28.変化した!
朝から妖精の大声に起こされた。
というか、妖精の大声に目が覚めて悲鳴をあげて起きた。
だって、起きたら目の前に口を大きく開けた妖精がいたんだ。
寝ぼけた状態だったから、「食われる!」と思ってしまって……。
「ごめん。許して」
「うぅ。主を食べるなんて考えた事もないのに……」
「うん、わかってる。寝ぼけていたから間違えたんだ」
「えっ、それって僕だと気付かなかったって事?」
いや、妖精だとは気付いていた。
「うん。気付かなかった」
余計な事は言わない方がいい時もある。
たぶん、今がその時だ。
「そっか。それなら仕方ないのかな?」
まだ疑問は残るみたいだけど、落ち着いてくれた。
良かった。
「それで、朝からどうしたんだ?」
窓から外を見る。
明るさから、かなり早い時間だと分かる。
「そうだった。命花! 命花に変化があったの!」
命花?
……あっ!
「本当か?」
まだ、頭がすっきりしていないようだ。
すぐに気付けないとは。
「うん、本当! 少し前から、音が聞こえるの!」
音?
命花からは小さな音が聞こえていた。
でも、妖精にはその音が聞こえていなかった。
それが、妖精にも聞こえる音に変わったのか?
「そうか」
ついに待っていた変化が起こった。
これはすぐに見に行かないと。
「すぐに行く。いや、着替えるから待っててくれ」
さすがに寝間着は駄目だな。
ベッドから下りて、急いで服を着替える。
あれ?
この服は、随分と触り心地がいいな。
三つ目達が、また何か新しい事に挑戦でもしたのか?
「主?」
「あぁ、ごめん。行こう」
靴を履くと急いで、地下神殿に向かう。
途中でリーダーに会ったので、事情を説明し一緒に行く事になった。
地下神殿に行き、地下4階まで一気に移動する。
地下4階に着いた瞬間に気付いた。
妖精が言っていたように、音が今までとは違う!
昨日、確認した時はまだ小さな「トクッ、トクッ」という音だった。
でも今は「トクッ、ピシッ、トクッ、ピシッ」と言う音が、空間に響きわたっている。
「ねっ、ねっ。音が凄いでしょう?」
妖精が、嬉しそうに命花の上を飛び回る。
そして何かを見つけると、俺を見た。
「音だけじゃなく、違う変化も起こっているみたい!」
「どこだ?」
「あっち!」
妖精が指した方に向かって走る。
すぐに、光が点滅している事に気付く。
「あれか!」
大きく育った葉っぱを避けながら、光りを点滅させている命花に近付く。
「随分と強い光りだな」
腕で目をかばいながら突き進むと、見つけた。
「あった」
傍によって命花を観察する。
微かに感じる呪力に、嬉しさを感じる。
「これが、呪界に生まれた新しい魂なのか」
何時か、この魂が呪界に産み落とされる命になるのか。
「不思議な感じだな」
初めて見るのに、どうしてだろう?
既にこの新しい魂を、愛おしいと思い始めている。
これがこの呪界を守る「神」としての思いなんだろうか?
「あれ?」
傍に来るまでは眩しくて腕で目を守っていたのに、目の前に来ると眩しくない?
でも、命花から発している光は弱まってはいない。
「不思議だね」
妖精の言葉に、頷く。
「そうだな」
「主、あっちにも強い光りが点滅してるよ」
妖精が指す方に視線を向ける。
まぁ、大きな葉っぱのせいで見えないけど。
「そうか。変化が起こっているのはこの命花だけではないんだな」
ピシッピシッピシッ。
今までの音とは違う?
視線を命花に戻すと、点滅が止まっていた。
「「……」」
俺も妖精も、ただジッと光の点滅を止めた命花に注目する。
「「……」」
ピシッパーーン。
視線の先にあった命花が、勢いよく弾け飛ぶ。
「「うわっ」」
とっさに目を閉じ、腕で目を守る。
「びっくりした」
目を開け、腕で目を守りながら命花のあった場所を見ると、虹色に輝く光が浮かんでいた。
「綺麗だな」
俺の言葉に妖精が、くるくると光の周りを飛ぶ。
「これが魂?」
妖精の言葉に頷く。
「あぁ」
しばらくすると、目の前にあった光がスーッと消える。
「消えた! 主、消えちゃった!」
慌てた様子で、俺の周りをくるくる飛ぶ妖精。
「大丈夫だ」
そう、大丈夫。
消えたのではなく、新しく生まれるために向かったのだ。
行き先は分からないが、それだけは分かった。
「神の感覚というのは不思議だな」
「大丈夫なの?」
心配そうに妖精が俺の目の前に飛んで来る。
「あぁ、この呪界に生まれ落ちるために向かったんだ」
来年には、この星のどこかに生まれているんだろうな。
「そっか」
少し寂しそうな妖精。
「ありがとう。見守ってくれて」
妖精が見守ってくれていたから、安心していられた。
「うん。これからも任せて。まだまだ見守る子達は残っているからね!」
妖精が、生い茂った葉っぱに視線を向ける。
葉っぱのせいで命花は見えないが、この空間には多くの命花が育っている。
それだけではない。
きっと、これからどんどん新しい命花が生まれて来るはずだ。
新しい魂の誕生で命が生まれる。
輪廻も順調に機能しているのは、各国に新しい命が宿った事で分かる。
「呪界は、上手く回り出したんだ」
ヒカルに任せる事になっても、この辺りの心配はしなくていいだろう。
ちょっとだけ、肩の荷が下りたかな。
「主、そろそろ帰りませんか? 子供達が待っていると思います」
リーダーの言葉に、今が朝だった事を思い出す。
「そうだな、帰ろうか。妖精は、どうする?」
「まだここにいる」
「そうか。命花に、異常が出たら知らせてくれるか?」
俺の言葉に、嬉しそうにくるくると上空を旋回する妖精。
「分かった! すぐに知らせるね」
「あぁ、頼むな」
妖精と別れて、リーダーと地下神殿に戻る。
「主、良かったですね」
あっ、リーダーの声がいつもより弾んでいる。
チラッとリーダーに視線を向けると、歩き方もいつもより軽やかだ。
どうやら、テンションが上がっているみたいだ。
「そうだな。リーダーも嬉しいのか?」
「もちろんです!」
「そうか」
家に戻ると、子供達が慌てた様子で駆けて来た。
「どうした? 何かあったのか?」
「命花に何かあったの?」
桜の言葉に、首を傾げる。
どうして知っているんだろう?
「主を探していたら、孫蜘蛛達が教えてくれたの」
俺を探していた?
「あっ、ごめん。行き先を伝えていなかったか」
子供達の後から来た一つ目達に視線を向けると、頷かれた。
「申し訳ありません。私も興奮してしまって、伝えていませんでした」
リーダーの珍しい失敗に、子供達がビックリした表情をしている。
まぁ、それだけリーダーの仕事はいつも完璧だからな。
「それで、命花に何があったの?」
楓が俺の腕をひっぱる。
「大丈夫だ。命花の変化は、新しい魂が生まれるための変化だったから」
俺の言葉に、子供達がわっと歓声をあげる。
子供達の後ろにいる一つ目達も、一緒に喜んでいる姿が見えた。
「皆、心配していたんだな」
命花については、皆に話しておいた。
子供達は、俺の許可を取って見にいった事もある。
でも、ここまで喜んでくれるとは思わなかったな。
「子供達は、命花の役割について勉強していましたから、その重要性も理解しています」
リーダーの言葉に、ビックリする。
「そうだったんだ」
いつの間にか、子供達もしっかりしてきているんだな。
頼もしいな。




