11.3日後。
「魂の消滅」の話をしてから少しの間、俺と仲間達はどこかいつもとは違った。
特に俺を見る視線が、とても悲し気だったのだ。
そして、みんな落ち込んでいた。
「力になる事が出来ない」と。
そんな微妙な空気が流れる中、話を聞いていない子供達や獣人達。
魔族や神族の子供達は、不安そうな様子で周りを窺いながら過ごしていた。
「大丈夫」と言ったが、仲間達の様子がおかしいのであまり効果が無かったと思う。
それでも時間が経つと、ゆっくり、ゆっくり日常に戻ってくれた。
日常を取り戻しつつある日、龍達が神国から戻って来た。
その様子を見て、仲間達も答えが分かったのだろう。
仲間達が一様に落ち込んでしまった。
その日の夜、龍達が俺の下に来た。
大きな体を小さくして、座っている俺に身を預け静かに目を閉じた。
俺からは何も言わなかったし、龍達も何も言わなかった。
ただ、とても静かな時間が流れていた気がする。
戻って来た龍達の様子から、また仲間達が落ち込むのではないかと不安に思ったが大丈夫だった。
龍達が何かしてくれたんか、それは分からない
ただ正直、ホッとした。
子供達や獣人達は元に戻った仲間の様子に安堵し、魔族達や神族の子供達は戻った日常に嬉しそうな笑みを見せた。
ガッシャーン。
元に戻った日々にゆっくりしていると、久々の音が聞こえた来た。
最近は、お皿を割る事も無くなっていたのに珍しいなと思いながら、キッチンに行く。
「大丈夫か?」
キッチンを覗くと、割れたお皿の傍に座り込む魔族の姿。
怪我をしていないか、全身を確認する。
「すみません、お皿を割ってしまって。大丈夫だと思ったんです」
俺を見て頭を下げる魔族に、首を横に振る。
「お皿はまた作ればいいから、気にしなくていい」
と言ったけど、作るのは農業隊なんだよな。
そういえば、最近のお皿は以前より華やかになった。
なぜなら農業隊が、お皿に絵付けを始めたから。
どうやって知ったのか、相変わらず謎だ。
割れたお皿を見ると、シンプルな物ばかり。
新しいお皿は被害に遭わなかったらしい。
「ほらほら、片付けるから隅によって。移動する時は、気を付けて!」
一つ目の1体が、箒と塵取りを持って魔族達に指示を出し始めた。
魔法で掃除をした方が早いのに、一つ目達は箒など道具を使う。
何でも、魔法を使うと仕事をやり遂げたと思えないそうだ。
俺だったら楽な方を選ぶけど、一つ目達は違うんだよな。
不思議だ。
一つ目の掃除を眺めていると、ポケットに入っていた魔石が震えた。
この魔石は、ナインティーンが加工した物で同じものが3個ある。
俺が持っている以外の魔石は、創造神とオウ魔界王が持っている。
そして、この3個は連動している。
使い方は、連絡が取りたい相手を思い浮かべて力を籠めるだけ。
それだけで、思い浮かべた相手の魔石が震えるのだ。
ポケットから魔石を取り出すと、透明のはずの魔石が白くなっていた。
白は創造神、黒はオウ魔界王。
俺の力は、青になる。
つまり、連絡を取って来たのは創造神という事になる。
執務室に戻り、パネルを操作する。
すぐに創造神の姿が映し出された。
「こんにちは。どうですか?」
俺の状態を知った創造神の挨拶に、体調を気にする一言が増えた。
「大丈夫。というか、2日前にも聞いたよな? 早々に何か起こる事は無いぞ」
俺の言葉に、肩を竦める創造神。
「魔界に送った星の様子はどうだ?」
「『問題なし』とオウ魔界王から報告が来たよ。それで、そっちはどう?」
「大丈夫、落ち着いたよ。これで星の移動に取り掛かれそうだ。本当にありがとう。急に予定を変えたのに対応してくれて」
星を移動する日は決めていたが、仲間の様子から予定を変えてもらったのだ。
さすがに、あの不安定な時に星の移動は無理だ。
「別に良いよ。その事で問題が起きる事は無いから」
創造神の言葉に笑みを浮かべて、頭を軽く下げた。
「落ち着いたから、そろそろ皆に星の移動の事を話すつもりだ。そうだな、今日の夜に話すよ。移動は……」
リーダーには「星の移動」について話してある。
ただ、仲間はそれを知らない。
最初はリーダーから皆に伝えてもらう予定だったが、思った以上に皆の様子がおかしかったので、それは止めた。
「星の移動で影響を受けるのは……」
んっ?
別に星が増えるだけで、呪界が大きく変わるわけではない。
呪界に来る星には、神と神族がいる。
でも、すぐに仲間達と交流させる予定は無い。
彼等の力と気持ちが落ち着いて、大丈夫と分かった後で十分だ。
ん~これだったら、すぐに移動をしても問題がなさそうだ。
でも……今日言って明日?
さすがに止めよう。
「3日後で、お願いしていいか?」
「分かった。では、3日後の朝に連絡をくれ」
「分かった」
オウ魔界王の話では、創造神と力を合わせれば簡単に移動出来たそうだ。
あまりの呆気なさに、創造神もオウ魔界王もビックリしたと言っていた。
「2回目だから、任せてくれ」
創造神の言葉に頷く。
「ありがとう。では、また」
パネルの操作して、画像を消す。
3日後か。
「星の移動ですか?」
不意に聞こえた声に、肩が一瞬だけビクッと動く。
そっと後ろを窺うと、リーダーが当たり前のように傍にいた。
「いつ執務室に入って来たんだ?」
執務室の扉を見るが、開いた気配はしなかったよな?
「んっ? 今ですが?」
まぁ、そうなんだろうけど。
首を傾げているリーダーを見ると、笑みが浮かんだ。
「なんでしょう?」
「いや」
どうやら呪界王の役目が増える事に、俺は緊張していたみたいだ。
星が増えるという事は、守る存在が増える事だからな。
しかも、少し先の未来でヒカルに丸投げする事になる。
仕事を増やして逃げるみたいで、心苦しかった。
そんな負の感情が、リーダーを見るとホッとして消えた。
俺をずっと支えてくれていた存在だから、その姿を見て安堵したんだろうか?
やはり、ヒカルにもリーダーのような存在が欲しいな。
「主? 大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫。そうだ。3日後に星を移動する事が決まったから。今日の夜に皆に話すよ」
「分かりました。そういえば、オルサガス国のデルオウス王からお礼が届きました」
デルオウス王?
あぁ、花のお礼か。
「どうやらうまく種が発芽し、今のところは順調に育っている様です」
もう?
成長が早い花なのかな?
「良かった」
リーダーの話では、川が世界に行き渡っているので問題は無いはず。
それでも心配だったからな。
「主」
「どうした?」
「ウッズが、森の魔物に異変が起こっていると報告して来ました」
ウッズと言えば、森を管理してくれている一つ目の一体だな。
そのウッズから、魔物に異変が起こっていると?
「どんな異変なんだ?」
「見た事のない魔物が、複数現れたそうです。調べた結果、親とは全く異なる姿だったようです」
進化や森に適応して徐々に姿が変わるのは分かるが、親と全く異なる姿?
そんな事が、あり得るのか?
「その魔物は1種類なのか?」
「その辺りは今、調査中です」
「そうか。詳しく分かったら、報告を頼む」
「はい」
森に異変が起こっているのか?
でも、森を守る力は安定している。
それなら魔物だけにおきた異変か?
調査を待つしかないな。




