49.俺の役目。
痛みで目が覚める。
小さく息を吐きだし、全身に呪神力を行き渡らせる。
左腕は、他の場所より重点的に。
しばらく続けると、左手に力を籠め持ち上げる
少し動きはぎこちないが、今日も無事に動くようになったのでホッとする。
3日前、助けを求めている者の居場所を見つけるために力を大量に使った。
あの日から俺の左腕は、肩は動くがその下から指先まで動かなくなってしまう。
でも、指先まで意識して呪神力を巡らせると、ある程度は動くことが分かった。
ただ、1日に数回行わないといけないのだが。
3日前のあの日、俺の状態はすぐに仲間に知れ渡った。
その後の皆の大混乱。
あまりの状態に、不謹慎だが笑ってしまった。
その俺の笑いで、皆はとりあえず落ち着いたのかな。
よく分からないが、落ち着いてくれた。
起き上がって、両腕を上に伸ばす。
ん~、左腕の上がり方は微妙だな。
「おはようございます」
「おはよう。今日も宜しく」
左腕が今の状態になってまず困ったのが、着替え。
いつも両手を使って着替えていたので、右腕だけだと大変だった。
なんとか3日で慣れたけど、ボタンは無理。
動くと言っても指先の細かい作業は出来なかったから。
そこで三つ目達が、大急ぎでボタンの無い服を大量に作ってくれた。
服を着替えると、リビングに行く。
ご飯を食べる時は、それほど困っていない。
左手でお皿を抑えるぐらいは出来るから。
まぁ、持ち上げるのは無理だけど。
「みんな、おはよう」
俺の挨拶に、元気に子供達が返してくれる。
「「「「「おはよう」」」」」
元気な子供達の声を聞きながら、椅子に座る。
「主、おはよう」
「おはよう」
「コアもチャイも、おはよう」
3日前から朝のリビングに、昔のようにコアとチャイがいるようになった。
きっと俺が無茶をしないように見張っているんだろう。
「どうぞ」
挨拶を終えた頃に、温かいスープが運ばれてくる。
「いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
子供達が朝ご飯を食べながら、ちらちらと俺の左腕に視線を向ける。
どうやら、左腕の状態が気になってしょうがないらしい。
「大丈夫、昨日と同じだよ」
俺の言葉に、ホッとした様子で笑う子供達。
心配を掛けている事が申し訳なく思う。
でも、ちょっと嬉しかったりもする。
複雑だ。
朝ご飯を食べ終わると、子供達は勉強の時間。
俺は、仲間達の様子を見ながら見回り。
「主」
見回りが終わりウッドデッキに戻って来ると、声が掛かる。
視線を向けると、俺より少し大きいサイズになった飛びトカゲがいた。
「どうしたんだ?」
声から少し落ち込んでいるみたいだな。
何かあったのか?
「……悪い」
「えっ?」
飛びトカゲに謝られるような事は無いよな?
う~ん、うん。
思い出す限りは無い。
「どうしたんだ?」
「調べても、何も分からなかった。俺達は主に助けられたのに……」
飛びトカゲが頭を下げる。
その様子に、笑みが浮かぶ。
「だ、ありがとう」
大丈夫という言葉は、俺の状態では言えないよな。
それなら、龍達に感謝を伝えよう。
「神国で調べてくれていたんだろう?」
何度も神国に行く龍達の事を心配したロープが、龍達の事を密かに調べて教えてくれた。
「魂の消滅について神獣である龍達に聞いて回っている」と
神国にいる神獣は、星の数だけいるので多い。
全ての神獣に合うのだって大変なのに、諦めず頑張ってくれていた。
「でも、何も――」
「飛びトカゲ。俺は、皆の気持ちが嬉しい。消滅については」
なんて言えば、飛びトカゲは納得してくれるかな?
「俺の人生って、凄いと思わないか」
「えっ?」
俺の言葉に、不思議そうに首を傾げる飛びトカゲ。
「見習い達の勇者召喚に巻き込まれたのが始まり。しかも俺は、彼らの失敗を隠すために存在が隠されていた星に捨てられた」
「そうだったな。何もかも、奴等が愚かな事をするから」
飛びトカゲの声に、殺気が混じる。
「落ち着いて。彼等は既に罰を受けたよ」
神の記憶を持って転生か。
しかも、かなり屈辱的な存在に。
自業自得だとは思うけど、ちょっと可哀想だよな。
彼らもまた、利用されたのだから。
「この星に落したら確実に死ぬと思っていたのに、彼等が行った勇者召喚で貰えるのギフトが俺を助けた。それを考えると、面白いよな」
「面白いのか?」
「あぁ。見習い達は殺そうとしたのに、彼等が行った事で俺が助かった訳だから。しかも、そのギフトは数人分だったからかなり強力で、皆の事も助ける事が出来た。1つ何かが違ったら、大きく結果は変わっていたと思うんだ。あぁ、こういうのを奇跡と言うだっけ?」
俺の楽しそうな雰囲気に、飛びトカゲが小さく笑う。
「奇跡か。それならまた奇跡が起こるかもしれないな」
「……どうかな」
それは、おそらく無理だ。
だって死期が近付いていると、感じるから
「飛びトカゲ。俺は自分の消滅より、残していく子供達が心配だったんだ」
俺に視線を向ける飛びトカゲ。
「でも、この頃はその心配がなくなった。子供達はしっかり成長して、先を見据えている。しかも頼りになる仲間が沢山いる事にも気付いた。だから、俺は特に消滅について不満は無いんだ」
「そんな……」
俺の言葉に戸惑った様子の飛びトカゲ。
まさか俺が「不満は無い」と言うとは思わなかったんだろうな。
でもアルギリスの居場所が判明した3日前から、死への恐怖が何故か消えた。
だからなのか、なんとなく感じていた不満も無くなっているんだよな。
痛みは増したから、どうにかしたいけど。
「主は『消滅する事』を既に受け入れているのか?」
「うん、そうだな。受け入れていると言えるだろうな。飛びトカゲ、俺は今の状態に感謝しているんだ」
「なぜ?」
「勇者召喚に巻き込まれて、俺は家族に何1つ残せなかった。でも今は違う。仲間に子供達に色々な物を残せた。それが俺には嬉しい」
呪神力の解放で、呪族になった子供達。
それを心から喜んでくれたので、俺は嬉しかった。
彼等に残せる物があったから。
「主」
「飛びトカゲ。俺は、体調を整えたらアルギリスと戦おうと思う」
「なに? 居場所が掴めたのか?」
「うん。神国にへばりついていたよ」
どういう作りなのかさっぱり分からないけど、神国に異空間がへばりついてた。
「主がする事なのか?」
「たぶん俺しか出来ない事だと思う」
アルギリスの力は、よく分からない。
どれだけの力を蓄えているのかも。
だから、未来のある者でなく俺が最適なんだ。
「そうか」
「うん。飛びトカゲ、あとは頼むな」
「……任せておけ」
「ありがとう。あっ、星はどう?」
飛びトカゲの力が発揮出来る星。
問題は無いだろうか?
「大丈夫だ。しっかり守れている」
「そうか」
星を、彼等に与えられてよかった。
しかも、神国からまだまだ星は移動予定だし。
「あっ。飛びトカゲは子供を作ったりしないのか?」
「はっ?」
「「……」」
あれ?
「えっと星が増えたら、星を守る神獣が必要になるだろう? 飛びトカゲ達だけではきっと、手が回らなくなると思うから」
「あぁ、それは大丈夫だ。必要となれば、各自で子を産むから」
各自で子を産む?
「飛びトカゲも、子供を産めるのか?」
「あぁ、産めるぞ」
マジか。
飛びトカゲはオスだと思っていたのにメスだったのか。
「どうした?」
「いや、飛びトカゲはオスだと思っていたからビックリして」
「んっ? 神獣に性別など関係ないぞ。必要に応じて体を変えられるからな」
「そうなんだ」
良かった。
飛びトカゲはオスって感じだからな。
「どうした?」
「いや、何でも無いよ」
「はぁ、主と話していると力が抜ける」
「ははっ。リラックス――」
「違う。呆れでだ」
飛びトカゲは、そう言うとジトっと俺を見る。
それに肩を竦めた。
ワザとでは無いから、言われてもね。




