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異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
後片付けまでしっかりと
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45.アルギリスの復活? 5

―アルギリスの信者 ハリーヒャ神視点―


誰かの悲鳴が聞こえ、意識が浮上する。


「あれっ?」


周りを見ると、ここが自分の部屋だと分かる。

そして、俺が寝ていた事も。

ただ、自分が何時に寝たのか思い出せない。

そもそも最近は、呪力から届く声で眠れなかったんだから。

だから、今の状態が不思議で仕方ない。


ガチャ。


「……起きたのか」


部屋に入ってきたアーチュリ神が、俺を見て微かに目を見開いたように見えた。

ただそれは一瞬だったから、見間違いかもしれないが。


「起きたとは、どういう意味ですか?」


掠れた自分の声に、違和感を覚える。

なんだか、久しぶりに声を出したような気がする。

不思議に思いながら起き上がろうとすると、止められた。


「そのままでいい。10日間、眠っていたんだ。いや、意識を失っていたという方が正解だろうな」


10日間も?

あぁ、だから声を出した時に違和感を覚えたのか。

それにしても、10日前に何があったんだろう?

……駄目だ、何も覚えていないな。


「何があったんですか?」


「呪力に飲み込まれたんだ」


えっ、呪力に?

そうか。

とうとう俺は、呪力に飲み込まれたのか。


いや、おかしい。

それならなぜ俺は、正気なんだ?

呪力に飲み込まれ者は、自我が崩壊していた。

俺は……大丈夫みたいだけど。


もしかしてアーチュリ神が助けてくれたのか?

いや、それは無いな。


「飲み込まれた数分後、ハリーヒャ神は呪力から解放された。そして、今日までずっと眠っていたんだ」


「そうだったんですか」


「医者が調べて問題ないと判断していたが、大丈夫か?」


「えぇ、大丈夫です」


どうして、俺は正気なんだろう。

自我が壊れていれば……いや、違う。

俺は決めたじゃないか。


「あの方が、ゆっくり休養を取るようにと言っていた。呪力にも、しばらく関わらなくていいそうだ」


アーチュリ神の言葉に、驚いてしまう。

あの方が、俺にそんな事を?


いや、違う。

一瞬、心配して頂けたのかと思ったけど、そうじゃない。


俺は、長期的に使える道具だと判断されたんだ。

呪力に飲み込まれても、自我か壊れなかったから。

あの方は、誰の事も心配などしない。

もう、間違えるな。


「ふふっ。分かった。でも、もう大丈夫だ。明日から、再開する」


俺の言葉にアーチュリ神の眉間に深い皺が出来る。

でも、無視した。


「……分かった」


アーチュリ神は諦めた様子で呟くと、部屋を出て行った。

彼は、俺を本当に心配してくれているようだ。


「彼は、あの方の手先なのにな」


天井を見て、息をゆっくり吐き出す。

身体から力を抜き、明日のために目を閉じた。



部屋から出ると、アーチュリ神とマーサリア神がいた。

2柱に軽く挨拶をすると、呪力の下に向かう。


呪力が閉じ込められている空間に入ると、呪力の塊に近付く。

アーチュリ神達は、空間に入る扉の前で待機している。


「みんな、久しぶりだね」


俺の声に反応したのか、呪力からの声が一気に増す。

頭に響くその声に、ギュッと両手を握る。


「今日もよろしく」


呪力にすっと手を伸ばす。


俺は決めた。

呪力からの声に逃げないと。

何度倒れても、最後まで彼等の叫び声を聞き続けると。

俺に出来るのは、そんな事ぐらいだから。


指先が呪力に触れた瞬間、来るだろう衝撃に体が強張る。


「……えっ?」


来ない衝撃に首を傾げる。

呪力の塊を見るが、それに変化はない。

いつものように、閉じ込められた空間の奥にギュッと集まっている。


「あれ?」


何かが手に触れた。

視線を向けると、小さな光が指先に見える。

その小さな光から、温かくそして不思議な力が伝わって来た。


ふわり、ふわり。


気付くと、呪力の塊から飛び出した黒い小さな玉が、俺の周りを飛んでいた。


「えっ?」


指先に見えた光に向かって、黒い小さな玉が飛ぶ。

その様子をジッと見つめる。

何が起こっているのか。

この光が何なのか、さっぱり分からない。

でも指先にある小さな光が、とても温かい事だけは分かった。


「あっ」


もしかして、あの人に。

いや、人では無いな。

呪いに落ちた者達を受け入れた世界。

呪界を統べる王に、願いが届いたのだろうか?


「それなら」


呪力の塊を見る。

彼等を助けてくれるかもしれない。


ふわっと目の前を黒い小さな玉が通り過ぎる。


「……あれは、なんなんだろう?」


呪力の塊から出てきたのを見た。

でも、呪力の塊にそんな力は無いはずだ。

だってあれは、魂力を奪われ形が維持できなくなった魂の集まりだ。

そんな彼等に、何かを生み出す力は無い。


でも、実際にこの目で呪力の塊から出て来るのを見た。

つまり……駄目だ。

黒い小さな玉の正体が、さっぱり分からない。


あぁでも、今はそんな事などどうでもいいか。

いま重要なのは、呪界王に願いが届いたかもしれない事だ。


「それなら」


ギュッと両手を組み、目を閉じる。


どうか、頼む。

ここにいる全ての者達を助けてくれ。

彼等を苦しみから解放して欲しい。


指先が熱い。

見ると、小さな光がなども点滅していた。

そして、目の前でフッと消えた。


「あっ」


届いたのか?

それとも、ただ消えただけ?


いや、信じよう。

前の願いも届いたのだから。


「ハリーヒャ神」


マーサリア神に名を呼ばれ、体が強張る。


そうだった、彼等がいたんだった。

どうしよう。

呪界王に願いが届いたかもしれないなんて、バレない方がいいよな。

落ち着け。


「どうしました?」


「何がですか?」


マーサリア神を見て首を傾げる。


「あの黒い物の事です。あれは、何だったんですか?」


マーサリア神の言葉に、顔を伏せて表情が見られないようにする。

どうしよう、やはり見られていた。

どう誤魔化す?


「呪力の欠片のような物で、気にする事は無いですよ」


「ハリーヒャ神、それは本当ですか?」


不信感を見せるマーサリア神に、笑みを作る。

落ち着け、まだ大丈夫。


「えぇ。本当です」


「近くで見ても?」


アーチュリ神の言葉に息を吞む。


「どうぞ」


マーサリア神とアーチュリ神が呪力の塊に近付く。


ふわり、ふわり。


「あっ」


傍を飛ぶ、黒い小さな玉に小さな声が漏れる。


「これですね」


マーサリア神が険しい表情で、黒い小さな玉を見る。

次の瞬間、マーサリア神が呪力に向かって倒れ込んだ。


「ひっ! たすけげぇっぇ」


「えっ?」


目の前でマーサリア神が呪力に飲み込まれる。

あまりの事に、手を伸ばす事も出来なかった。


「なぜ?」


マーサリア神の背を押したアーチュリ神に視線を向ける。


「呪力の異変い気付いたマーサリア神が、傍により足を滑らせた。これは事故だ」


アーチュリ神の言葉に、呪力の塊を見る。


ふわり、ふわり。


俺の傍を飛ぶ、黒い小さな玉。


あぁ、そうか。

これの事をまだ、あの方に秘密にしておける。


「事故か」


「事故だ。あの方には俺から報告しておく。戻るのは1人でも大丈夫か?」


「うん。大丈夫。また、明日」


無言で部屋から出て、自分に与えらえた部屋に戻る。

ベッドに腰かけて息を吐き出す。


マーサリア神を呪力に放り込んだのはアーチュリ神だ。

でも、俺も同じ事をしただろう。


ようやく、彼等を救える可能性が出たんだ。

あの方にも邪魔されるわけにはいかない。


「彼等が助かるまで、俺が守らないと」


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