26.紹介します。
ヒカルが執務室から出て行くと、リーダーがお茶とお菓子を持って来る。
「ありがとう」
窓から外を見ると、雪が降っている。
「どれくらい積るかな?」
昨日の夕方から降り出した雪は、今日の朝には景色を一変させていた。
「止みそうにないので、かなり積ると思います」
「そっか」
外から、子供達の声が聞こえる。
どうやら雪で遊んでいるようだ。
暖かいお茶を飲む。
寒い冬には、ちょっと熱めのお茶が美味しい。
そして、お団子!
甘辛いタレが美味しい。
「ごちそうさまでした」
やっぱり和菓子はいいなぁ。
昔は、そんな風に思わなかったのに。
数年間、食べられなかったせいかな?
「主、主」
上から聞こえる声に、視線を向ける。
「どうしたの?」
「親玉さんに、呼んできて欲しいってお願いされたの」
親玉さんが?
何かあったのかな?
あれ?
「冬眠はどうしたんだ?」
少し前に、冬眠に入ると言っていたような気がするんだけど。
「今はそれどころじゃないって言ってたよ」
冬眠は、用事があったらしないものなんだろうか?
いや、違うよな。
でも、好きな夕飯の時は冬眠中でも起きて来るし。
……まぁ、冬眠にも色々あるんだろう。
「分かった。何処に行けばいい?」
「森にいるよ」
森なんだ。
もう一度窓から外を見る。
「森か……。よしっ、行こう!」
一瞬、「寒そうだから無理」と言いそうになってしまった。
駄目だなぁ。
「リーダー、行って来る」
「私も一緒に行きます」
えっ?
リーダーも?
「寒いけど大丈夫?」
「えっ? 私は寒さ暑さを感じませんが……」
あっ、そうだ。
一つ目のリーダーは岩で出来ているんだった。
見た目で分かるのに、すっかり忘れていたな。
「ごめん、行こうか」
執務室を出て1階のリビングに入ると、コアとチャイが寛いていた。
「どこかに出掛けるのか?」
コアの言葉に首を横に振る。
「ちょっと出て来るだけだから、護衛はいらないよ。リーダーもいるし」
「そうか」
ウッドデッキに出ると、冷たい風に襲われる。
「寒いな~」
慌てて周りの空気を温める。
でも、やっぱり寒さを感じるんだよな。
「「「「「主~」」」」」
子供達の声に視線を向けると、雪合戦をしているのが分かった。
「頑張れよ~」
「主も一緒に遊ぼうよ~」
太陽が誘うように両手を振る。
「ごめん。今日は、用事があるんだ」
「そっか、残念。また今度ね!」
桜が残念そうな表情を見せる。
それに軽く手を上げて、子供達の遊んでいる風景を見ながら森に向かう。
「雪合戦かぁ」
ちょっと微笑ましい……いや、待て。
何あの剛速球。
バシッ。
ヒュッ。
ボゴッ。
雪を投げる音がおかしい。
ぶつかった時の音もおかしい。
「まぁ、あの子達の雪合戦だもんな。普通なわけないか」
剛速球が飛び交う雪合戦を見る。
……参加しなくて良かった。
「主、こっち! こっち!」
森に出ると、すぐに親玉さんが姿を見せた。
「今日はどうしたんだ?」
「フェンリルが眷属を紹介したと聞いた。我にも眷属がいるので、紹介したい」
別に紹介されたわけでは無いけど、親玉さんの眷属か。
気になる。
「分かった。何処にいるんだ?」
俺の言葉に親玉さんが森に向かって前脚を上げる。
次の瞬間、大きな蜘蛛が目の前に現れた。
「この子だ」
親玉さんの眷属は、蜘蛛の姿なんだ。
ただ親玉さんとは違って、体は細く足がすごく長い。
そして、親玉さんよりかなりデカい。
「よ、宜しく、お願いします」
勢いよく下げられる頭。
よく見れば、ふるふると体が震えている。
もしかして、また怖がられているんだろうか?
「こちらこそ、宜しく」
あぁ、震えが酷くなった。
「親玉さん、紹介してくれてありがとう」
震えている姿が可哀そうだから、早々に離れた方がいいかな?
「この子は、2番目の子なんだ」
親玉さんの言葉に首を傾げる。
「2番目の子?」
「最初に眷属にした子は、新しい大地に遊びに行っているので呼べなかった」
あぁ、眷属にした順番か。
「親玉さんには眷属が何匹いるんだ?」
こんな大きな蜘蛛が何匹もいるんだろうか?
森に出掛けた時に、見かけた事がないんだけどな。
「3匹だ」
少ないな、3匹か。
「春になったら、皆を紹介するな」
春?
「分かった。楽しみにしているな」
俺の言葉に親玉さんが眷属に声を掛けた。
ははっ、ここから離れられると分かったからかホッとしているな。
やっぱり俺の膨大な力は、恐怖を与えるみたいだ。
親玉さんの眷属に手を振って見送る。
しばらくすると、スーッと姿が見えなくなった。
「あれ? まだ姿が見えなくなるほど離れていなかったよな?」
「あの子は、短時間だけど姿を消せる力があるんだ」
なにそれ、凄い。
「そんな能力があるんだ」
「うん。眷属として契約したら、なぜかその能力が目覚めたんだ」
眷属の契約って不思議な物なんだな。
「あぁ~! 見つけた!」
えっ?
シュリの大声に視線を向けると、慌てた様子でこちらに向かって駆けて来る姿が見えた。
「シュリ? どうしたんだ?」
「主に眷属を紹介した者がいたから、我のを森に迎えに行っていたんだ」
もしかして、シュリも眷属を連れて来たのか?
んっ?
シュリの後ろに何か飛んでいるような……。
「蝶?」
シュリの背後から姿を見せたのは、俺の両手を広げたぐらいの蝶。
羽は黒くて、不思議な青い模様がとても美しい。
そして羽ばたくと、羽から白い光が溢れている。
「主。この子は我の眷属だ」
ふわっふわっふわっ。
目の前でふわりと飛ぶ蝶。
どうやらこの子は喋れない様子。
「初めまして、宜しくな」
ふわっふわっふわっ。
あれ?
この子は怖がっている様子が無いな。
「それにしても蝶か。森の中では危なくないか?」
蝶は、弱いイメージがある。
魔物に狙われたら、あっという間に殺されてしまいそうだ。
「主」
親玉さんが、小さな声で呟く。
それに視線を向けると。
「あの眷属。どんな攻撃も当たらないし、攻撃力もかなりある」
あれ?
イメージにある弱い蝶では無いみたいだ。
「そうなのか?」
「うん。我の眷属を、吹き飛ばしたことがある」
「えっ? 本当に?」
先ほど見た足の長い蜘蛛を思い出す。
そして目の前を飛ぶ蝶に、視線を向ける。
「見た目からは想像出来ないな」
「……」
あれ?
今不思議な音が聞こえなかった?
「帰るのか? 分かった」
凄い、シュリは蝶と話が出来るのか?
「……」
あっまた、不思議な音が響いた。
「あぁ、分かった」
あれ、もしかして。
あの不思議な音は、蝶が出しているのか?
「……」
そうだ、間違いない。
蝶の方から、不思議な音がしている。
なんとも不思議な存在だな。
あっ、帰って行くみたいだ。
「ばいばい」
蝶に向かって手を振ると、俺の上空で旋回すると飛び去った。
「では、主。帰りましょうか」
「あぁ、もう帰っても良いよな?」
親玉さんとシュリを見ると、頷いた。
「主、どちらの眷属が良かった?」
えっ?
親玉さんと見ると、真剣な目をしている事に気付く。
シュリも、同じ目をして俺を見る。
「どっちって……ん~」
蜘蛛と蝶?
チラッと親玉さんとシュリを見る。
……どっちと言われてもなぁ。




