8.何らかの力。
「魔界、呪界、神国。この3つの世界には、何らかの力が働いているな」
オウ魔界王の言葉に、頷く。
この世界に何らかの力が働いていると感じたのは、光の魔力が神力になったと同時に闇の魔力が魔神力になったと聞いた時、もう1つは神の光の魔力が満ちた世界と闇の魔力が満ちた世界は同じ大きさになっていたと聞いた時だ。
まるで、何らかの力がバランスを保とうとしているように感じた。
そして力の存在をはっきり認識したのは、俺が呪神になった時だ。
呪界が誕生した時、神国や魔界と同等の力を持っていると知って驚いた。
なぜならあの時はまだ、呪界に神はいなかったから。
世界の王がいないのに、同等の力があるわけが無い。
まぁこれは、呪神になり呪界の全てを理解した時に、おかしいと気付いたのだが。
全ての世界に影響を与える何らかの力が、誰の力なのかは全く分からない。
でも、世界が壊れないように働いているのだと思う。
今回の魂の行き先も、この力が働いた可能性があると思っている。
「世界を守る力だと思っているが、2柱どう思ている?」
オウ魔界王は、俺を見る。
「俺も、そう思う。何らかの力は、神国、魔界、呪界のバランスを保つように働いていると感じる」
「俺も同じ意見だ。今回の魂の行き先を決めたのも、その力だと思う」
創造神は少し悲しそうな表情を見せる。
その世界を安定させる力に、神は魂を癒せないと判断された事になるからな。
「まぁ、この力について話してもきっと何も分からないだろう」
呪神になりおかしい事に気付いてから、呪界にその力の残骸が無いか調べたけど全く無かった。
本当はそんな力なんて無かったのでは? と思ってしまうほど何も残っていなかった。
「そうだな。俺も魔界でその力について調べてみたが、何も出なかったよ」
俺とオウ魔界王の言葉に、創造神がちょっと戸惑った表情を見せる。
「どうしたんだ? もしかして何か知っているのか?」
オウ魔界王の言葉に、創造神が首を横に振る。
「いや、俺は調べる事すらしていないから、どう答えるべきか分からなくて」
あぁ、そっちか。
「別に調べなくても問題ないだろう。今、創造神にはやらなければならない事が多くあるんだし。問題を引き起こすわけでもない力なんて、後回しになって当然だ」
神国は、色々問題が山積なんだ。
害にならない力の事を、気にかけている暇なんて無いだろう。
「そんなに忙しいのか?」
俺の言葉にオウ魔界王が創造神を見る。
「あぁ、ほとんど寝ていないだろう? ロープが感心していたよ」
「寝ている暇が無いからな。こういう時、神というのは便利だよな」
創造神の言葉に笑ってしまう。
「神の持つ力『異常時状態の解放』か?」
神には特別な力がある。
異常時状態の解放も、そんな力の1つ。
この力は、睡眠、食事、休憩など、体を休める必要がなくなる。
つまりずっと起きて活動できる体にする事が出来るという事だ。
まぁ、この立場になって分かったけど、神には睡眠も食事もアマリ必要ない。
1日の時間経過を忘れないために、皆と食べて、皆が寝る時間に一緒に寝ているけど。
本当は、そんなに必要としていないのだ。
とはいえ、休憩や食事が全く必要ないかと言われたら、それも違う。
たまには、それらが必要となる。
でも異常時状態の解放を行えば、最低限の休憩すらも必要なくなる。
「そうだ。あれはいいぞ。疲れも全く感じなくなる」
確かに、あとからあとから仕事が来る今の神国では必要だろうな。
「その状態の時って、時間の経過を感じられるのか? 俺は今、普通に生活しているのに時間の経過が感じられ無くなるんだけど」
この話題になってちょうど良かった。
時間の経過について、相談したかったんだよな。
「時間という概念から外れている感じだな。時間が動いてる感覚は、全く無い。ん~長い1日という感じかな?」
創造神の言葉にちょっと怖さを感じる。
でも創造神はそれについて、怖いとは感じていないようだ。
オウ魔界王を見ても、創造神の言葉に反応はしていない。
もしかして神だけの感覚なんだろうか?
「呪界王。どうした?」
オウ魔界王の言葉に、首を横に振る。
「いや、違う」
「「えっ?」」
この辺りの事はしっかり聞いて行こう。
「創造神とオウ魔界王にとって時間の経過は、それほど重要ではないのか? 俺は、時間の感覚が無くなる事を怖く感じるんだけど」
俺の言葉に驚いた表情を見せる2柱。
やはり、神の持つ感覚と俺が持っている感覚には違いがあるようだ。
おそらくそれは、俺が人だったから。
「時間ね?」
創造神が首を傾げる。
「呪界王は、人間という生き物だったな」
「あぁ、そうだ」
「人間の寿命は?」
「元の世界では、平均で80歳くらいかな?」
正確には分からないけど、問題ないよな。
「短いな」
創造神の言葉に苦笑する。
まぁ、神からすれば本当に一瞬なんだろうな。
「寿命が短い生き物にとって時間の経過は大切なのでは? 時間が過ぎれば過ぎるほど死が近くなる。神のように生きる事にしんどくなってから迎える死と、80年そこそこで訪れる『まだ生きたいと望む者』が迎える死は全く別だろう」
「寿命」と「死」か。
つまり俺は、寿命の長い神になり死が遠のいたので時間から解放された。
でも、俺には身近に「死」というか「魂の消滅」がある。
だから時間の経過に怖さを感じている?
「なるほど。そういう事か」
「正しいかは不明だぞ。俺の考えだ」
オウ魔界王が、焦った声を出すので笑ってしまう。
「分かっている。でも、しっくりくるからそれが正解だろう」
つまり、時間の経過は神のせいで鈍くなり、魂の消滅のせいでそれを怖く感じ続けると。
……面倒くさい体だな。
「呪界王、あの……」
創造神を見ると、視線が彷徨っている。
オウ魔界王も、そんな創造神の態度に眉間に皺を寄せた。
「どうしたんだ?」
「いつからだ?」
俺の質問に、オウ魔界王が鋭い視線を向けて来る。
「魂に傷がついている」
あぁ、それに気付いたのか。
「呪界王。いや、翔。自分の状態に気付いているか? その……」
「あぁ、分かっている」
俺の返事に、オウ魔界王が苦しそうな表情をした。
そんな表情をさせてしまうのは、申し訳ないな。
「どうして気付いたんだ?」
右腕に痛みが走り始めると、その部分に力がスムーズに流れなくなった。
でもここに来る直前に、ヒールを何度も掛けたからその部分からは気付かれないと思うんだけど。
「ここで会った時から微かに違和感があったんだ」
えっ、最初から?




