37.この世界で生きる。
いつも通りヒカルに力を送る。
最近、ヒカルの中にある力が変わった。
呪力が、他の力を抑え中心的な力になったようだ。
でも、これでいいのだろうか?
呪神は、呪力より呪神力が中心的な力にならないと駄目なんだけど。
「どうしたの? 何か悩み事?」
ヒカルが俺の様子に気付き首を傾げる。
呪神力の事を、話した方がいいよな。
後回しにすると、話す切っ掛けが無くなる。
……忘れちゃうし。
「今、ヒカルに送っている力は呪力だと気付いているよな?」
「うん。呪神になるには、これでは駄目だよね」
気付いていたのか?
「神の魂を持っていると聞いてから、色々と考えて気付いたんだ。神は神力、魔神は魔神力。それなら呪神になるには呪神力が必要だって。そして俺の中には、呪力があるけど呪神力は無い。主から貰っている力は呪力だけだと。この話が出たって事は、呪神力を貰えるの?」
期待に満ちた目をするヒカルに驚く。
「呪神力が怖くないのか? あぁ、言ってないからか」
「えっ?」
俺の言葉に不思議な表情をするヒカル。
「呪神力なんだが、不安定なんだ」
「そうなの?」
「あぁ、記録装置で調べたが『未知の力』と『成長途中』と表示されるんだ。俺自身でも調べたが、大きく変化する時がある。だから、ヒカルに送って問題が起きるのではと心配している」
俺の言葉に、思案顔になるヒカル。
「心配してくれるのは嬉しい。でも俺は、挑戦したいと思う」
「えっ? 挑戦したいのか?」
「うん。主の力は守る力だよ。だからきっと呪神力もそうだと思うんだ。もし何かあっても、そんなに大事にはならないよ」
ヒカルの言葉に、首を横に振る。
「そう言ってくれるのは嬉しいが、呪神力はかなり強い力だ。何かあったら、これからの人生に影を落とすかもしれない」
呪神力は、神力や魔神力よりはるかに強くなってしまっている。
問題が起きたら、きっと大変な事になる。
「ん~、大丈夫だと思うんだけど」
ヒカルが信用してくれるのは嬉しいが、やはり危険は冒せない。
コンコン。
「誰だ?」
「オアジュ魔神がいらっしゃいました」
リーダーの言葉に首を傾げる。
オアジュ魔神が、新しい大地からわざわざこっちに?
何か問題でも起きたのだろうか?
「どうぞ」
「急に来てすまない。どうしても叶えてほしいお願いがあるんだ」
オアジュ魔神は部屋に入ると、真剣な表情で俺を見た。
その表情に少し緊張する。
「分かった。とりあえず座ってくれ」
「ありがとう。あっ、ヒカル? 悪い。邪魔をしてしまったみたいだな」
ソファに座るヒカルを見て、申し訳なさそうな表情をするオアジュ魔神。
「用事は終わって、話をしていただけなので大丈夫。それよりどうしたの?」
ヒカルの言葉に頷いてオアジュ魔神をみる。
オアジュ魔神はヒカルの隣に座ると、俺に向かって頭を下げた。
「俺を、呪神にしてくれないだろうか? 今はまだ、呪界に住む魔神だ。でも俺は、この世界で最後まで生きたい。そしてこの呪界に貢献したい。カーシャとマカーシャも同じ思いだ。2人も呪族になりたいと言っている。頼む」
「…………えっ?」
オアジュ魔神を呪神に?
カーシャさんとマカーシャさんを呪族に?
「それ、いいね! 俺は賛成。俺が次の呪界王だから、オアジュ魔神がオアジュ呪神になってくれていたら助かる」
「いや、んっ?」
呪界王を押し付ける事になるヒカルの希望は叶えたい。
それは本心だ。
でも今ヒカルに話した通り、呪神力は不安定だ。
「今は無理だ」
「俺では、無理だと言う事か? 力が足りない?」
「そうではなく。俺が持っている呪神力に問題があるんだ」
オアジュ魔神に、呪神力の問題点を話す。
「『成長途中』なのは仕方ないだろう?」
「「えっ?」」
オアジュ魔神の言葉に、ヒカルと同時に声をあげる。
どうして仕方ないんだ?
「呪界はまだ完成されていない。星が増えているし、星を管理する神獣達もようやく決まったところだ。呪界の形が変われば、呪神力も変わる」
「そうなのか?」
「そうらしい」
「そうらしいとは?」
「元魔神王のボルチャスリ魔神に聞いたんだ。『呪神になるにはどうすれがいいのか』と。彼は魔神力を捨て、呪神力を受け入れればなれると言っていた。でも、この世界はまだ成長途中だから、呪神力が不安定かもしれない。まぁ、変化し続けている力を取り込んでも、死ぬ事は無いから挑戦してみたらどうだって」
「死ぬ事は無いの?」
ヒカルの言葉にオアジュ魔神が頷く。
「体に馴染むまで深い眠りにつくことはあるみたいだけど、死ぬ事は無いって」
オアジュ魔神の言葉にヒカルの表情が明るくなる。
そして、パッと俺を見る。
いや、そんな期待した目をされても。
深い眠りにつく可能性があるんだろう?
「あれ? どうしてボルチャスリ魔神が呪神になる方法を知っているんだ?」
「あぁそれは、神が魔神になる方法と一緒だからだよ」
「神から魔神?」
「そう。神国から落とされた神は、強制的に魔界で魔神力に晒されて魔神になるから。まぁ、無防備な状態で魔神力に晒されるから、亡くなる神も多かったみたいだけど。でも魔神から呪神には、問題は無くなれるだろうって」
「ボルはどうして『問題ない』と、判断したんだ?」
「呪界にいる者は、既に呪力を受け入れている。土台が出来ているから、問題ないって言ってたよ」
本当に?
「ボルチャスリ魔神の所に来ていたドルハ魔神も『大丈夫だろう』と言っていた。というかドルハ魔神は、呪神力の役目を担っている呪力が『恐ろしい力だ』と、言っていたよ。普通は、呪神力が呪界を支える基本の力になるんだろう?」
「まぁ、そうだな。呪力で上手く回っているから、深く考えた事が無かったけど……確かに呪界を回す力は呪神力だよな」
そうか。
呪力で呪界を回すのはおかしいんだ。
これも修正して行かないと駄目だろうな。
「それで主、俺の望みを叶えて貰えるのだろうか?」
「それは……」
どうすればいいんだろう?
まだ呪神力には不安を覚える。
「俺は主の呪神力が、誰かを傷付ける力だとは思わない。だから、大丈夫だ」
俺を見るオアジュ魔神。
その真剣な表情に小さく息を吐き出す。
「分かった」
「俺の中にある魔神力を全て呪神力に変える必要があるそうなんだ。ゆっくり呪神力を流して貰って良いか?」
オアジュ魔神の言葉に頷く。
「あぁ、座っているより寝っ転がった方がいいだろう」
「すぐにご用意します」
俺の言葉にリーダーが、執務室の隅に簡易ベッドを用意する。
どうしてそんな物が、この部屋にあるんだ?
「主が仕事で疲れた時に使えるように、準備しておきました」
俺が疲れたって……執務室でする仕事なんて、ヒカルに力を送る以外に無いんだけど。
あぁでも、星が増えていけばこの執務室にも書類が集まったりするのかな?
「ありがとう」
とりあえず、簡易ベッドがあって助かった。
オアジュ魔神がベッドに仰向けになり、目を閉じる。
彼のお腹の中心。
胃の当たりに手を載せ、小さく深呼吸する。
呪神力、オアジュ魔神を傷付けるなよ。
ゆっくり、ゆっくり。
呪神力をオアジュ魔神の中に流していく。
彼の中にある魔神力がどんな反応をするのか、正直怖い。
でも、彼が信じてくれた俺の力だ。
きっと、魔神力とも上手く馴染んでくれるだろう。
……あれ?
呪神力を流して随分と経つ。
オアジュ魔神の核から呪神力を感じられるほどになった。
おそらく上手く行っているのだろう。
というか、全く抵抗を感じないんだけど。
「呪神力が、飲み込んだ」
「えっ?」
オアジュ魔神が目を開け、なぜか笑い出す。
「はははっ、予想外だ。主、たぶんもう呪神になっているから調べてくれ。いや、こんな簡単だとは」
オアジュ魔神の言葉に、首を傾げる。
もう、呪神に?
オアジュ魔神を見て、鑑定魔法を掛ける。
「本当だ。呪神になっている」
俺の呆然とした呟きに、オアジュ魔神ではなくオアジュ呪神が起き上がる。
「まさか、魔神力を追い出すのではなく飲み込んでしまうとは思わなかった」
そうだろうな。
俺も飲み込むなんて考えて無かったから。




