を境に力が反発しなくなったそうだ。

そのある日と言うのが、呪神力が解放された日だった。

これには魔界にいる全ての者が驚いたようだ。

そして多くの者が、主に感謝した。


そして神国では、不安定だった星に変化か起こった。

星を作った神が、いなくなったり見放したりすると星は不安定になる。

そのままにしていると、周りの星にも影響が出てしまうので対処を必要とする。

だが、様々な理由で神の数が減り、不安定な星にまで手が回らず大問題になっていた。

それがある日、安定したのだ。

そしてそのある日と言うのが、呪神力の解放された日だったのだ。

これまで主を支持していたの神族が圧倒的に多かった。

でもその日を境に、神達からの支持が増え続けている。


主は、呪界だけでなく神国にも魔界にも影響を及ぼす存在だ。


「あっ!」


主が少し困った声を出したので、視線を追う。


「あぁ」


そこにはアイオン神の姿。

このところ、仕事が忙しいと来れていなかったのだが、あの様子では主の事を聞いたな。


「あ~き~ら~」


「ははははっ」


逃げ腰になる主。

よく分かるぞ。

怒り狂っているようだからな。


「どうしてお前はそう無茶をする! もっと我々を頼って……」


アイオン神が途中で言葉を止める。

そして、悩ましい表情をした。


「我々を頼ってもなぁ」


いや、それをアイオン神が言うのだ駄目だろう。

一応、神達の中でも上位にいいるんだから。


「力不足だし。知識不足だし? そもそも神が問題を解決する力が無いせいだしな」


「「……」」


その通り過ぎて何も言えないな。

主も、アイオン神の言葉に困った表情をした。


「翔」


主の前に来たアイオン神は、左腕を見て眉間に皺を寄せた。

それに主は、微笑む。


「心配してくれてありがとう」


あの日から主は、「大丈夫」と、言わなくなった。

それは今の状態では、説得力が無いからなのだろうな。


「はぁ」


アイオン神はため息を吐くと、主の傍にある椅子に座った。

リーダーがすぐさま、お茶とお菓子を持って来る。


「リーダー、ありがとう」


「ごゆっくり」


リーダーの言葉に、アイオン神が笑みを見せる。


「仕事はいいのか?」


「……まぁ、ちょっとぐらいなら」


アイオン神の言葉に主が呆れた表情をする。


「でもマッシュが『こんな状態では仕事にならない、いるだけ邪魔です。とっとと顔を見て来て、復活して来い』と言って、執務室から追い出したんだ」


「部下にそう言われるほど腑抜けていたのか? 駄目だろうが」


アイオン神が、主を見る。

そして泣き笑いような表情で頷いた。


「そうだな。これからは気をつけるよ」


アイオン神も今の主を見て、何かを感じたのだろう。

そう言うと、お茶を飲みお菓子を食べると立ち上がった。


「仕事に戻るよ。また、来る」


「あぁ、またな」


主の言葉に笑みを見せると、アイオン神は神国に戻った。


「相変わらず、慌ただしいな」


主の言葉に、遠くを見る。


アイオン神は、戻っても仕事が手につかないだろうな。


主に視線を戻すと、とても穏やかな表情をしていた。

もう我々も彼女も、主を止めることも、助けることも出来ないのだな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど アルギリス呪力で左手を負傷 呪神力神で治癒
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