表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
後片付けまでしっかりと
637/672

27.アルギリスの復活? 4

―アルギリスの信者 ハリーヒャ神視点―


アーチュリ神から聞かされた内容に、言葉を失った。


「俺を心配してなのか?」


「そうだ」


信者の仲間が、あの方に俺の事で意見を言った。

「呪力に関わらせないでくれ」と。


何処から呪力の事が漏れたのだろう?

それは極秘の事だったのに。


いや、違う。

周りには、既にバレていた。

だって、ある日を境に「大丈夫ですか?」から「もうあれに関わってはいけない」と言う言葉に変わったから。

それを聞いて、凄く苛立ったのを覚えている。


あれ?

いつもなら皆の意見に耳を傾けられるのに、どうして心配してくれた彼等を苛立たしく思ったのだろう?


「おかしい」


「別におかしい事ではない。あの方は自分の邪魔をする者に容赦はしない」


えっ?

あの方は、そんな方では……そんな方?

俺はあの方の事を、よく知っているはずだ。


アルギリス様の復活を誰よりも望み、そしてそのためには……何をしてもいいと……。

何をしても?

そうだ。

アルギリス様の為なら……。


耳にこびりつく叫び声。

1人ではない、何人いるのか分からないほど重なり合った声。

その声達が「許さない」と、何度も何度も俺に向かって叫び続ける。


アルギリス様の為なら、本当に何をしても許されるのだろうか?


「どうした?」


アーチュリ神の言葉に首を横に振る。


「なんでもない。それで、彼は?」


あの方に意見を言った彼は、どうなった?


「呪力の中に放り込まれた」


「……」


「何とか這い上がって来たが、心は死んでしまったようだ」


悲壮な叫び声が響く中に放り込まれて、意識を保てるわけが無い。

だって、頭に心に叩きつけられるのだから。

怨み、憎しみ、妬み、恐怖を。

彼等は、アルギリス様を復活させるための……「生贄」。


「彼は今、何処にいるんだ?」


「地下の部屋だ。おそらく今日中に処分されるだろう」


処分。

その言葉は、アルギリス様の復活を望む信者に使って良い言葉だっただろうか?


「会いたい」


「会ってどうするんだ?」


どうする?

どうするんだろう?

ただ、会わなければならないと思った。


「ただ、会いたいだけだ」


「……分かった。……大丈夫か?」


アーチュリ神の言葉に、違和感を覚える。

どうして、そう思ったのだろう?


あぁ、そうだ。

アーチュリ神から本気で心配されたのが初めてだからだ。


彼は隠せているつもりだろうけど、私は知っている。

心配そうな表情をするが、決して本気で心配していない事を。

それなのに、今の表情はこれまでと違い本気で心配している。


「あぁ、大丈夫」


アーチュリ神から視線を逸らす。

本気で心配?

馬鹿々々しい。

大丈夫じゃない事を知っているくせに……。


アーチュリ神が案内した場所は、アルギリス様を裏切った者が入れられる地下にある独房。

でも、本当に彼はアルギリス様を裏切ったのだろうか?

あの方を、裏切っただけでは?

いや、違う。

裏切ったのではなく、意見を言っただけだ。

それを裏切りと言うのは、おかしいのでは?


彼のいる部屋に入り、顔をしかめる。

部屋は窓もなく照明も暗い。


「こんな場所に」


床に座り込んでいる彼は、ただジッと一点を見つめていた。

そんな彼に近付くと、手を握る。

反応はない。


「……」


謝ってどうなる?

何も変わらない。

ただ、私の気持ちがほんの少し軽くなるだけ。


手を離し、何も言わずに立ち上がる。

部屋を出ると、アーチュリ神が待っていた。


「気はすんだか」


「気はすんだ」か。

確かに、彼に会いに来たのは俺の為であって彼の為ではないな。


「あぁ、ありがとう」


「どうする?」


そういえば、呪力のある部屋に行く時間か。


「行くよ」


「分かった」


アーチュリ神と共に、呪力の下に向かう。


いつもの場所に行くと、マーサリア神が既に待っていた。


「遅かったですね」


「すまない」


アーチュリ神とマーサリア神がみつめるなか、呪力に近付く。


あぁ、そうか。

あの2柱は、私を守るためではなく監視だ。

あの方が用意した……生贄を逃がさないための監視役。


「ははっ、今は私が生贄なのか」


ちがう、ちがう。

あの方は、そんな方では。


いや、簡単に仲間を切り捨てる方だ。

そして私は生贄だ。


目の前に呪力の塊がある。

どこまでも真っ暗で、そして哀しい存在。


呪力に伸ばす手が、震えている。

既に知っているから。

あれに触れたら、どうなるか。


あぁ、怖い。

あぁ、恐ろしい。

どうして、こんな事を始めてしまったのだろう?


自分の手が呪力に包まれていくのを見る。

一気に押し寄せる様々な負の感情。

ぐらぐら揺れる視界。


この力を、我々が手に入れられるわけだない。

だって彼等がこうなったのは「アルギリス様の為」と言って、彼等を生贄にしてきた我々のせいなのだから。


「ぐっ」


呪力に包まれた腕に痛みが走る。

今までになかった事に、叫び声を上げそうになった。


腕に視線を向ける。

呪力に包まれているため、何が起こっているのか分からない。

ただ、もの凄い痛みが伝わってくる。


足から力が抜け、床に膝を着ける。

向けられる悪意と憎悪に、息が苦しい。


「ごめ……」


謝罪を途中で止める。

許されない事をしておいて、謝る?

なんて勝手な。


誰か、この子達を助けて。

お願いだ。


でも誰にお願いすればいい?


あぁ、あの人なら。

もしかしたら、この子達を助けられるかもしれない。

お願い、彼等を苦しみから助けてあげて。


「うあ゛ぁぁぁぁぁぁ」


全身が、いたい。


「危ない!」


「近づくな、巻き込まれるぞ!」


「煩い! 死なせるわけにはいかない!」


体が後ろに強く引かれると、呪力が腕から離れていくのが見えた。

その瞬間、頭に大量の声が響く。


「ぐぁっ」


今までにない声の数に、顔が歪む。

でも呪力が完全に離れると、腕の痛みは落ち着き声も遠ざかった。


「うで、は?」


腕を上げようとするが、力が入らない。

視線を腕に向ける。

真っ赤に染まった自分の腕が見えた。


「あった」


あまりの痛さに、引き千切られたと思ったけど。


―アーチュリ神視点―


意識が無いハリーヒャ神を見下ろす。

そして、小さく息を吐きだした。


「どうだ?」


「大丈夫だ」


何処が?

出血が酷い腕に、青白い顔。

最近は食事も出来なくなっている。

これのどこが大丈夫なんだ?

自分が放った言葉に、吐き気がする。


マーサリア神が、ハリーヒャ神の傷ついた腕の治療を始める。

それを確認してから、呪力に視線を向ける。


ハリーヒャ神の表情が苦痛に歪んた瞬間、呪力が大きく膨れ上がった。

まるでハリーヒャ神を飲み込むように。


慌ててハリーヒャ神を助け出したが、あれは何だったんだ?

何が起こったんだ?


「終わった。あの方に、今日の報告をしに行く。彼を部屋に」


マーサリア神は、振り返る事なくあの方の下に向かう。

彼にとってハリーヒャ神は道具なんだろうな。

自分の地位を万全にしてくれる。


ハリーヒャ神を抱き上げ、呪力から離れる。


パチャン。


「えっ?」


振り返って、呪力が閉じ込められている場所を見る。


今、音が聞こえたと思ったけど。

ハリーヒャ神を抱き上げたまま、暫く様子を見る。


「気のせいか」


1つため息を吐くと、ハリーヒャ神の部屋に向かう。

最初の頃に比べると、かなり軽くなってしまった。


早く、ここから逃げてほしい。

壊される前に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ