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異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
後片付けまでしっかりと
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18.最初の1歩。

ヒカルの力を強化する初日。

おそらくヒカルより俺の方が緊張していると思う。


「いいか?」


「うん。よろしくお願いします」


ソファを向かい合わせにし座ると、ヒカルの両手を握る。

ヒカルが目を閉じたあと、俺が持つ力をほんの少し彼の核がある場所に送る。

送る時は、ゆっくり。

決して焦っては駄目、ゆっくり、ゆっくり。


「ぐっ」


ヒカルの中に届いたと思った瞬間、目の前のヒカルから苦しそうな声が聞こえた。

とっさに手を離しそうになるが、なんとか踏みとどまる。


オウ魔界王の説明では、送り込んだ力が逆流してしまう可能性があるそうだ。

その時に手が離れていると、行き場の無くなった力が体内で暴れ回ってしまうので手は離さないようにと注意を受けた。

ただその現象は可能性としてあると分かっているだけで、実際に逆流を起こした者はいないらしい。


「ふぅ」


握っていたヒカルの手から、力が抜けた。


「大丈夫か?」


「うん」


「痛みはどうだった?」


苦しそうな声だった。

かなり痛みを感じたのでは無いだろうか?


「大丈夫。急にビリっとしたからビックリしただけ。それよりも、疲れたかな」


ヒカルの様子を窺うと、たしかに疲れた表情をしている。


「今日はこれで終わりだな」


俺の言葉に、ヒカルが嬉しそうな表情をする。


「相性が悪く無くて良かった。これなら続けられるよね」


「そうだな」


安堵しているヒカルの表情に、本当に良かったと思う。

相性が悪くて痛みがあっても、ヒカルなら「大丈夫」と言って続けそうだったから。

……本当に、痛みは「ビリっ」とだけなんだろうか?


「主、大丈夫。俺もビックリするぐらい、痛みは少ないから」


ヒカルは、俺の表情から考えを察知したのか笑って体を動かして見せる。


「分かった。明日も同じ時間で」


信じるしかないよな。


「うん」


ヒカルが執務室から出て行くのを見送ったあと、ソファに深く座り込む。

小鬼と三つ目達が共同で作りあげた1人用のソファは、体を優しく受け止めてくれるので気持ちがいい。


「はぁ」


俺の中にある力を移動させる事は、決して難しい事ではない。

特にヒカルに送り込んだ力は、本当に少しだ。

少し前は毎日、毎日体の中にある力が空っぽになるまで、力を魔石に移動させていたのだ。

でも、あの空っぽになるまで頑張っていた日々より、今日の方が何倍も疲れた気がする。


「きっと気のせいじゃないよな」


体の疲れではなく心労からくる疲れだろうけど。


「大丈夫ですか?」


リーダーが温かいお茶をテーブルに置く。


「ありがとう。ふぅ、美味しいな」


お茶の温かさが、じんわりと体を温める。

どうやら緊張で体が冷え切っていたようだ。


傍にいるリーダーを見る。

さっきまで目の前のソファに座っていたヒカルを思い出す。


「やっぱり、絶対に裏切らない支えてくれる存在が必要だよな」


俺が一番ほっとするのは、リーダーと過ごす時間だ。

コアやチャイ達といる時も楽しいし、親玉さんやシュリといる時もホッとする。

いや、あの子達と一緒の時はハラハラする時の方が多いかな。

飛びトカゲ達といる時も安心して過ごせるけど、やっぱりリーダーと過ごす時間が一番だと思う。


「それだけ俺がリーダーを信用しているからなんだろうな」


「はい?」


小さな声だったので聞こえなかったのか、リーダーが不思議そうに俺を見る。


「ヒカルにも、リーダーのような存在が欲しいなっておもってさ」


「そうですね。誰よりもヒカルを優先して動く存在が、欲しいですね。あっそれなら、ヒカルの力で岩人形を作ってみてはどうですか?」


んっ?

ヒカルの力で岩人形を?


「なるほど」


一つ目達が俺を他の者達より優先するのは、俺の力で作られたから。

それならヒカルの力で作った岩人形達は、誰よりもヒカルを優先してくれるはずだ。


「ヒカルに岩人形を作るように促してみるよ」


「はい。新たな仲間が出来るのは嬉しいです」


「あれ? リーダーは岩人形と言うんだな。ゴーレムとは言わないのか?」


岩人形とは俺が付けた名前。

言葉が通じるようになって、リーダー達のような存在はゴーレムと言う事を知った。


「ゴーレムの能力を調べると、我々とは異なる部分が多いんです」


そうだろうな。

俺もゴーレムについて話を聞きながら、首を傾げたから。

「リーダー達って本当にゴーレムなのか?」って。


「なので、我々はゴーレムではなく岩人形です」


「……そうか。リーダー達がそれでいいなら。でも、周りはゴーレムだと思っているぞ?」


「ゆっくり岩人形という事を広めていく予定です」


「分かった」


俺が手を出さない方がよさそうだな。

それにしても、岩人形か。

もう少し考えて名前を付けるべきだったな。


「主、これを」


リーダーがテーブルに1枚の紙を載せる。

それを手に取り、紙に書かれている内容を見る。

「神国 魔界 呪界」。


「えっと、これが?」


「おかしいのです」


おかしい?

もう一度紙を見る。

何処から見ても「神国 魔界 呪界」としか書かれていない。

何が、おかしいんだ?


「いつまでたっても、世界を表す言葉に変わりません」


世界を表す言葉?

あっ、そうだ。

まだ「神国」のままだ。


「創造神の話では、神国の主導権をほぼ手中に収めたはずです」


リーダーの言葉に頷く。

記録装置は正常に動き出したし、神国にある全ての星に干渉する事が出来るようになったと聞いた。


「確かにおかしいな」


神国をほぼ手中に収めたのだから、「神国」から「神界」に変わってもいいはずだ。

それなのに、いまだに「神国」のままになっている。


「そういえば、この変化にも見えない力を感じるよな」


いつの間にか書かれている言葉が変わって、それを違和感なく自然に受け止める。

普通で考えればありえないのに。


「主。神国はもう大丈夫なんですよね?」


リーダーの言葉に、首を横に振る。


「おそらくまだだ。だから、『国』が『界』にならないんだよ」


あれ?


「神達は以前、自分達の世界の事を『神々のいる世界』と呼んでいたんだよな? あの時は、世界と書けたのか?」


「それについては、創造神が記録装置で確認しました。記録装置には『神々のいる場所』と書かれていたようです」


国でもなく場所?


「『国』の下に『場所』があるんだな」


呪界が呪いのある場所にならないように気を付けないとな。


「それで主は、何が要因で神国のままだと思うのですか?」


「アルギリスと彼を守る者達の居場所が掴めていないからだと思う」


正常に動き出した記憶装置からは逃れられないはずなのに、いまだに彼等の所在が分からない。

おそらく彼等は、今の神国が出来る前に作られた場所に潜んでいるのだろう。

なぜなら記録装置は、今の神国が実際に動き出した日からしか記録していないから。

これは呪界にある記録装置が、呪界が出来た日より前の記録を削除してしまった事で知る事が出来た。


アルギリスは、今の神国が出来る以前から存在していた者だ。

記録装置は、彼が持つ力の全てを記録出来てはいないだろう。


「こういう存在を、太古の神ていうのかな?」


不気味だよな。

アルギリスを支える者達も、一体何が目的なのか分からないし。


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