13.アルギリスの復活?
―アルギリスの信者視点―
暗闇の中で、白い光りに包まれ眠っている男性を見つめる。
深い眠りについているのか、目覚める気配はない。
「アルギリス様」
心配になり声を掛けるが、反応は無い。
ただ静かにそこにいるだけ。
胸が上下に動いていなければ、死んでいると思っただろう。
「アルギリス様」
どうか、どうかその目をお開け下さい。
眠る男性に向かって祈る。
「皆がアルギリス様をお待ちですよ。ですから、1日でも早く……」
願いが届くように、何度も、何度も男性に向かって祈りをささげる。
パタン。
扉の開く音が聞こえると、空間に光が差す。
視線を向けると、不機嫌な表情をした神の姿が見えた。
それにほんの少しだけ顔を歪める。
この場所は、アルギリス様が眠り神聖な場所。
そんな場所に、負感情を持ち込むとは。
「どうですか?」
私の傍に来て、アルギリス様の様子を窺う神。
アーチュリ神は、アルギリス様の様子を見て溜め息を吐いた。
「アルギリス様に対して失礼ですよ」
俺の言葉に、チラッと視線を寄こすアーチュリ神。
その態度に、苛立ちが募る。
なぜ、あのお方はこの者を信用するんか。
アルギリス様に対して、不敬ともとれる態度を取るのに。
「悪い。そう怒るなって」
軽い謝罪にギュッと手を握る。
そうしなければ、アルギリス様の前で怒鳴りつけてしまいそうだ。
「それで? なぜこの場に?」
何度か深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
この男のペースになっては、駄目だ。
「表で動いていた仲間達からの連絡が途切れた」
「えっ? まさか全員?」
「そうだ」
アーチュリ神の言葉に唖然とする。
アルギリス様の復活を心待ちにしていた仲間達。
そんな仲間達が……捕まった?
「今、何処に?」
「既に刑が執行されたという噂を聞いた。詳しくは、不明だ」
刑が執行?
つまり、もうこの世界にいない可能性があるという事か。
「あっ。彼等からこの場所が漏れる事は?」
「それは無い」
アーチュリ神の断言に眉間に皺が寄る。
どうして、そんな事が言い切れるんだ!
「この場所を知っている者達は、誰も捕まっていない。本当に表だけで活動している者達だけだ」
「そうか」
アーチュリ神の言葉にホッとして肩から力が抜ける。
緊張から、体に無駄な力が入っていたようだ。
この場所は、創造神が管理している装置では見つける事が出来ない。
なぜなら、この場所はあの装置が出来る前に既にあったから。
創造神が管理する装置は、創造神が見た事を記憶するものと、装置が設置されてから、実際に起こった出来事を記録していくだけだ。
だから、この場所が見つかる事はない。
「力は戻りそうか?」
アーチュリ神の言葉に、溜め息を吐きながら首を横に振る。
「駄目だ。まだほとんど戻っていない。あれだけの力を使ってしまったんだ。そうとうな時間がかかるだろう」
神国を混乱に陥れ、多くの神に死を与える予定だったのだ。
そのための準備をずっとしてきた。
神国のあちこちに、アルギリス様の力を密かにばらまき。
そして一気にその力を使って、神に死を与える。
創造神の力も弱くなっていたから、それは簡単に行えるはずだった。
それなのに……、
「なんなんだ、あれは!」
たった1柱。
しかもまだ神になったばかりの存在に、我々の計画は無残にも破れた。
「どうして、あんな存在が生まれた?」
苛立ちが抑えられず、アーチュリ神の胸倉を掴む。
「あんな存在が生まれる事の無いように、神達を監視して来たはずだろう! なのに、どうしてあんな者が!」
「あれは、誰にも予想出来なかったよ。まさか、力が弱いただの人間が……あれほどの力を扱えるようになるなんて。そう、誰にも想像出来るわけが無い」
アーチュリ神の言葉に、ぐっと奥歯を噛む。
そうだ。
誰にも予想できるはずが無い。
力を持たないはずの存在が、呪力を操れるようになるなんて。
しかも、世界の誕生させ王となり、神にまでなってしまう事を誰が予想出来ると言うんだ!
「神の動きをしっかり把握できていなかった事も、原因の1つだろうな」
そうだ。
神があれほど、愚かな動きをするとは思わなかった。
まさか、魂を貶めて負の力をあれほど作り出してしまうなんて。
「ただあの力は、アルギリス様の力にもなった」
そう、神達が大量に生み出した力。
今では呪力と呼ばれているが、その力はアルギリス様の力にもなった。
ただ、あの力を手に入れたアルギリス様の様子が少しずつ変わってしまったのが気になる。
まるで、手に入れた力に翻弄されているような。
いや、そんなはずはない。
アルギリス様の力は、どの神よりはるかに多く強い。
だから、呪力などに振り回せるはずが無い。
「新たな武器は、いつ頃作れる?」
アーチュリ神を見ると、首を横に振られた。
「上手くいっていないのか?」
あれは、呪力を操れる。
我々も呪力を操れる存在が必要だと、さまざまな場所から必要な物を揃え実験が始まった。
あれに対抗出来る武器を、手に入れるために。
「呪力に触れるだけで飲み込まれて、使い物にならなくなる」
「そんな」
では、どうしてあれは飲み込まれなかった?
そうだ。
集めた物の中に、あれと同じ人間もいたはず。
「人間は?」
「駄目だ。一瞬で気が狂った」
「ちっ」
あっ、この場所はアルギリス様が眠る神聖な場所なのに。
さっきから心が乱されてしまっている。
「ここから出よう」
アーチュリ神が入って来た扉を開け、外に出る。
暗闇から外に出ると、その眩しさに目を細める。
長い間、あの空間にいたせいか。
目が少し痛いな。
「呪力を操るのは、かなり難しい」
「だがあれは、その呪力を自由自在に操っている。あれの仲間も、呪力を使っているのだろう?」
神国であれと仲間を見た者達から報告が上がっている。
神力、魔神力だけでなく呪力まで自由自在に使っていたと。
だから、何か方法があるはず。
「あのお方は?」
アーチュリ神の言葉に首を横に振る。
「そうか」
アルギリス様の復活を一番に望んでいる方であり、我々を導いてくれた方。
計画の失敗を知り、気落ちしてしまった。
「あのお方には、時間が必要なんだろうな」
時間か。
「そうだな。アルギリス様のために、ずっと動き回っていたから。だから今は休憩が必要なんだろう」
俺の言葉に、アーチュリ神が頷く。
「あの方が戻って来るまでに、呪力についてもっと詳しく調べよう」
今できる事は、それぐらいだ。
「あぁ」
だが、その呪力に振り回されているんだけどな。
「俺が試してみようかな」
「えっ?」
俺の言葉に、驚いた表情をするアーチュリ神。
だが、呪力を知るには一番いい方法では無いか?
「駄目だ」
「どうして?」
賛成してくれると思ったのに。
「それは」
アーチュリ神が、言葉を探すように視線をさ迷わせる。
「呪力に飲み込まれる可能性があるからだ」
「なっ! 俺があんな力に負けるとでも?」
「そうだ!」
アーチュリ神の言葉に、驚く。
俺が負ける?
「既に、仲間の神が試して飲み込まれているんだ」
「そんな」
それは知らなかった。
でもここで、アルギリス様の目覚めだけを待つのは……。
「無理はしない。ほんの少し触れてみて様子をみるだけだ」
俺の言葉に、真剣な表情になるアーチュリ神。
そして1度溜め息を吐くと、心配する表情になった。
「ただ触れるだけだ。呪力を操ろうとするな」
「わかった」
少しでも、アルギリス様の役に立ちたい。
呪力を操る方法が分れば、アルギリス様に伝える事が出来る。
そうなれば、きっと我々の目的が達成できるはずだ。




