14.アルギリスの復活? 2
―あのお方視点―
コンコン。
扉に視線を向けると、アーチュリ神が入って来る。
「上手く行きました」
「そうか」
「でも、良いんですか?」
アーチュリ神を見る。
「彼は、アルギリスを信奉している中で一番の力を持っているし、他の信奉者からも信頼されています。失ったら、勿体ないのではないですか?」
「確かにな」
そう、あれほどの力を持つ信奉者はあれ以外にいない。
だから、勿体ないとは思う。
だが、アルギリスの力が枯渇し眠りについてしまった以上、別の人形が必要なのだ。
表に出ている者の中で選ぼうと思ったが、全て捕まったからな。
「仕方ない。だがあれは、アルギリスの為となればなんでもする。今使える者の中で一番、使いやすい人形になるだろう。そして呪力を手に出来れば、完璧だ」
俺の言葉に、アーチュリ神の表情が微かに歪む。
これは、要注意か?
確か、アーチュリ神はあれとの関りが長かったな。
別の者に監視をさせた方が、いいかもしれないな。
「大丈夫です。俺にも目的がありますから」
俺から何かを感じたか。
まぁ、しばらく様子をみるか。
「分かった。期待を裏切るなよ」
「はい」
アーチュリ神の目をジッと見る。
そらす事なく見返すアーチュリ神に、ふっと笑みが浮かぶ。
そんな態度の俺に不思議そうな視線を向けるアーチュリ神。
「あれはいつから呪力と接触しそうだ?」
「『すぐにでも』と言っていたので、明日からでしょう。俺とマーサリア神が監視につきます」
マーサリア神か。
奴なら問題ない。
「分かった。あぁそうだ。何が起こっても、呪力に近付かないようにしろ」
「えっ? 近付くのも駄目なんでしょうか?」
「あぁ、力の弱い物だったせいかもしれないが。傍に寄っただけで、気が狂ったと報告が来た」
全く、忌々しい。
なぜ、これほどまでに扱いにくい力になったのだ?
「あの人間が、あれに『名』を与えるから。それから全てがおかしくなったしまった」
くそっ。
名を与えなければ安定しない。
不安定な状態のまま、ずっと使うつもりだったのに。
「あの人間というか、呪神はどれほどの力を持っているんでしょうか?」
「呪神などと言うな!」
認めるものか!
あれは、我々の目的のために存在する人間だ。
それが呪神だと?
絶対に認めない!
「申し訳ありません」
「いや、悪い。ここの所、全てが上手くいかず苛立っているんだ」
アーチュリ神を見るが、気にした様子はない。
というか、こいつは他の者達のように、俺に対して畏怖も無ければ尊敬も無い。
ただ、目的を達成するために俺が必要と言うだけだ。
まぁ、こういう奴の方が安心して傍における。
なぜなら、奴の目的を達成するには俺が必要だからだ。
「あの……人間ですが」
「あぁ、分かった事は?」
アーチュリ神を見ると、眉間に皺が寄った。
なんだ?
報告しにくい事なのか?
「アイオン神が守る世界から勇者召喚されたようです。ただ、召喚された際に他の者達は失敗したようで、あの人間以外は元の世界に戻っています」
アイオン神か。
長い時間が、奴から希望も目的も奪った。
だから、問題は無いと判断したが……あれは間違いだったな。
もっと奴の動きに注意すべきだった。
「その勇者召喚だが、他とは何かが違ったのか?」
あれほどの力。
普通の人間であれば、絶対に死んでいるはずだ。
「いえ、勇者召喚自体が中途半端でした。神ではなく見習いが行ったせいでしょう」
見習い?
「あぁ、奴等か。あれは失敗だったな。魔幸石を無駄にした屑共だ」
魔幸石まで与えたのに、まさか人間などに与えるなんて。
あれを上手く使えば、星の維持など簡単だったはず。
しかしあれが、成功した魔幸石だったなんて。
知っていれば、自分で使ったのに。
ふっ、かつての仲間達に騙されていたとはな。
「人間が、あの巨大な力を宿しながら、生きながらえた理由は全く分からないという事だな?」
「はい。他に考えられるのは勇者に与えられるギフトです」
力を持たない者が、勇者に変わる力。
神に与えられた恩寵が、人間を?
「だが、あれほどの力に耐えられる体へ、作り替えるギフトなんてあったか?」
「いえ、調べましたがありませんでした。ただ、最近のギフトはかなり不安定になっていました。もしかしたら、人間に与えられる時に何かがあったのかもしれません。もしくは……あの力かと」
「アーチュリ神は、あの力が人間に影響を与えたと考えているのか?」
俺の言葉に、無言で頷くアーチュリ神。
「あの力」か。
昔から感じていた、正体を掴むことが出来ない力。
あと少しで均衡が崩れると思っても、その力が邪魔をしてきた。
しかも、痕跡を探しても見つける事が出来ない。
「あの力が、その人間に働いたと?」
「はい。その可能性は無いでしょうか?」
アーチュリ神の言葉に、首を横に振る。
「そうかもしれないが、分からない。あれは痕跡を残さないからな」
力が働いたなら、絶対に痕跡が残る。
それなのに、どんなに調べても微かな痕跡さえ見つけられなかった。
あの力さえなければ、アルギリスが理想とする世界を実現できただろう。
そして俺は、裏からアルギリスを支え……操れる唯一の存在に慣れたのに。
あぁ、本当に忌々しい。
あの力を持つ者に気付かれないように、裏に隠れ無ければならなかったし。
予定通りに、すすめられないし。
それでもあと少しだった。
それなのに、あの人間が全てを壊した。
「あの人間を殺す方法は?」
俺の言葉に、アーチュリ神の表情が曇る。
それも仕方ないか。
認めたくないが、あれは神になった。
そして神を殺す事は、同じ神でも許されない。
もっと早くあれを始末するべきだった。
人間だったから、あの巨大な力に耐えられず死ぬと思った。
だから放置してしまったのだが、その結果が今の惨状だ。
「調べます」
「あぁ、頼む。調べるのに手が必要なら、いくらでも使え。と言っても、かなり減ったがな」
表の奴等が捕まったせいで、動かせる駒が半分以下になってしまった。
しかも、創造神の力が戻ったせいで、記録装置が正常に動き出した。
「いや、今は動くな」
そうだ。
記録装置が正常に動き出したんだった、
「記録装置をどうにかしないと、すぐにバレる。今は、ここから出ない方がいいだろう」
くそっ。
やはり早急に、隠しておいた力を自由に動かせるようにならないと駄目だな。
あの人間の力なのか、この世界に隠していた力にまで影響が出てしまった。
そのせいで今までのように扱えなくなったし、自我が復活している様子も見られる。
まぁ自我については、呪力を操れるようになってしまえば、どうにでも出来る。
「はやり、あれには頑張ってもらわないとな」
今までの実験結果から、呪力を扱うには強い意思が必要だ。
奴等の押さえつけ、従わせる強い意思が。




