24..森を疾走。
「昨日は楽しかったね」
ヒカルが俺を見て笑う。
「あぁ、そうだな」
確かに楽しかった。
最後は、「適当に」なんて頭から完全に消えていたしな。
でもどんなに見えたとしても、徒党を組まれて一気に攻められたら負けてしまう。
あれは、かなり悔しかった。
「雷と太陽が、新しいルールと遊び方を追加してまたやろうって言っていたよ」
えっ、新しいルールと遊び方を追加?
「あれで十分なのでは?」
「そう? もっと楽しめる遊びになりそうだけど」
なるほど、実践してはルールや遊び方を変えているのか。
次はどんな遊びに変わっているのか。
……過激になっていなければいいんだけど。
「主?」
「いや、怪我……大怪我には気を付けてくれればいいよ」
怪我はまぁ、大目に見よう。
擦り傷や切り傷などは、外で遊んでいたら負うものだ。
「大丈夫だよ。皆、ヒールが得意だから」
ヒカルの言葉に苦笑してしまう。
確かに昨日の様子を見る限り、皆が使うヒールはかなり凄い。
苦手な子もいたはずなのに、いつの間にか克服していた。
「まぁ、ほどほどに。光の玉は、昨日と同じだな」
「うん、そうみたい」
ヒカルは、光の玉を消すと椅子から立ち上がる。
「また、明日よろしくお願いします」
ヒカルの言葉に、笑みが浮かぶ。
「うん、明日もよろしく」
執務室から出て行くヒカルを見送ると、椅子に背を預ける。
今日はどうしようかな。
「どうぞ」
「ありがとう」
リーダーの入れてくれた、お茶を飲む。
今日も、美味しい。
「今日はこれからどうしますか?」
「そうだな……あっ」
昨日、森から帰って来る時に見た事のない魔物を見たんだよな。
それに、今までの魔物とは違う気配も感じた。
あれが、気になっている。
「森に行こうと思う」
気になる事は、調べないとな。
別に、やる事が思いつかないという事では無い。
そう、探せばやる事はあるはずだから。
「森にですか?」
「うん。ちょっと気になる魔物を見たから、調べようと思う」
俺の言葉に首を傾げるリーダー。
「昨日チラッと姿を見たんだ」
「分かりました。では、ウッズを呼びますね」
ウッズは、森の監視を任されている一つ目の名前だ。
「忙しそうだったら、呼ばなくてもいいぞ」
皆、仕事があるからな。
「ですが、森で魔物を探すならウッズは凄く役に立ちます。彼も、主の役に立てると喜ぶでしょうし」
「分かった。でも、無理はさせないように」
「分かりました。では、呼んで来ます」
ここに?
それは、面倒だろう。
「俺も一緒に行くよ」
「ウッズの手が空いていない可能性があるので、ここで待っていて欲しいのですが」
あぁ忙しくて、すぐに動けない可能性があるのか。
それなら俺だけで森に行ってもいいんだけど、チラッとリーダーを見る。
多分、反対されるな。
「分かった。ここで待ってるよ」
リーダーは俺の言葉に満足そうに頷くと、執務室から出て行った。
しばらくすると、執務室の外が騒がしくなる。
視線を向けると、扉を叩く音が聞こえた。
「どうぞ」
「暇そうだったので、連れてきました」
暇そう?
今日も早朝から森に出掛けたと思ったけど、違ったのかな?
「主~。私を呼んだ~」
そういえばウッズは、独特の話し方をする一つ目だったな。
「あぁ。昨日見た魔物を探したいから、手伝って欲しいんだ」
俺の言葉に、胸を軽く叩くウッズ。
「私に任せて~。魔物の特徴を言ってくれれば~、何処辺りを探せばいいか分かるよ~」
魔物の特徴か。
昨日見た、魔物を思い出す。
「黒く長い毛に全身が覆われていて、顔も毛でよく見えなかったな」
特徴がそれ以外に思いつかない。
とにかく、黒く長い毛が目立っていたから。
「黒くて長い毛?」
ウッズの言葉に頷くと、彼は少し考えるような仕草をする。
そして何度か頷くと、俺を見る。
「可能性のある魔物は、2種類いるよ~。この家からそれほど離れていない場所に~縄張りがあるから、今から見に行く~?」
さすが森の監視を任されているだけあるな。
すぐに、探すべき場所を見つけてくれた。
「ありがとう。今から行こうか」
「行こ~」
リーダーに声を掛けてから執務室を出る。
廊下に出ると、今日の護衛を任されているフェンリルの子供達が5匹いた。
「今から森に行くんだ。護衛を頼むな」
「「「「「はい」」」」」
嬉しそうに尻尾を振る5匹のフェンリル。
ここで「大丈夫だから」と護衛を遠慮すると、もの凄く落ち込む。
だから俺は、遠慮を止めた。
「さて、行こうか」
ウッズの先頭に、森を疾走する。
20分ほど森を進むと、ウッズが合図を送って来た。
「この辺りなのか?」
走る速度を落としながら、周りを見回す。
「うん。黒くて長い毛を持つ魔物の住処が、近くにあるんだよ~」
注意深く周りを見る。
森の中であの黒い塊が動いていれば、すぐに見つけられると思うんだけど……。
「いたっ!」
木々の間に、黒く長い毛が見えた。
全体が見える位置に、そっと移動する。
それに合わせて、護衛のフェンリル達も移動する。
チラッとフェンリルを見る。
凄いよな。
魔物を探すため、フェンリル達には気配や魔力を押さえてもらった。
その結果なんだけど、傍にいるのに気配も魔力も感じない。
まさか、ここまで完璧に抑え込めるなんて。
「主~、ここから見えるよ~」
ウッズの声がする方に移動する。
「ありがとう」
ウッズも俺も小声で話しているが、聞こえたのだろう。
ぴくっと黒い塊が動いて、顔を上げた。
うわ~、長い毛のせいで顔が全く見えない。
「あれは子供?」
「違うよ~。大人~」
という事は、違う。
「ごめん。違うようだ。もっと大きな体だったから」
「という事は~。あっちだね~」
あっち?
2種類いると言っていたので、もう1種類の方という意味かな?
「主、探してるのはあれに似ているの?」
フェンリルの言葉に頷く。
「うん、あの魔物をもっと大きくして……鼻を長くした感じかな」
少し離れた所にいる黒く長い毛の魔物は、長い毛の中に鼻が隠れてしまっている。
でも、昨日見た魔物は、毛の間から鼻が出ていた。
「という事はやっぱり、あの子達の事かな?」
あの子達?
フェンリルは、俺の探している魔物が分かったのか?
それに、どうして焦っているんだ?
「知っているのか?」
「えっと、もしかすると俺達の眷属かも」
けんぞく?
えっ、けんぞくって何?
「あの子達が違うという事なら、そうなるね~。だいたい、黒く長い毛の魔物って2種類だけだし」
ウッズの言葉に、フェンリルが頷く。
どうやら俺以外は、探している魔物が何か分かっているみたいだ。
それにしても、けんぞくが気になる。
どこかで耳にしたような気がするんだよな?
あっ、眷属の事かな?
フェンリルが「俺達の眷属」と言っていた。
つまり、フェンリルにつき従う魔物という事だ。
「フェンリルには、眷属がいるのか」
凄いな。
「森の王、全員に眷属はいますよ」
えっ?
フェンリルだけではなく、森の王全員に?
「そうなのか?」
俺の質問に、頷くフェンリル達。
森について、知らない事がまだあるみたいだな。
あれ?
記録装置にも記憶装置にも、眷属について何も書かれていなかったような気がする。
見落としたのかな?




