46.変わらない。
-エントール国 騎士ギルス視点-
ダダビス団長がごねて、ではなくて無視、でもなくて……頑張ってくれたが、とうとうエントール国に戻る事が決まった。
まぁ戻るのを、数ヵ月先延ばしにしたのは、かなり凄い事なんだろうな。
「足りない」
借りていた部屋の整理を始めてすぐに、バッグが足りない事に気付いた。
チラッと、山になった物に視線を向ける。
「ここまで増えていたんだな」
ここに来た時は、服などは最低限。
一番多いのは、武器や防具だった。
今は、服で山が出来ている。
これら全てゴーレムが作ってくれた物だ。
「ん~、どれも俺のために作ってくれた物だから、持って行きたい。どうしようかな」
最初は驚いた。
ここにきて1週間。
ゴーレムの三つ目と呼ばれている子達から、服が届けられたから。
対応に困ったので、すぐにダダビス団長の下に。
でも彼も、届いた服を手に右往左往していたので笑ってしまった。
ちょっと睨まれたけど、今ではいい思い出だ。
届いた服についてリーダーに相談した結果、受け取る事になった。
何でも、俺達の服が少ないと聞いてすぐに作り始めてくれたらしい。
「そういえば、初めて着た服があまりにもぴったり合うから驚いたよな」
あれ?
サイズを測ったわけでもないのに、あんなにぴったり合う服を作れる物なんだろうか?
……チラッと天井を見る。
小さいから見えないけど、きっといるよな孫蜘蛛と呼ばれる子達が。
「まぁ、うん。知らない方がいい事もあるよな。うん、あるある」
たかが服の大きさだ。
気にしたら駄目だ。
「それより、これだよ。どうしよう」
大きな布を借りて包もうかな?
でも、この山になっている服を包める布なんてあるだろうか?
コンコンコン。
「失礼します」
「はい」
リーダーの声に慌てて扉を開ける。
「こちらをどうぞ」
差し出されたのは、肩から提げるバッグ。
受け取りながら首を傾げる。
「あの程度の服なら、このバッグに全て入ります」
リーダーの説明にハッとする。
もしかして、無限に荷物が入るのではないかと騎士達の間で話していたバッグ?
「えっ、いいのですか?」
貰って、いや、くれるとは言っていない。
つまり貸してくれるという事だろうか?
「荷物が増えたのは、三つ目達がやりたい放題したからです。ですので、そちらをプレゼントしますので、ご自由にお使いください」
三つ目達がやりたい放題?
その意味は少し分からないが、バッグはプレゼントらしい。
「ありがとう。凄く助かります」
俺の言葉に、軽く頭を下げると帰って行くリーダー。
その背に、俺も軽く頭を下げると服を片付けるため部屋に戻った。
「あれっ、どうしてバッグが足りないと……」
チラッと天井を見る。
「えっと、リーダーに伝えてくれたのかな? ありがとう」
これ、独り言みたいで恥ずかしいな。
天井を見上げる。
いるよな? もしかしていない?
コンコンコン。
小さな音に、笑みが浮かぶ。
良かった、見えないけどちゃんといるようだ。
というか、この環境に慣れたよなぁ。
荷物を纏めてから3日後。
今日、とうとう俺達はエントール国に戻る。
お世話になったリーダー達に、それぞれお礼を言って行く。
「戻るのか?」
「主」
やはり、主を前にすると緊張するな。
そういえば、最近はヒカルを前にしても少し緊張するようになった。
なんでだろう?
不思議だ。
「はい。エントール国に戻ります」
俺はエントール国の騎士だからな。
でも、これからの事は分からない。
「そうか」
「あの……」
もしかしたら、戻って来るかもしれないと言いたい。
でも、どういえば。
「前も言ったけど、ここに来る時はしっかりけじめをつけてからだぞ」
主を見ると、笑顔で俺を見ていた。
それに、笑顔で頷く。
「はい。分かりました」
主が、転移魔法でエントール国のすぐ傍に門を開けてくれた。
ここに来る時は、龍の背に乗って来た。
まさか、帰りは1分も掛からないとは。
子供達に手を振って、門をくぐる。
エントール国の門が見え、懐かしさを感じた。
門をくぐりエントール国に入ると、多くの騎士がいた。
それに少しビックリする。
ダダビス団長達も知らなかったようで、驚いた表情をしていた。
「どうして集まっているんだ?」
ダダビス団長が、近くにいる騎士に声を掛けると「おかえりなさい」と返事が来た。
どうやら、俺達を出迎えるために多くの騎士が集まってくれたようだ。
まぁ、俺が含まれているのかは不明だが。
ダダビス団長達は、報告のために王城に向かう。
一般の騎士である俺達はここで解散、明日ダダビス団長からこれからの事を聞く事になった。
エントール国をゆっくりと歩く。
あちこちから、嫌な視線を感じる。
「はぁ、変わらないな」
それに少しうんざりしながら、借りている家に向かう。
「んっ? はぁ」
自分の家を見て、溜め息がこぼれる。
留守の間の掃除や、庭の手入れは依頼していた。
しっかりお金も払った。
それなのに、庭は草で覆われ、家も窓が一部割れているようだ。
「……」
嫌な気分を抑えるように、顔を手で覆う。
「よしっ、掃除をするわよ!」
「おう」
「…………んっ?」
後ろで聞こえた声に、視線を向ける。
「えっ?」
「へへっ、来ちゃった」
指を指すのは駄目だと教わった。
でも、あまりの事態に指を指してしまう。
「クウヒ! ウサ!」
どうして2人はここに?
いや、来ちゃったという事は俺のところに来たんだよな。
「そういえば、さっきは姿を見なかったな」
「うん。子蜘蛛がギルスの家が大変って騒ぐから、見に来ていたの」
ウサの言葉に、もう一度家を見る。
「そうだな」
「掃除の依頼をしていたのにな」
「そうね、お金だけ取るなんて、詐欺だわ」
クウヒの言葉にウサが怒った表情をする。
どうしてそれを知っているんだろう?
まぁ、主の下で勉強していた2人だから、それぐらいの事は簡単に知る事が出来るのか。
「うん。まぁ、仕方ないよ」
この見た目だからな。
「仕事を受けてお金も受け取ったのに、仕事を放棄するのは犯罪よ。そこにギルスの見た目なんて関係ないわ。それを言い訳にすること自体、屑の発想よ。相手が気に入らなければ、仕事を受けなければいいだけなんだから」
ウサの言葉に、笑みが浮かぶ。
主の仲間達は、本当に俺の見た目について何も言わなかった。
子供達に至っては、この姿がかっこいいとも言ってくれた。
それがどれだけ俺を救ったか。
「よしっ。やるわよ、クウヒ」
「あぁ、まずは庭だな」
えっ?
草で覆われた庭に向かう2人に慌てる。
「本当に、掃除をするつもりなのか? 誰かにもう一度頼む事も出来るけど」
俺の言葉に、2人は首を傾げる。
「んっ? わざわざ頼む必要は無いだろう。俺達がいるのに」
いや、庭はそれなりに広い。
草を抜くだけでも、かなり大変だと思うが。
「さて、一気にやっちゃうね」
ウサはそう言うと、庭に向けて魔法を掛ける。
次の瞬間、庭を覆っていた草がポンと土から抜け、一ヵ所に集まった。
「へっ?」
「あっ! ギルス。もしかして庭で何か育てる予定でもあった? この方法は土に魔力が残ってしまうから、植物を育てるのなら、残った魔力を取り除かないと駄目なんだけど」
「いや、そんな予定は無いから大丈夫」
というか、一体どういう魔法なんだ?
「どうしたんだ?」
俺を見たクウヒが、不思議そうな表情になる。
「いや、今の魔法は……」
「あぁ、主が編み出した魔法の1つだよ。草の隅々まで魔力を行き渡らせて強化して、風魔法で引き抜くんだ。強化された草だから、根の先まで切れずに抜けるんだよ」
草を強化するなんて、よく思いつくな。
それに、ウサの魔力コントロールも相変わらず凄い。
「次は家の中だな」
クウヒが家の扉に手を掛ける。
あっ、鍵を出さないと。
ガチャリ。
えっ、鍵がかかっていなかった?
ははっ、凄く嫌な予感がする。
「……ギルス、家の中が空っぽみたいだ」
「はぁ」
変わらないな。




