40.それぞれへの影響。
ユグドラシル「エコ」の事を創造神とオウ魔界王に話すと、2柱とも「ぽかん」とした表情を見せた。
やはり相当珍しい事だったようだ。
まぁ「星」から「世界」だもんな。
規模が違い過ぎる。
呪神力解放から、1週間がたった今日。
神国からアイオン神とフィオ神、それにガルアル神が。
魔界からは、ゴルア魔神とボルナック魔神が来た。
エコを紹介すると、5柱は動きを止めた。
それぞれが驚いた表情でエコを見つめる姿は、ちょっと面白い。
この1週間で、呪神力は呪界に行き渡った。
支えてきた力が変わるので「問題が起きるのでは?」と、心配したが杞憂に終わった。
呪神力による仲間達への影響は、いい方向にあった。
なんと「ヒール」と「結界」の威力が増したのだ。
ヒカル以外は呪神力を使えないはずだけど、まぁいい事なので気にしない事にした。
子供達は呪族になったが、特に変わる事は無かった。
それについて子供達は、かなり不満そうだ。
クウヒとウサは、身体能力が上がって欲しかったそうだ。
もう俺より早く走れるのに。
太陽や桜達は、攻撃力が上がって欲しかったそうだ。
チャイと戦って5回中1回は勝てるようになっているのに。
子供達は、世界最強でも目指しているのだろうか?
少しあの子達の未来が心配になった。
飛びトカゲに相談すると「大丈夫だ」と自信をもって言われた。
本当だろうか?
天使のモモとスミレは、少しだけ成長したらしい。
背が伸びたと言われたんだけど……ごめん、分からない、
それよりも、彼女たちにはもっと大きな変化が起こった。
それは、彼女たちの羽。
真っ白な羽だったのが、先だけ黒くなってしまったのだ。
ショックを受けていないか心配したけど、もの凄く喜んでいた。
その姿にホッとした。
「まだ見ているだけなのか?」
5柱を見守っていると、コアが呆れた様子で声を掛けてきた。
「うん。そうとう驚いたみたい」
でもそろそろ5分が経つので、声を掛けてもいいだろうか?
「アイオン神! フィオ神! ガルアル神! ゴルア魔神! 誰だったかな? まぁいい。いい加減、しっかりしろ!」
コアは、ボルナック魔神という名前を早々に諦めたようだ。
「あぁ悪い。まさか、こんな……ありえない力をユグドラシルから感じるなんて思わなかったから」
アイオン神の言葉に、他の神達が頷く。
確かに、今のエコからは強大な力を感じる。
でもそれは仕方ない事だ。
だって星ではなく世界を支える事になったんだから。
「話には聞いていたが、本当に凄いな」
ゴルア魔神が、感心した様子でエコに手を伸ばす。
「馬鹿! 何をしている」
ガルアル神が慌てた様子で、ゴルア魔神の手をつかむ。
「あっ、悪い。気持ちが高ぶってしまって」
2柱のやり取りに首を傾げる。
「触ったら駄目なのか?」
エコを見る。
特に、2柱を警戒している様子はない。
「駄目だろう」
「駄目だ」
ゴルア魔神とガルアル神が、眉間に皺を寄せる。
「そうか」
2柱の様子から、触らせない方がよさそうだと判断する。
でも、どうしてだろう?
「エコは別に嫌がっていないけど、どうして触ったら駄目なんだ?」
「「「「「えっ?」」」」」
俺の言葉に、5柱が目を見開く。
えっ、何?
「翔。ユグドラシルの気持ちがわかるのか?」
「分かるというか……何となく伝わってくるんだ」
はっきりと分かると言う事はない。
ただ、「嬉しい」「嫌だ」「怖い」「気持ち悪い」などの気持ちは伝わってくる。
これは、呪神力を解放する前からだ。
「そうなのか」
アイオン神が戸惑った表情を見せる。
「神国にもユグドラシルはあるだろう?」
「あぁ、神国というか、それぞれの星にあるな。ユグドラシルは星を存続させる大切な存在だから。言っておくが、星を守るユグドラシルはこんなに強大な力を持っていないからな」
それは、言われなくても分かっている。
「そして、星を見守る神でもユグドラシルに触れる事は、緊急事態以外では許されない」
アイオン神の言葉に、他の神達が頷く。
「えっ? そうなのか? えっと、よく触っているんだけど」
そう言いながら、エコの幹をポンと撫でる。
うん、「嬉しい」という気持ちが伝わってくる。
「「「「「……」」」」」
無言で俺とユグドラシルを見る5柱。
そして全員が溜息を吐いた。
「見れば分かる事もあるかと思ったけど、無理だな」
ガルアル神が、アイオン神とフィオ神を見る。
「そうだな。見れば見るほど、他のユグドラシルと呪界のユグドラシルとの違いがはっきりするだけだ」
フィオ神が、ガルアル神の肩をポンと叩く。
アイオン神は苦笑している。
「こちらも同じだ」
ゴルア魔神が諦めた様子を見せると、同意するようにボルナック魔神が頷いた。
そんなに他のユグドラシルとは、違ってしまったのか。
俺と関わったせいだよな。
「んっ?」
エコから、「嬉しい」という気持ちが伝わってくる。
今の話を聞いてこの感情という事は、普通のユグドラシルとは違う事が嬉しいという事だろうか?
それだったら、嬉しいんだけどな。
「エコ、呪界を宜しくな」
ふわっ、ふわっ、ふわっ。
俺の言葉に応えるように、花の香りが強くなる。
「ところで翔。あれは、何だ?」
フィオ神が指した方を見ると、視線に気付いたトレント達が前脚を振っていた。
「トレント達だよ。ユグドラシルをずっと守って来た存在だ」
トレント達がいなかったら、俺はエコと出会えなかっただろうな。
「あれって……踊っているのか?」
ガルアル神が、少し戸惑った様子でトレント達を見る。
「うん。『舞』だよ」
呪神力を解放して変わった事がもう1つあった。
それは、トレント達だ。
彼等曰く、呪神力が解放された影響で新たな「舞」が完成したらしい。
力の解放と舞が全く結びつかないけど、彼等がそういうのだから、そうなのだろう。
新たに加わったのは「絶望の舞」。
これで彼等の舞は、「呪いの舞」「破滅の舞」「暴露の舞」「死滅の舞」「絶望の舞」と5種類となった。
トレント達の舞を見ながら、ちょっとドキドキしている。
彼等にいつか、「今の舞はどれでしょうか?」と聞かれないかと。
まぁ、聞かれたら聞かれた時。
正直に「見分けがつかない」と謝ろう。
一応、頑張ったんだ。
それぞれの舞の違いを見つけ出そうと。
でも、早々に諦めた。
俺に舞の違いは、分からない。
右にくるくる、左にくるくるしているのは分かるんだけど。
前脚の角度とか……無理!




