12.星の移動。
3日前、星の移動が決まったと皆に報告した。
仲間が増えると喜んでいる皆の姿に、正直ホッとした事を思い出す。
最終的に押し付けてしまうヒカルには、申し訳ないが。
今日は、報告した日から3日目。
星の移動が行われる日だ。
今回移動する星の数は10個。
ただし、まずは10個という感じだ。
今回移動する星以外にも、呪界に移動を希望する神と神族の住む星があるらしい。
創造神が変わっても、これまで感じた神に対しての恐怖は拭えないようだ。
全てを受け入れるつもりだが、最終的にどれだけの星が移動してくるのか分からず、ちょっと不安になっている。
まぁ、なるようになる……かな?
呪界は呪いの力が充満している世界だ。
これまでの神力とは、全く異なる力を受け入れる事になる。
その辺りの事は、ロープがしっかり説明してくれている。
でも神や神族達が、対応できるかが心配だ。
まぁ結界は張るし、何かあってもすぐに対応できるようにリーダーが準備してくれたけど、不測の事態が起きないとも限らない。
しばらくは、呪界に来た神や神族達を注視する必要があるだろう。
「リーダー、ありがとう」
お礼の言葉に、嬉しそうな気配がリーダーから伝わってくる。
それに笑みが浮かぶ。
ただ、庭に設置されたある物を見た瞬間、その笑みは引きつったけど。
「リーダー……あれは?」
「主の全てを見守れるようにナインティーンが作りました」
ナインティーンか。
道具作りと言えばナインティーンかセブンティーンだ。
そのナインティーンが作った物なら、間違いなく動くんだろうな。
ここで「壊れてしまえ!」と祈っても、きっと問題なく動くんだろうな。
「はははっ」
まさか庭に巨大なパネルが設置される事になるなんて。
しかもそのパネルの前に、テーブルが用意されている。
「もしかして、まさかと思うけど――」
「ライブ中継です!」
興奮した声が聞こえて振り向くと、農業隊が1体立っていた。
「ナインティーン」
「はい! パネルの性能を上げたので、綺麗にくっきり映し出されます。今回は黒に拘りました」
黒?
そうなんだ。
えっと……はぁ、マジか。
頭を抱え込んで座り込みたい……しないけど。
「これで主の偉業を余すことなく記録が出来、そしてライヴ中継まで出来ます!」
「ははははっ」
もう、笑うしかないよな。
全く、こんな事は予想で来なかった……いや。
この子達の性格を考えれば、これは予想できる範囲だったかもしれない。
だから、俺が気付きさえすれば止められた気がする。
たぶん。
「主? 何か心配事ですか?」
「いや。大丈夫だ」
オウ魔界王に、星の移動での注意点を聞いて来た。
というか、聞いたが特に無かった。
ただ、しっかりと移動するイメージを作る事が大切なようだ。
イメージをする事は得意分野なので、不安は無かった。
それなのに、ライブ中継されると分かった瞬間に不安に襲われた。
別にやる事は変わらないが、注目されるのは苦手だ。
それが仲間だけだとしても。
「まぁ、もう何を言っても無駄だよな」
パネルの前に集まり出した仲間を見て苦笑する。
あっ、一つ目達がお菓子を配り出した。
「はぁ、諦めよう。それじゃ、行って来るな」
創造神から連絡が来る前に、星を移動させる場所に着いておく必要がある。
場所に移動するのはすぐに出来るけど、少し早めに行こう。
この乱れた心を落ち着けたい。
「お気をつけて」
星を移動させる予定の場所に転移する。
神になって転移門を利用しなくても、好きな場所に行けるようになった。
しかも、一度言った場所限定という締まりもない。
「ふぅ」
ゆっくり目を閉じて、気持ちを落ち着ける。
オウ魔界王の説明では、創造神の神力と俺の呪力を触れ合わせた状態で、創造神は星を神国から出すイメージを作り、俺は星を呪界に受け入れるイメージを作る。
この2つがしっかり出来ると、星は勝手に世界を移動すると言っていた。
そんなに簡単に? とは思ったけど、実際に上手くいった方法だ。
間違いないだろう。
「あっ」
ポケットで魔石が震えた。
すぐに小型のパネルを取り出す。
「おはよう。準備は問題ないか?」
パネルに映し出された創造神に頷く。
「あぁ、問題ない。今日は宜しく」
移動先でもすぐに対応できるように、セブンティーンに作ってもらった小型パネル。
先ほど見た巨大パネル同様に、この小型パネルも映し出された映像がかなり綺麗だ。
「こちらこそ。それじゃ、始めよう」
創造神の言葉に静かに息を吐き出し、呪力を創造神の神力に向ける。
創造神からも神力がこちらに向かってくるのが分かる。
「こんな感じなのか」
創造神の力が迫って来るので、恐怖でも感じるかと思ったが違った。
争う事を目的としていないからなのか、とても親しみを感じる。
「オウ魔界王の時も思ったけど、何だろう。……仲間。そうだ、仲間に会ったような感覚に似ているかもしれない」
仲間。
確かに同じ目標に向かっているから、ある意味仲間なのかな?
「うまく触れ合えたな」
創造神の言葉通り、呪力と神力が触れあっている。
反発することなく、まるで手と手を合わせているような不思議な感覚だ。
「すこし、くすぐったい感じがする」
「それは、俺も感じた」
俺の感想に、創造神が笑って頷く。
「行くぞ」
「あぁ」
目の前の空間に、神国から星がゆっくり移動するイメージを作りあげる。
あっ。
創造神の神力が、ゆっくりこちらに向かって移動し始めた。
これがおそらく星なんだろう。
移動している星を受け止めるように呪力で包み込む。
数秒後、目のまえの空間にゆっくりと星が姿を見せた。
「上手くいったみたいだな」
あっ、そうだ。
結界を張らないと。
「星に住む者達が、呪力に慣れるまでは必要だからな。結界!」
これで、神と神族達の様子を見ながら呪力に慣らしていけるな。
あとは。
「次に行こうか」
そうだ、まだ9個あるんだったな。
「あぁ、分かった」
星の移動は思ったより簡単だったけど、集中力は必要だな。
さて、残りも頑張ろう。
「「おわった~」」
10個目の星の移動が終わった。
さすがに、疲れた。
「創造神、お疲れ様」
小型パネルに映る創造神に声を掛ける。
「お疲れ様。彼等を……彼等を頼む」
星に住む神と神族達の事だな。
「分かった。しっかり守るから、安心してくれ」
歴代の創造神と彼等を利用しようとした神達のせいで、彼等は神国を捨てた。
今の創造神が悪いわけではない。
星に住む、神や神族達もそれはきっとわかっているだろう。
それでも、彼等はもう神国では生きられなかった。
それだけ傷ついているのだ。
呪界でゆっくりその傷を癒せばいい。
きっと俺の仲間達が、彼等を巻き込んで色々するだろう。
呪力に慣れ、落ち着くのを待っているみたいだったからな。
あまり無理をさせないように、注意だけはしておこう。
「それじゃ」
「あぁ、今日はゆっくり休んでくれ」
いろいろ抱えて忙しいだろうけど、創造神にだって休憩は必要だ。
体は幾らでも酷使出来る。
それが神という存在だ。
でも、心は違う。
神になっても心は疲れる。
それを無視し続けると、何処かで壊れてしまうだろう。
「分かった。そうだな。今日ぐらいはゆっくりしようかな」
疲れが見える創造神に、目を細める。
これは、アイオン神に注意を促した方がよさそうだな。
「あぁ、リフレッシュは大切だからな。また今度」
小型パネルのスイッチを切る。
「ふぅ」
今日の目的は達成。
呪界に来た10個の星を眺める。
今日から、あの星もそこに住む神達や神族達も俺が守るのか。
気が引き締まるな。




