43.今日まで、今日から。
―創造神視点―
広場に集められた神達に、ガルアル神がそれぞれに罰を言い渡していく。
それに対して暴れる者。
俺を罵る者。
悲鳴をあげる者。
友人や仲間に罪を着せようとする者。
そんな騒がしい神達を見つめ、そして視線を落とした。
「誰も……誰も自分の行いが悪かったとは思っていないのだな」
広場に集められた神達は、あまりにも自分勝手で愚かだ。
ほんの少しだけ、俺は期待していた。
罰が言い渡さられるまで、それなりの時間があった。
だから、これまでの自分の行いを見つめ直す者が現れるのではないかと。
でもその期待は、見事に裏切られた。
いや、裏切られたのではないな。
俺が勝手に期待しただけなのだから。
「許さない! 私にこんな罰を!」
カアシア神が、俺に向かって叫ぶ。
彼女には、神国で最も重い罰を下した。
それは、生き続ける限り神国に神力を提供し続けるという罰。
簡単に聞こえるが、暗闇に閉じ込められ強制的に神力を奪われるのだ。
身体的にも肉体的にも、地獄だ。
なにより、簡単には死ねないように暗闇には魔法が掛かっている。
あの場所では、気が狂う事も許されない。
「好き勝手してきたお前には、最も適した罰だ。受け入れろ」
「うるさい! 私に対してこんな事! 私の仲間が、お前を絶対に許さない!」
カアシア神の言葉に、笑ってしまう。
「くそっ、離せ!」
3柱の神達が暴れるカアシア神を抑え込む。
それも気に入らないのだろう。
彼女の表情がより険しくなる。
「離していい」
俺の言葉に、カアシア神を押さえていた神達が手を離す。
すぐにカアシア神が俺に向かって来た。
手を前に出し、カアシア神を結界の中に閉じ込める。
そして、彼女の神力を無理矢理に奪う。
「ぎゃぁぁぁぁああああ」
広場に広がるカアシア神の悲鳴。
その姿に、今まで騒がしかった神達が黙り込む。
広場に集まって来た神達と神族達を見る。
驚いた表情を見せる者。
恐怖に目を見開く者。
目を反らす者。
戸惑った表情を見せる者。
愕然と立ちすくむ者。
慌てている者。
そんな神達や神族達から、カアシア神に視線を戻す。
広場で罰を言い渡す必要は、無い。
でも、俺は広場を選んだ。
彼女が暴走する事を予想して。
公開で罰を言い渡したのは、見せしめだ。
今回、罪を許された神達がいる。
下っ端だった事や、それほど罪を重ねていなかった事から軽い罰は課したが、許した。
そんな彼等に対して。
また、何かを起こそうと企んでいる者達に対して。
俺は「どんな立場でも罰を下す。罪を犯すなら、覚悟しろ」と、広める場に今回の事を利用したのだ。
広場に集められた神達の表情に、怯えが見える。
広場に集まって来た者達の表情にも。
一定の成果はあった事に、ホッとする。
無理矢理に神力を奪ったカアシア神は、その痛みに耐えられなかったのか意識を失っている。
そんな彼女に、心の中で感謝の言葉を呟く。
「ありがとう。あなたのお陰で、目的は達成出来た」と。
全ての神に罰が言い渡された。
それを見届けてから、自分の執務室に戻る。
「あっ」
広場から建物に入る直前。
振り返って、カアシア神を閉じ込めている結界に視線を向ける。
「忘れていたな」
手を横に振ると結界は消え、カアシア神は地面に落下した。
神力を奪われたカアシア神。
きっと目を覚ますまでに、半日は必要とするだろう。
そして、次に彼女が目覚める場所に光は届かない。
彼女が自分の行いを悔いる時は来るのだろうか?
まぁ、悔いたとしても手遅れだが。
広場に背を向け、執務室に戻る。
今回の事で俺は、神達や神族達から怯えられるだろうな。
自分で選んだ道だけど……いや、後悔はない。
「これでいい」
執務室に戻り、机の上を見て溜め息を吐いた。
「お疲れ様です。少し休憩しましょう」
フィオ神の言葉に頷きたくなるが、机の上を見た後ではちょっと迷う。
「大丈夫ですよ。急ぎの物はありませんから」
彼の言葉にホッとして、ソファの方に座る。
フィオ神には、裏切られたと思っていた時期がある。
でも話をすると、俺達の関係を壊そうとしている存在が明らかになった。
その者のせいで、フィオ神が用意してくれた補佐は別の場所に。
そして奴等は、自分達の手の者を俺の補佐に就けた。
そのせいで色々あったが、今はフィオ神の信頼を得ている者が補佐をしてくれている。
「そういえば、俺達の間を切り裂こうとした者達はどうしたんだ?」
広場にいなかったような気がする。
「あぁ、ちょっと手違いがありまして」
えっ、手違い?
驚いた表情でフィオ神を見ると、彼は肩を竦めた。
「ちょっとしたミスで、彼等は今魔界にいます」
「はっ?」
手違いでどうして魔界に行くんだ?
おかしいだろう。
あれ?
俺に就いていた補佐が、予定の者達と違うとバレた時「ちょっとした手違いでフィオ神の用意した補佐が来れなかった。だから我々で用意した補佐を就けた」と、聞いたような……。
チラッとフィオ神を見る。
ニコッと笑みを見せる彼に、頬が引きつる。
「えっと、彼等は魔界で何をしているんだ?」
「そうですね。色々頑張っているようですよ」
彼等はもの凄く、魔神達に対して否定的だったよな?
「生きている価値がない」とか「我々神が許す事のない存在」とか。
話しを聞いている間、何度奴等を殴り飛ばしたかったか。
そんな彼等が、頑張っている?
「いったい何をだ?」
「魔界では、神から魔神になる時の変化を調査しているんです。彼等は、その被験者です」
「……そうか」
「はい」
これ以上は聞かない方がよさそうだ。
コンコン。
「どうぞ」
「「失礼します」」
ガルアル神とカシュリア神が執務室に入って来る。
そして俺とフィオ神を見て、2人が首を傾げた。
「何かあったのですか?」
ガルアル神の言葉に、フィオ神が首を横に振る。
「何も無いですが? どうですか?」
「あぁ、何も無いな」
彼等が手違いで魔界に行ったのは、自業自得だ。
ちょっと驚いたけど、自ら招いた結果なので魔界で頑張ってもらうしかない。
「創造神、神達の移動が全て終わりました」
「ありがとう。つらい役目を任せてしまって、悪かった」
ガルアル神が自ら「俺が神達に罰を言う」と、言ってくれたが少し心配だった。
広場では、ガルアル神に向かってかなりきつい言葉が投げかけられていたから。
「大丈夫です」
彼の表情を見る限り、本当に問題なさそうだ。
カシュリア神の方が、少し思いつめた表情になっている。
「カシュリア神、大丈夫か? 数日休んでもいいぞ」
カシュリア神は、カアシア神と交流があったな。
あんな姿を見て、ショックを受けたんだろう。
俺の言葉に首を横に振るカシュリア神。
「私も問題ないです」
「そうか。あまり無理をしないように」
ガルガル神は俺の視線に気付くと、頷いてくれた。
カシュリア神に何かあれば、彼が対応してくれるだろう。
「座ってお茶でも飲もう」
フィオ神が4柱分のお茶とお菓子をテーブルに載せる。
それぞれ座って、お茶を飲む。
「「「「ふぅ」」」」
全員の溜め息を揃った事に驚いて、3柱を見る。
彼等も驚いた表情で周りを見ている。
「ぷっ。あはははは」
俺の笑い声に続いて、皆が笑い出す。
あぁ、そうか。
あんなに悩んだ彼等の事が、今日で終わったんだ。
神国は、今日の事が節目となり色々と変わっていくだろう。
今日は、最悪で最高の日だ。




