33.白帰箱の天使
空き部屋に並んだ3つの白帰箱。
「まさか話した翌日に持って来るとは思わなかった」
俺の言葉にアイオン神が、申し訳なさそうな表情をする。
「それにしても見事に真っ黒だね」
白帰箱に近付いたヒカルは、箱に手を伸ばす。
「ヒカル、駄目だ」
「えっ?」
ヒカルの行動に少し疑問が浮かぶ。
なぜ無防備に触ろうとしたんだろう?
「この白帰箱には、何かの魔法が掛けられている。触ったら危険だ」
ヒカルは俺の言葉を聞いて後ずさると、自分の手を見て首を傾げた。
「魔法?」
アイオン神が不思議そうに言葉をこぼす。
「気付いていないのか?」
あれ?
アイオン神は、白帰箱に触れていたな。
それなら触れても問題は無かったのか?
でもヒカルが触りそうになった時、白帰箱を包む力がおかしな動きをした。
「アイオン神。白帰箱の改造についてはどうやって調べたんだ?」
白帰箱に神力を通して調べたのでは無いのか?
「捕まえた神達から情報を聞き出した」
「あぁ、そっちからか」
そういえば、創造神はどうなんだ?
「創造神も、白帰箱に掛かっている魔法に気付かなかったのか?」
「創造神も気付いていないと思う。というか、攻撃されて調べられなかったんだ」
攻撃?
「調べるために触れようとしたら、火矢で攻撃されて怪我を負ったんだ」
「怪我を? 結界で、自分の身を守っていなかったのか?」
「しっかりと守っていたが、結界が破られたんだ。それでも調べようとしたんだが、周りが止めたんだ」
それは、必死に止めるだろうな。
今の神国を纏められる、唯一の存在だからな。
「1つ確認だけど、俺も調べられなかったらどうするんだ?」
「えっ?」
どうしてそんなに驚くんだ?
創造神より俺は強い力を持っているが、この問題を解決出来るとは限らない。
まぁ、そんな簡単に諦めたりはしないが。
アイオン神の視線が少し彷徨う。
「手に負え無い場合は、神国のどこかに封印すると思う」
封印。
つまり、中にいる天使の苦しみがずっと続くと言う事か。
それは、なんとして止めたいな。
白帰箱に近付くと、それを包み込む力がふわりと揺れる。
あっ、白帰箱を包み込んでいる力が魔法だと気付いていない可能性があるかも?
まさか、力が見えていないなんて事は……。
「アイオン神。白帰箱に掛かっている力。薄い膜のように見えるんだけど、それは見えているよな?」
「薄い膜? いや、何も見えないけど……」
「全く?」
「あぁ、何も見えないが」
まさか見えていなかったのか、こんなにはっきりと俺には見えているのに。
「ヒカルは見えるか? リーダーはどうだ?」
ヒカルに視線を向けると、白帰箱をジッと見つめハッとした表情をした。
「見えた! 白帰箱を包むように何かある。でもうっすらとした見えないみたい」
ヒカルは、微かに見えるのか。
リーダーは?
「私は、全く見えません」
少し離れた所に立っているリーダーを見ると、首を横に振られた。
リーダーには見えない。
「見える者と見えない者か」
なぜ、違いが出た?
俺とヒカルとリーダーの違いは何だ?
リーダーが岩人形だから?
駄目だ、分からない。
違いを考えるより、白帰箱の状態を調べた方が何か分かるかな。
まぁそれも、攻撃されたら……力で抑え込むか。
出来るかな?
そっと白帰箱に手を伸ばし、途中で止める。
触れた時、攻撃されない者と攻撃された者がいる。
違いは?
アイオン神は、ただ移動のために触れた。
創造神は、調べるために触ろうとした。
「創造神は、触れてから攻撃された? それとも触れる前に攻撃された?」
「触れる前。正確には、白帰箱に近付いた時だ」
近付いただけで?
という事は、まだ調べるための力は出していないよな。
「天使は眠っているのか?」
俺の言葉にアイオン神は首を傾げる。
「通常は眠っているはずだ。でも、この状態だからなんとも言えない」
「そうか」
もしかしたら天使が、白帰箱の外の様子を窺っているかもしれないな。
攻撃するか、しないか決めるために。
白帰箱を見る。
とりあえず、挨拶でもしてみようかな。
そして、ここが何処で、俺が何者か説明しよう。
あとは、協力を求めてみるか。
「初めまして、ここは呪界。そして俺は、呪界の王で呪神の翔だ。今から白帰箱と中にいる君達の状態を調べたい。協力を宜しく頼む」
白帰箱にそっと手を触れる。
バチッ。
「んっ? 今のは攻撃か? 火矢ではなく、小さく火花が散っただけなんだけど」
自分の体を見回し、首を傾げる。
音だけだったのかな?
「協力をありがとう」
そういう事だよな?
「えっと、少し力を流して確認するから、驚かないで欲しい」
ゆっくりと白帰箱に力を流す。
神力を少し多めに混ぜ込んだから、力に問題は無いと思うけど……。
「上手く行ったみたいだ」
白帰箱の状態が、頭に流れ込んでくる。
「……白帰箱の状態だけど、よくないな」
「えっ?」
俺の言葉にアイオン神の表情が険しくなる。
「中から天使を出したら、すぐに処分した方がいい。あぁいや、俺がすぐに燃やす方がいいか」
白帰箱に掛かっている魔法は、触れた者の力を根こそぎ奪い、その力を使い天使を変えていくようだ。
既に被害にあった神が数名。
天使達は、中からそれを防いでる。
創造神が攻撃されたのは、白帰箱の魔法から守るため。
俺は、白帰箱に魔法を掛けた者より強いため、魔法を抑え込めると判断したようだ。
実際に、魔法が作動する前に力ずくで抑え込んだから、その判断は正解だな。
「処分? 調べた方がいいと思うが」
「いや、天使を出したらすぐに燃やす。天使を救出したら、爆発するみたいだから」
白帰箱に掛かっている魔法の数は全部で5個。
触れたら離れられなくなる魔法に、力を根こそぎ奪う魔法。
攻撃から白帰箱を守る魔法に、周りにいる者を洗脳する魔法。
そして自爆する魔法か。
ヒカルが無防備に白帰箱に触ろうとしたのは、洗脳魔法だな。
でもヒカルには結界が張ってあるのにどうして?
創造神のように破られたのか?
チラッとヒカルを見る。
あれっ? 結界が無い!
「ヒカル、結界はどうした?」
結界はあると思い込んでいたから、気付かなかった。
「えっ? あっ、太陽達が結界魔法の練習をしていたから、付き合っていたんだった」
つまり、結界を張り忘れていたのか。
「ヒカル、結界は身を守る大切なものだ。気をつけてくれ」
俺の言葉に、何度も頷くヒカル。
ヒカルは賢いので、もう結界を忘れないだろう。
それにしても良かった。
結界が全く通じないのかと、正直不安だったから。
さて白帰箱の事はこれぐらいで、次は天使と会話が出来るかだな。
力を白帰箱の中にいる天使に向ける。
箱の中は真っ黒で何も見えないが、そこにいるのは感じる
俺の力が天使にそっと触れるのが分かった。
『――!』
頭に直接響いた音に、目を閉じ耐える。
これには覚えがある。
核のある空間を埋め尽くしていた呪いに、初めて接触した時と同じだ。
何を言っているのかは分からない、でも聞こえる声なき悲鳴。
「ぐっ」
頭の奥がどんどんと叩かれるような不快感に襲われる。
膝を床につけ、頭を腕で抱え落ち着くのを待つ。
周りが心配気に声を掛けてくれるが、今はそれに答える余裕がない。
しばらくすると、荒い呼吸を繰り返している事に気付く。
それを意識的に落ち着かせ、頭を抱えていた腕を離す。
「主?」
ヒカルの泣きそうな表情に、小さく笑う。
「大丈夫。中にいる天使の悲鳴が聞こえただけだ」
天使を、白帰箱から少しでも早く出してあげないと。
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ほのぼのる500




