17.ヒカルは強い。
毎日の見回りの最後は、ユグドラシルのエコだ。
「おはよう」
サワサワ。
俺の言葉に応えるように、葉っぱが揺れる。
そっと幹に耳を当てると、トクトクという音とポコポコという音が聞こえて来る。
「この音を聞くと、落ち着くんだよなぁ」
サワサワ、サワサワ。
「んっ?」
今、葉っぱがいつもより激しく動いたような気がしたけど……気のせいかな?
見上げて葉っぱの様子を見るが、いつもと変わらない。
「まぁいいか」
エコを背に座ると、目を閉じる。
「エコから流れている力は、綺麗だよな」
エコは、呪界で流れる力を綺麗にする力があるらしい。
オウ魔界王に聞いて知ったのだが、世界を回っている力はどんどん濁っていくそうだ。
そしてその濁りを綺麗にしてくれるのが、それぞれの世界にいるユグドラシル。
つまり呪界ではエコだ。
「新たな力を作ったり、戻って来た力の濁りを綺麗にしたり。エコは大変だな」
サワサワ。
やっぱり答えるように葉っぱが動く。
前は、ここまで反応を返してはくれなかった。
これも変化の1つなのかな。
「ありがとう。無理はしないようにな」
サワサワ。
「主」
「ヒカル」
魂の消滅の話をしたあと、ヒカルは俺が消えた後は呪界を守ると言ってくれた。
それは本当に嬉しい。
でも、嬉しいと思う気持ち以上に申し訳ないと思ってしまう。
「俺に、呪界の事を詳しく教えて欲しいんだ」
「えっ?」
ヒカルの言葉に、驚いた表情で視線を向ける。
「俺は、まだこの呪界について詳しく知らない。だから、知りたい。それに呪界を動かす力についても知っておくべきだと思って」
「そうだな」
ヒカルは、俺が思っていた以上に強いんだな。
「まず、何から話そうかな」
「主は、どうやってこの世界に来たの?」
あれ?
ヒカルにはその事を話していなかったかな?
「ちょっとだけ聞いたけど、主からちゃんと聞きたい」
「分かった」
俺がこの世界に着た経緯や、その時に関わった神や見習い達。
それに、神達が行っていた勇者召喚などについて話をする。
どうしよう。
隣から恐ろしいほどの怒りを感じる。
「主」
「はい」
いや、ヒカルに緊張してどうするんだ?
「その見習い達は?」
「どこかの星で記憶を持ったまま、生まれ変わっているそうだ」
「はっ?」
俺の言葉が気に入らなかったのか、ドンと隣にいるヒカルから強い力が溢れた。
それに反応するように、ユグドラシルが揺れる
サワサワ
「ヒカル、落ち着け。エコも」
「まだ、生きているなんて」
隣から小さな声が聞こえて来る。
どうやら、今も生きている事が気に入らないらしい。
「生まれ変わったと言っても、その世界で弱い存在にだと聞いている。記憶を持っているから、屈辱を味わう事になるだろうって」
「そうなんだ」
「あぁ。それに、彼等についてはもうどうでもいいんだ」
それから、子供達が神から託された事やその子共たちが俺のように勇者召喚の被害者だった事。
元々は大人だが、様々な事が重なって子供の姿となり、記憶が消えた事についても話した。
そして最後に、ヒカルが俺のいた星に来た事を話す。
「ここからはヒカルも知っているよな?」
第一の神に襲われた事や、呪い達が姿を見せた事など。
「思い出すとここ数年。ずいぶんと濃い人生だよな」
色々な事が一気に起こった感じかな。
良く対応できたと、自分でも感心するよ。
「主」
ヒカルを見ると、真剣な表情をしている。
「どうした?」
「今の俺が持つ力では、呪界を守れない。そうだよね?」
確かに今の光が持つ力では、呪界を守る事は出来ない。
ユグドラシルの力を借りても、ぎりぎり……いや、無理かな。
「そうだ。今のヒカルが持つ力を全て呪界に捧げたとしても足りない」
俺の言葉に頷くヒカル。
「力を増やすためには、どうしたらいい? 主はどうやって力を増やしていったの?」
「それは……」
俺の場合は、勇者召喚で貰ったギフトのお陰で自然と力が増えて行った。
というか、危険なほど増えた。
俺が無意識に行った事で、増えすぎた力を消費したため生き残れたが。
「俺の場合は、勇者召喚に助けられた」
「えっ?」
不思議そうに俺を見るヒカル。
「勇者召喚には、召喚された世界の為に力が貰えるんだ。俺の場合はそれに随分と助けられたよ」
そういえば、呪界として世界が出来る前。
俺の力が増した事と、星にいる龍達の力が強くなり過ぎたせいで星の崩壊が迫っていたな。
あれと比べたら、今回は俺だけが消える事になるのか。
星の破壊問題よりマシなのかな?
「そっか」
「うん。だからヒカルの力を増やす方法は、別の方法を探す必要がある」
一応、オウ魔界王に聞いてある。
ただ、少しヒカルの体に負担がかかるみたいなんだよな。
「主? 何か方法があるの?」
「まぁ、一応は調べた。ある事はある」
俺の迷うような言い方に、首を傾げるヒカル。
「どんな方法なの?」
「それは……」
オウ魔界王の話によれば、負担は少し。
痛みも少しだと言っていた。
でも、それは魔神だった場合だ。
ヒカルの場合は、負担も痛みも魔神達より大きいかもしれない。
それに、稀に合わない者のいるだろうと言っていた。
「主、大丈夫だよ。きっとうまく行くって」
ヒカルの明るい声に、視線を向ける。
「そうだな。方法は、ヒカルの中にある力を溜めこむ場所に俺の力を入れるんだ。入れる量は、溜め込む場所から、力が少し溢れるぐらい」
この時、力を入れ過ぎるとヒカルの力が暴走するそうだ。
「力が少し溢れると、溜め込む場所が対応しようと容量を増やすと言っていた。この方法で魔神達は、魔神力を増やしたそうだ。ただ、呪界に住むヒカルにも同じ結果が出るとは限らない」
「主から力を貰って、容量を増やす」
ヒカルが自分の胸に手を置いて呟く。
自分以外の力を内に入れるのは、怖いよな。
力の相性がとても良ければ、全く痛みを感じないそうだ。
でも、他人の力だから、その可能性はほぼ無し。
やはり少しは痛みを感じるらしい。
「その方法を試したい」
「オウ魔界王の話では、稀にこの方法が全く合わなくて激痛に襲われる事もあるそうだ。あと貰った力と凄く相性が悪い場合も、激痛が走るらしい」
「それは、大丈夫では? 主は俺に力を通した事も、魔法を掛けようとした事もあったよね?」
「あぁ、ヒカルの状態を調べる時と、ヒカルに掛かった呪いを浄化魔法で解くために」
「うん。最初の頃は眠っていたから分からないけど、意識が戻ってからも痛みを感じなかった。だからきっと大丈夫だと思うけど」
「いや、あの時とは力を入れる場所が違うんだ。今回力を送る場所は、ヒカルの核がある場所だから」
そう。
この方法で力を送り込む場所は、ヒカルの中心と言える場所だ。
「核のある場所」
ヒカルもさすがに少し驚いたようだ。
「うん。少し考える時間を――」
「大丈夫。俺は主を信じるよ。だから、やろう」
ヒカルの表情を見て、苦笑する。
もう決心してしまったみたいだ。
あとは、俺の覚悟か。
本当に、ヒカルは強いな。
きっと俺より、いい王になるだろうな。
「分かった。やろうか」
本日より「異世界に落された…浄化は基本!」の更新を再開します。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




