36.「終わり」を望む。
神国から呪界に来た10個の星。
そこに住む神と神族がこの世界の力に慣れたと報告が届いた。
全く抵抗なく馴染んだそうだ。
「驚くほど早く馴染んだな。予定では1年ぐらい時間を掛けようと思っていたんだけど」
俺の言葉に、リーダーから嬉しそうな雰囲気が漂って来た。
それに首を傾げる。
「皆さん、とても気に入った様です。特に呪力は、穏やかな気持ちになると言っていました」
なるほど、リーダーは呪力を褒められて嬉しかったのか。
「あっ、龍達と星を繋げないと駄目だよな」
星の管理者になるには、「星の中央に管理する者の力を流せばいい」らしい。
創造神が簡単だと言っていたので、問題が起こる事はほぼ無いだろう。
「それに関してですが、既に繋がっているそうです」
「えっ? 誰が繋げたんだ?」
「龍達です」
「そうか」
俺が行う予定だってけど、龍達が自分で繋げたのか。
「星や龍達に問題は?」
「大丈夫です。星にも龍達にも問題は起こっていません」
それなら良いか。
あとで龍達にお礼を言っておこう。
「主。今日はこれから時間がありますか?」
「大丈夫だけど、どうしたんだ?」
リーダーを見ると、安堵した様子が分かった。
というかリーダーは俺の予定を全て把握しているのに、どうしてわざわざ聞いたんだ?
「星に住む神達と神族達が主に会いたいそうです。時間があるならいいですか?」
「今日?」
「はい」
それは急だな。
「大丈夫だけど、ここに来るのか? えっ? 今、何をしたんだ?」
リーダーが、小さな緑の魔石が付いた封筒を取り出すと、手の中から消した。
「はい。皆さんこちらに来るそうです。用意しておいた手紙を、ロープに送りました」
皆さん?
もしかして全員で来るのか?
それにしても始めて見る手紙の送り方だな。
これもセブンティーンかナインティーンが作った道具なのかな?
気になる。
「主。ここに来るのは、各星の代表者達だけです」
「そうか」
そうだよな。
さすがに全員では来ないよな。
あれ?
口に出していないのに考えがバレた。
さすがリーダーだな。
あっ、ちょっと呆れた雰囲気で見られてしまった。
「時間は?」
「2時頃に、こちらに移動して来ます」
「分かった」
んっ?
2時?
あと、15分で2時だけど?
「1柱の体調がここのところ悪いそうです。その彼の体調に合わせたため、急に予定が決まったと聞きました」
体調の悪い神がいるのか。
「そんなに悪いのか?」
「今までの無理が、体調に影響を及ぼしているようです」
頼って来た神族達を守るために、星を隠し通して来た神か。
本当に大変だっただろうな。
「彼の体調に合わせたという事は、ここに来るのか?」
「はい。どうしても、一度会いたいそうです」
「『来るのが大変なら、俺から会いに行くから無理しなくてもいい』と、今からでも伝えて貰えるか?」
「もう、伝えています」
えっ?
「主ならそう言うと思い、勝手に伝えました。すみません」
「いや、それは良いよ。それで?」
「『王の手を、煩わせる事は出来ない』と言ったそうです」
「そうか」
無理をしなければいいけど。
2時を少し過ぎた頃、庭に扉が浮かび上がった。
「来ましたね。準備は終わっています」
リーダーが机の上を確認して頷く。
今日も完璧に準備が整っているんだろうな。
「お待たせ~」
俺の子供次代の姿をしたロープに先導されて来た、神達と神族達。
近付く神達から微かな神力を感じ取り、息を吞んだ。
あまりに弱い。
これだと……問題があるな。
「いらっしゃい。今日は会えて嬉しいよ」
ウッドデッキに上がって来た神達に軽く頭を下げる。
そんな俺を見て、神達と神族達が慌てた様子を見せた。
「呪界王様、我々に頭を下げないで下さい」
んっ?
顔を上げると、皆がホッとした表情を見せた。
「今日は時間を取っていただきありがとうございます」
深く頭を下げる神達と神族達に、仕方ないなと苦笑する。
「頭をあげて下さい。座ってゆっくり話をしましょう」
チラッと顔色の悪い1柱を見る。
リーダーが言っていた神は、彼の事だろう。
でも、彼だけではない。
どの神達も、かなり無理をしてきたのだろう。
限界を迎えている。
困ったな。
彼等には、呪神となってもらい星を見守ってもらおうと思っていた。
でも今の状態を見る限り、無理だ。
「この度は、我々を含め多くの仲間を守っていただきありがとうございます。呪界に来てすぐに挨拶をしなければならないのに、こんなに時間が経ってしまい申し訳ありません」
俺の前に座ったのは、体調の悪い神。
かなり無理をしているのか、少し呼吸が荒い。
「そんなことは気にしなくていい。新しい環境に慣れるために必要な時間だったのだから。星にいる神族達に、問題など起こっていないか? なんでも気軽に話して欲しい。あなた達はこの呪界を担う大切な者達なのだから」
俺の言葉に、安堵の表情を浮かべる神族達。
神国での経験が、彼等に余計な緊張感を与えていたのだろう。
「あの、1つお願いがございます。星が落ち着き、神族達が落ち着いたら……」
言葉を濁す神に、小さく頷く。
ここに来た神達は、既に力を使い果たしている。
そんな状態で、よく星を守り切ったものだ。
彼等も、自分達の状態を分かっているのだろう。
だから、目の前にいる神達の望みは「終わり」だ。
「ありがとうございます。ようやく解放されます」
目に涙を浮かべる神達に、笑みを浮かべる。
「彼等の最後が、どうか安らかであるように」と、力を籠めて祈る。
星での生活や神国にいた時の違いなどを聞きながら、星の状態を確認する。
話を聞く限り問題は無く、当分は現状維持で良さそうだな。
「今日はありがとうございました」
神達が、安堵した表情で各星に戻る。
誰も「また」という言葉を言う事は無かった。
「主、彼等はもう」
ロープが神妙な表情で俺を見る。
「分かっている。最後まで苦しむことが無いようにしよう」
「ありがとう」
ロープはお礼を言った後、星に向かった。
きっと神達の様子を確かめに行ったのだろう。
「どうしようかな」
星には管理する龍達がいる。
だから少しの間なら、神が不在でも問題はない。
でもずっとは駄目だ。
星を維持する力を持つ神は、絶対に必要となる。
これは早急に呪神が生まれることを「祈る」必要があるようだ。
そして呪神を生み出すために必要な力を呪界に流す必要も。
手の中に、ある力を出現させる。
「主、その力はなんですか?」
「これは、呪神力だ」
神国にいた時、神力に似た力を作り出した。
その力は俺が呪神になった事で、呪神力へと変化した。
ただこの力は、まだ安定していない。
だから、呪界に流せていない。
ヒカルにもまだ渡せていないから、彼は神ではあるが呪神では無い。
しかも呪力が思いのほか色々出来過ぎる力だったため、呪神力が必要と思わないんだよな。
いや、呪神になるにはぜったに必要なんだけど。
「どうしたら、この力は安定するんだ?」
呪神を生み出すには、祈りだけでは駄目だ。
呪神力がどうしても必要となる。
でも、こんな不安定な力を呪界に流す事は出来ない。
記録装置で「呪神力」を調べてみたが、「未知の力」「成長途中」としか出なかった。
未知の力という部分が怖いよな。
何が起こるか予測がつかないんだから。




