15.日常と少しの変化。
星を移動してから1週間。
特に問題も起きず、安定している。
そのお陰で、星に流れる神力の中に少しずつ呪力を流す事が出来た。
ゆっくり馴染ませながらなので、今は本当に僅かな呪力だ。
これを徐々に増やし、1年を掛けて呪界で生きられるようにするつもりだ。
「今日も問題なく、星に住む者達は安定しています」
リーダーからの報告に頷く。
「ありがとう。彼等から、何か要望は来ているか?」
「いえ。現状に納得している様子だと、ロープから聞いています」
神国にいた時にからロープが関わっていたため、呪界に来てからの面倒もロープにお願いした。
この世界に来た神や神族達も、見慣れない存在よりロープの方が安心だろうし。
「そうか」
まだ、要望を言えるほど警戒はといてくれないか。
これも時間が必要だな。
「主」
土龍の飛びトカゲに視線を向けると、龍が勢ぞろいしていた。
「どうしたんだ?」
「星の管理についてだけど、皆と話し合って引き受ける星を決めたよ」
「そうか、ありがとう。星が安定して、星を維持する力の中の呪力が50%を超えたら、龍達と星を繋げるよ」
創造神の説明では、星の中央に管理する者の力を流せばいいと言っていたな。
星に行けるようになったら、中央を確認しておこう。
「どうやって、誰がどの星を管理するか決めたんだ?」
俺が勝手に決めるより、龍達に選ばせた方がいいと思ったけど、少し不安だったんだよな。
「それは……」
飛びトカゲが周りにいる龍達に視線を向ける。
「話しにくい事なのか?」
「そうじゃないよ。パッと星を見た時に、何かを感じたんだ」
何か?
風龍の水色の言葉に首を傾げる。
第6感みたいな、見えない力とか……そんな感じか?
「言葉で説明するのが難しんだ。えっと、見た瞬間に『これだ』と感じたような気がする、というか」
火龍の毛糸玉の言葉に、他の龍達が頷く。
「そうなんだ。『これだ』と思った星が重なる事は無かったのか?」
同じ星を「これだ」と思う事もあるよな?
「運がいい事に、それは無かった。だから、話し合いもすぐに終わったしな」
氷龍のマシュマロが、嬉しそうに言う。
マシュマロは仲間どうしで争う事が苦手だからな。
「それは良かった。星の準備が整ったら連絡するよ」
俺の言葉に、龍達が頷く。
そして空高く舞い上がると、最近始めた呪界の見回りに向かった。
「今日もいい天気だな……かなり冷え込んで来たけど」
そろそろ、冬本番だな。
畑も来年の為の準備に取り掛かっているし。
「寒いですか?」
リーダーを見る。
あっ、彼等には温度の変化は分かりづらいかもしれないな。
「大丈夫だよ。三つ目達が作ってくれた服は温かいから」
なんと言っても本物の毛皮を使用しているからな。
魔物さまさまだな。
美味しくて、冬には温かい。
「あっ、森に住む魔物に異変があったと聞いたけど、あれからどうなった?」
確か、親とは全く異なる姿を持つ魔物だったよな。
「今までに分かっている事は、こちら側の森に住む魔物にだけ表れている異変の様です」
新しい大地の森で、異変は起こっていないという事か。
「そして、種類ですが……8種類と言えばいいのでしょうか?」
考えながら話すリーダーを見る。
いつもはっきり言うので、このような姿は珍しい。
「ある魔物の主産を確認したんですが、生まれた子の姿が全て違っていました」
主産まで確認したのか。
凄いな。
「親と似ている子供は?」
「今も観察を続けていますが、どの子共も親とは似ていません。しかも持っている力も違う事が分かりました」
姿が違って、力も違う。
全く別の魔物が、1匹の魔物から生まれた。
「生まれた子供の力は? 例えば異様に強いとか、魔力が多いとか」
「まだ、観察を始めたばかりなので断言はできませんが、親よりも弱いです」
弱いのか。
そうなると、強くなるために進化したとは考えられないか。
まぁ、子供の姿がバラバラという時点で、進化とは違うのだけど。
「あっ、親で分かっている事は?」
親の種類から、何か分からないかな?
「親の種類は1つです」
「そうなのか? それだったら親の方に問題があるのかもしれないな」
「はい。私もそう考えたので、親となっている魔物について調べています」
もう少し時間がかかりそうだな。
でも親に問題があったとしても、生まれた子供の姿が変わるかな?
……変わらないよな。
魔物か……魔物……魔物?
そういえば、エンペラス国の前王が、ロープの力を使って魔物を掛け合わせたと言っていたな。
まさか、その掛け合わせが解かれた、なんて事は無いか。
ありえない話だな。
「主?」
「いや、なんでもない」
ありえない話だけど、なぜか気になる。
「リーダー。エンペラス国の前王が行った魔物の掛け合わせ。それについて少し調べてもらえるか? 詳しく調べる必要は無いんだ。ただちょっとだけ気になってさ」
「それはロープ殿の力を勝手に使って行われた実験の事ですか?」
こわっ。
リーダーから、殺気が流れて来るんだけど。
「そう、その実験に使われた魔物について調べて欲しい」
「分かりました。すぐに」
「いや。ゆっくりで良いよ」
別に焦っているわけでもないし。
「分かりました。時間の空いている者がいたら、調べるように言います」
「ありがとう」
さてと、今日の仕事を始めようかな。
「見回りに行って来るよ」
「はい。お気をつけて」
リーダーに声を掛けてから、家の周辺に張り巡らされている川を見ながら家周辺を歩く。
「今日の護衛は、アイ達か?」
移動を始めるとすぐに、ガルムのアイとソラとネアが駆けて来た。
「はい。今日は私達が主を守ります」
アイの宣言に、ポンと頭を撫でる。
「ありがとう。行こうか」
家の周辺の森に異常はなし。
川にいる精霊達は相変わらず、俺に水を掛けようとするなぁ。
夏だったら、ある程度は相手になるけど、今は冬!
濡れると寒いので魔法で防御!
「こら、不服そうな気配を出さない!」
俺の言葉にパシャパシャと水が揺れる。
別にこの子達は俺に水を掛けたわけではなく、遊びたいだけだからな。
少しだけ追いかけっこをする。
「ちょっ、参加する精霊を増やすな! 多すぎるだろう」
一体どれだけの数の精霊が集まっているんだ?
透明な姿だから圧迫感は無いけど、多過ぎる。
ある程度の時間を精霊達と遊ぶと次に向かう。
「またな」
追いかけっこに参加出来なかった精霊達に向かって手を振る。
次はあの子達と遊べたらいいな。
川沿いに歩きユグドラシル、エコの下に向かう。
大きな池の傍に立つ、エコ。
1年足らずで、巨大な大木へと成長した。
「あっ、トレント達だ。おはよう」
エコの枝に、姿を見せたトレントに声を掛ける。
あっ、今日は呪いの舞なのか。
「今日の子達は優秀だな」
一糸乱れの無い動き。
完璧だな。
昨日は、1匹だけ動きが遅くてつい目が行ってしまった。
途中で枝から落ちそうになって、俺まで慌ててしまったしな。
「はい、ストップ。完璧だな。今日もありがとう」
見続けると永遠に続くから、途中で止めないとな。
エコに近づき、幹にそっと手を当てる。
手から伝わる、エコの力強い波動。
その波動に合わせてエコから力が溢れ、この世界に行き渡っている。
俺の垂れ流しの力も、エコの波動に乗って世界をめぐっている。
「今日もありがとう。また、明日」
幹から手を離し、地下神殿に向かう。
地下の花畑に花が咲き始めてから、護衛を務める子達と一緒に行くようになった。
あの場所を、皆で守ってもらう必要があるから。




