34天使の浄化。
天使を白帰箱から出すにしても、まずは苦しみから解放するのが先だろうな。
「浄化魔法か」
魔法を色々使って気付いたが、浄化魔法はかなり高度な魔法になる。
おそらく今の俺が使えば、体に負担がかかる。
でも、苦しんでいる天使をこのままには出来ない。
「翔、無理ならこのまま――」
「大丈夫だ。必ず助ける」
ただ、先の事を考えたら俺のこの判断は間違いだろうな。
アルギリスの現状が分からない以上、体に不安のかかる魔法を使わない方がいいだろうから。
でもそれで目の前の天使を見捨てたら、俺は絶対に後悔する。
だから、助ける。
未来、この判断を悔やむ事になるかもしれないけど。
「さて、やるか」
白帰箱の中に俺の力をゆっくりと浸透させていく。
浄化に必要な力が溜まったので、天使が黒い影に押しつぶされる姿をイメージし、そこから解放され自由に飛んで行くイメージを作る。
「浄化」
白帰箱の中が白く光ると、ずっと聞こえていた天使の悲鳴が止んだ。
そして光が消えていくと、天使の姿がはっきりと見えた。
「成功したのかな?」
天使の表情はとても穏やかで苦しんでいる様には見えないが、判断が難しい。
目を覚ましてくれたら、直接確認が出来るのだけど。
パーーーン。
「「「うわっ」」」
目の前の天使がいきなり光に包まれ、視界が光に覆われた。
腕で目を守るが、少し遅かったのかチカチカする。
「びっくりした」
アイオン神の言葉に、そっと腕を下ろす。
周りを見るが、特に攻撃されたような痕跡はない。
「何が起こったんだ? 天使は大丈夫か?」
天使が入っている白帰箱を見て、動きを止める。
「どうしてこうなった?」
アイオン神の問いに首を横に振る。
「さぁ、俺に聞かれても……」
白帰箱の中に、天使はいた。
しかも目を覚ましてくれている。
それにはホッとするが……どうしてまた赤ん坊なんだ?
見た目から判断すると、3歳か4歳。
「「うわ~、かわいい」」
スミレとモモの声に視線を向ける。
「いつの間に?」
さっきまで、この2人は部屋にはいなかった。
「今、来たところです」
リーダーの言葉に頷くと、スミレとモモに声を掛ける。
「どうしてこの姿になったのか分かるか?」
「この姿って、赤ちゃん?」
「うん」
俺の質問にモモが首を傾げる。
スミレは、何か考えているみたいだ。
「スミレ、分かるの?」
モモの質問に、スミレは白帰箱の中の天使に視線を向ける。
「主が、天使に何も求めないからだと思う」
「えっ? 俺?」
俺が求めないからとは?
「あぁ、なるほど」
アイオン神が納得した様子で頷くので、視線を向ける。
「天使は、生まれた瞬間から神の遣いとして動き出す。天使にとっては仕事だ。でも翔は、天使に何を求めた?」
天使に求めた事?
「苦しみから解放される事と、自由だな」
「それは、何も求めていない事と同じだ」
まぁ、確かにそうだな。
苦しんで来た天使に何かさせようなんて思わない。
「だから、ゆっくり傷を癒すためにその姿になったんだろう」
別に大人の姿でもゆっくり傷を癒せると思うけど、天使はそう思わなかったのかな。
「問題は?」
「おそらく無いだろう」
アイオン神の言葉に、ホッと安堵する。
俺のせいでこの姿になって、問題があったら申し訳ないからな。
「失礼します」
部屋に1体の一つ目が入ってくると、白帰箱の中から天使を抱き上げる。
そして、普通に部屋を出て行った。
「えっと?」
リーダーを見ると、頷かれた。
いや、どうして連れて行ったんだ?
「あの子をどうするんだ?」
アイオン神が、不安そうにリーダーを見る。
「お風呂に、ご飯。準備は完璧です」
「……そうか」
呆然とした様子でアイオン神が、俺を見る。
が、俺を見られても困る。
俺も知らなかったから。
「次だな」
答えようがないので、次の白帰箱に向かう。
さっきの事があるので、気持ちを落ち着けてから中を確かめる。
やはり聞こえて来た悲鳴に、小さく息を吐き出す。
大丈夫。
すぐにそこから解放するから。
続けての浄化なので、イメージを作る必要は無い。
あっ、天使に仕事を求めた方がいいのかな?
スミレとモモを見る。
期待した様子で、白帰箱の周りとフワフワと浮いている。
「まぁいいか。よしっ。浄化」
先ほどの天使より、少し大きな赤ちゃん。
今回もすぐに一つ目が連れて行ってしまった。
もしかして廊下で待機しているんだろうか?
「主、どうしました?」
リーダーの言葉に、首を横に振る。
「ちょっと……まぁ、何でないよ」
気になるけど、今は次の白帰箱に向かおう。
後で聞けばいい事だからな。
白帰箱に触れようと手をあげると、ズキッとした痛みが走る。
一瞬だけ動きを止めるが、すぐに白帰箱に手を置く。
ズキズキとした痛みが、両腕に感じられる。
そっと腕に力を籠めると、痛みが増した。
「ふぅ」
痛みに天使の悲鳴。
少しつらいな。
息を整え、白帰箱に力を送り込む。
「あれ?」
天使の悲鳴に違和感を覚える。
1人目、2人目の悲鳴を聞くと、頭がぐらぐらと揺さぶられ、憎しみが湧きあがった。
でも、最後の天使の悲鳴は誰かに対する憎しみより、苦しみが強い。
「早く解放しないと」
浄化を言いかけて、イメージを少し変える事にした。
前の2人より苦しんでいるような気がしたので、黒い影に包まれ苦しんでいる天使が解放され、自由に飛び立つイメージに。
「浄化」
白帰箱の中が白く光る。
そして、そのまま光が部屋の中を覆った。
ビシビシビシ。
不気味な音が部屋中に響くが、眩しすぎて調べられない。
何が起こっているんだ?
天使は大丈夫だろうか?
パン。
破裂音と共に、光が一瞬で消える。
慌てて部屋の中を確かめると、白帰箱が砕けていた。
そして天使が、空中に浮かんでいた。
「白帰箱が壊れた音か?」
アイオン神の言葉に、肩の力が抜ける。
白帰箱が壊れただけなら、
「「あっ!」」
スミレとモモの声に、ビクリと肩が震える。
「どうし、えっ?」
空中に浮かんだ天使の体が、ぽろぽろと崩れ始めていた。
何が起こったのか分からず、ただ愕然とその光景を見つめる。
「主、これは?」
ヒカルの言葉に、ただ首を横に振る。
「どうして、こんな……天使の体が」
アイオン神に応える事なく、ジッと天使を見つめる。
すると、天使の中に丸い光る珠が見えた。
でも、その球には沢山ヒビが入っている。
今もまた、大きなヒビが入った。
ぼろぼろぼろ。
「天使の魂が、限界を迎えてしまったんだ」
何が起こっているのか、分かった。
魂が消滅しかかっているんだ。
これはもう、誰にも止められない。
「魂? 限界?」
アイオン神が、天使に手を伸ばしかけて止まる。
彼女も知っているのだ。
魂の消滅が始まると、もう手立てが無いという事を。
ぼろぼろになって消えていく天使を見つめる。
「助けられなかった。ごめん」
手足が消え、下半身が消え、上半身が消えていく。
最後に残った顔がボロボロと崩れる瞬間、天使の顔が苦痛に歪んだように見えた。
天使の姿が完全に消えた空間を見つめる。
両腕から感じる痛みはかなり酷く、気を緩めると倒れてしまいそうだ。
「スミレ、モモ。ごめんな、最後の天使は助けられなかった」
俺の言葉に、2人は首を横に振る。
「助けたよ。だって、もう苦しまなくて良くなったもん」
モモの言葉に、スミレも笑って頷く。
「そうか」
苦しみからは、解放出来たのか。
それだけは良かった。
申し訳ありません。
2月26日の更新はお休みいたします。
次回の更新は2月28日です。
宜しくお願いいたします。
ほのぼのる500




