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異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
後片付けまでしっかりと
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20.アルギリスの復活? 3

―アルギリスの信者視点―


呪力を手にするために、その力に初めて触れてから7日目。

今日も呪力を手にするために、あの力がある場所に行かなければならない。


「はぁ」


自分でやると決めた。

全てはアルギリス様の為。

それなのに足が動かない。


初めて呪力に触れた日、気付いたら自分の部屋のベッドで寝ていた。

目覚めてすぐは、何が起こったのか分からなかった。

なぜなら、ベッドに入った記憶が無かったから。


混乱していると、アーチュリ神が部屋に来た。

そして「呪力に触れた瞬間に気を失った」と、心配そうな表情で私を見る。

そんなアーチュリ神を見ながら、もう一度記憶を辿る。

でも、思い出せる事は何も無かった。


倒れた翌日、もう一度呪力に触れる。

そして、目が覚めるとベッドの上だった。

昨日と同じ状況。

すぐに自分が呪力に触れ、倒れたのだと理解した。


あの時、なぜ倒れたのか。

もっと真剣に考えればよかったと、今だから思う。

いや、倒れた原因が分かったとしても、何も変わらない。

アルギリス様の為に、やるしかないのだ。


「行こう」


逃げたくなる気持ちを無視して、呪力の下に向かう。


数日、呪力に触れては倒れる事を繰り返した。

そして昨日ついに、呪力に触れても倒れず意識を保つことが出来た。

だが……。


「くっ」


昨日の事を思い出した瞬間、耳元で不快音が鳴り響いた。

立ち止まり両手で耳を覆うが、音は消えない。

それどころか、大きくなった気さえする。


意識を失わずにいた私に届いたのは、大音量の不快音。

それを聞いた瞬間、眩暈と吐き気。

そして、私の中にある力が暴走しそうになった。

慌てて呪力から離れたため力は暴走しなかったが、不快音は数時間鳴り続けた。


「ハリーヒャ神? 大丈夫ですか?」


俺の様子を見た信者仲間の1人が、慌てた様子で俺の元に駆けて来る。


「どうしたのです? 顔色が悪い。部屋に戻って休まないと」


俺の体を支えるようにし、部屋に戻ろうと促す信者仲間に首を横に振る。


「すまない、やる事があるので行かなくては」


俺の言葉に、眉間に皺を寄せる信者仲間。


「その状態で? 無理です」


彼から見て私は、必死に止めなければならない状態なのだろうか?


「あのお方が、ハリーヒャ神に何か指示を出したのは知っています。ですが、ハリーヒャ神はご自身の体を大切にしてください」


えっ?

あのお方が指示?


「違います。あのお方に指示されたわけではありません。自分でやると言ったのです」


そう、これは自分で決めた事。

あのお方に、呪力を手に入れろと指示されたわけではない。


「そうなんですか?」


不審そうに俺を見る彼に、笑みを作って頷く。


「それだとしても、今日はお休みください」


一瞬、彼の言葉に縋りたくなった。

でも駄目だ。

一日でも早く、呪力を扱えるようにならなければ。


「私は大丈夫。大丈夫です」


そう、大丈夫。


「ハリーヒャ神」


悲しそうな彼の表情に心が痛む。

心配してくれているのに、その思いに応えられない。


「行きますね」


気持ちを奮い立たせ、呪力の下に行く。

大丈夫。

私が呪力などに負けるわけが無い。


「アルギリス様に、不甲斐ない私など見せられない」


目的の部屋まで来ると、扉を開ける。

中に入ると、奥に真っ暗な闇が見えた。

それが、呪力。

私が扱えるようにならなければならない力だ。


この世界にある呪力は、神国や呪界にある呪力より不安定だと聞いた。

だからこそ、今のうちに手に入れてしまわなければならないと。

完全に安定してしまうと、もう手に入れる事は出来ないだろうから。


震えそうになる体を押さえつけ、呪力に近付く。

すぐ傍にはアーチュリ神とマーサリア神。

あのお方が、俺を心配して付けてくれた。


「では、我々はここで見守ります。気を付けて」


マーサリア神の言葉に、小さく頭を下げると呪力に近付く。

さっきより体の震えがひどくなっている事に気付く。


「気持ちだけで震えを止めるのは無理みたいだな」


呪力の傍によると、一度深呼吸をする。

そしてそっと、呪力に手を伸ばす。


初めて呪力に手を伸ばした時は、驚いた。

私が手を伸ばすと、呪力の方からも黒い影がこちらに向かって来たから。

慌てて手を引っ込めようとしたが、残念ながらここまでの記憶しかない。


手にそっと呪力から伸びた影が絡みつく。

その瞬間、大音量の不快音が頭の中に鳴り響く。

とっさに手を振り、呪力から伸びた影を振り払おうとする。

が、昨日は振り払えたのに、今日は出来ない。


「なんで?」


何度も手を振る。

不快音が酷く、それ以外の行動が出来ない。


「うわっ」


ぐらぐらと揺れる地面?

いや、これは私が揺れているのか?


キーーーーーン。


不快音とは違う、甲高い音。

耳にこびりつくような気持ちの悪い音に、足から力が抜ける。


「ぐっ」


こめかみのあたりに痛みが走る。

いや、頭全体が痛い。


「「「「「許さない」」」」」


大音量の不快音と甲高い音に頭を抱えていると、不意に聞こえた声。


「えっ?」


でも、その声を理解する前に意識が途切れた。



真っ暗な闇の中にいた。

どこを見ても闇、闇、闇。

誰かの叫び声が聞こえる。

誰かの泣く声が聞こえる。

でも、何を言っているのか分からない。

音としては届いている。

それなのに、何を言っているのか分からない。


ぐっと腕を引かれた。

そちらに視線を向けると、目の部分がぽっかりと開いた顔が目の前にあった。


うわっ。


声に出して叫んだ……はずなのに。

自分の声さえ聞こえない。


ぎゅっ。


掴まれた腕が痛い。

手を振り、掴んでいる手を離そうとするが、あれ?

自分の体が闇の中にあって見えない。


ぱかっ。


目の前の者が口を開ける。

その瞬間に、悲鳴を上げた。

口の中に目が!

私を見ている……。


「あっ」


見慣れた天井。

慌てて体を起こそうとするが、全身の力が抜けているようで起き上がれない。


「私の部屋?」


視線で周りを見回し、見慣れた部屋の様子に安堵のため息を吐く。


「また倒れたのか」


昨日は倒れなかった。

でも、今日は……あれ?


「何か聞いたような気がする」


呪力に触れた瞬間を思い出す。


「ぐっ」


動かない体を横向きにし、口元を押さえる。

そうしないと、吐いてしまいそうだったから。


「はぁ」


昨日の夜から、何も食べていないので吐くものは無いけど。


時間を掛けて、ベッドに座る。

ここまで体力が落ちているのは、腕を何者かに掴まれたからだろうか?


あれ?

腕を掴まれたのは、現実に起こった事だったっけ?

それとも意識を失った時に見た夢?

……駄目だ、分からない。

でも意識がなくなる前に、言葉は聞いた気がする。

えっと……。


「あっ、思い出した。『許さない』だ」


呪力に触れた時に聞こえて来たのは、「許さない」という何人もの重なった声だ。


「許さないか」


今は、そんな事よりも気持ちが悪い。


「ぐっ」


不意に耳元で聞こえた不快音。


「また、か……。」


意識が、フッと遠のくのが分かった。



―アーチュリ神視点―


パタン。


ハリーヒャ神の部屋の扉を閉め、廊下に出る。

今日ハリーヒャ神は、呪力の出す黒い影に覆われて意識を失った。


「早く限界だと言えばいい」


そうすれば、呪力に触れる事は無くなる。

アルギリスの為?

あれはもう限界なのだ。

次の人形にハリーヒャ神?


あぁ、イラつく。


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