4.変化。
子供達が、採取してきた花を見せてもらう。
「あれ? チューリップの形をしているのか?」
まさか、採取してきた花の形がチューリップと同じだとは、ちょっとビックリだな。
大きさも同じぐらいだ。
「主、見て! この花は、色の変化が綺麗だよね」
桜の言葉に視線を向け頷く。
「あぁ、凄く綺麗だな」
桜の見せてくれた花は、花の先に向かって青から白にグラデーションしていた。
その繊細な変化は、とても美しい。
他の子供達の花を見ると、色は青と白と同じなのだが、色の入り方がそれぞれ異なるようだ。
まだら模様や青に白の線が数本入っていたりと、規則性はないのだろう。
「うわっ、こんなに花がある!」
「すごい。まだ蕾の物まであるぞ」
賑やかな声の視線を向けると、オルサガス国の騎士達が花を見て喜んでいた。
彼等は、魔物に襲われ命すら危ぶまれたのに、怪我が治るとすぐに探しに行こうとした。
それほどエルフ達にとって、花は大切な物なのだろう。
今回、子供達が早々に花を採取して来てくれてよかった。
明日になったら、自分達が行くと言い出しそうだったからな。
ただ花の枯れた原因が分からなければ、過去と同じように枯れてしまうかもしれない。
「リーダー。オルサガス国で咲いていた花が、枯れてしまった原因は何だと思う?」
植物に必要なのは、土と栄養と水。
駄目なのは、魔法を掛ける事。
もしかして、よく育つように花に魔法を掛けたなんて事は……無いな。
かなり大切に育てていたみたいだから、そんな失敗はしないだろう。
「おそらく」
えっ、分かるの?
さすがリーダーだな。
「川が枯れたせいだと思います」
川が枯れたせい?
「えっ、水不足で枯れたのか?」
まさか。
「いえ、違います」
まぁ、そうだよな。
「この世界の川には、大地よりはるかに濃い魔力が水に溶け込んでいます」
「そうだな。川遊びをした時に、気付いたよ」
もしかして川の水に含まれている魔力が原因で枯れたのか?
いや、違うな。
川が枯れたと言っていたんだから魔力は関係ないか。
んっ?
それなら、どうして川の話を始めたんだ?
「この花には、他の植物より多くの魔力が必要なようです」
「えっ、そうなのか?」
「はい。最低、大木に必要な魔力の約20倍ぐらい必要ですね」
そんなに?
花を1株持ち、魔力を調べてみる。
あっ、確かに花全体から濃い魔力が溢れている。
「おそらく花に魔力を供給していたのが、魔力を含んだ川の水だったのでしょう。大地から送られる魔力では、全く足りなかったと思いますから。ですが、この世界全体が魔力不足になり川はどんどん消えてしまった。そのせいで、花に十分な魔力が行き渡らず枯れてしまったのだと思います」
なるほど。
んっ?
今は世界に魔力が溢れ、世界中に川が行き渡っていると聞いた。
森なんて、精霊達が制御しないと川だらけになるぐらいだ。
「だったら、オルサガス国で花の復活は可能という事か?」
「どの国にも川が行き渡ったと報告が来ています。ですので、花の復活に問題は無いでしょう」
リーダーの言葉に、少し離れた場所で話を聞いていたエルフ達が嬉しそうに笑うのが見えた。
「そうか。良かった」
「主、これも採って来たよ」
バッチュが俺に向かって小さな袋を差し出す。
受け取り中を確かめる。
中には、小さな黒い粒が沢山入っていた。
「もしかして、花の種?」
「そう、種」
「ありがとう。きっとエルフ達は喜ぶよ」
花が移動に耐えられなくて枯れてしまっても、種があるなら安心だ。
「すぐにオルサガス国の王デルオウスに連絡を取らないとな。心配していたし」
子供達が手伝う事をつたえると、かなり驚いていたな。
子供達を、危険な森に入れるのかと。
森には強い魔物が沢山いるからな。
でも……、
「リーダー。森には、子供達より強い魔物はどれくらいいるんだ?」
「いませんよ」
やっぱり。
「そうか」
最近、子供達が森に行く時の護衛がぐっと減ったんだよな。
だから何となくそんな事だろうとは思っていたけど。
本当に子供達より強い魔物はいなくなったんだ。
「空を飛ぶ何だっけ」
俺が首を切り落とした魔物。
名前が出てこないけど、あれはかなり強い魔物だと言っていたよな。
「ワイバーンですね。1人では大変ですが2人なら余裕をもって狩れます」
1人でも大変だけど狩れるという事か。
「強くなったんだな」
「はい。それはもう」
満足そうに頷くリーダーに小さく笑ってしまう。
成長を喜ぶ親みたいだな。
「子供達は、そんなに強くなって何になりたいんだろうな?」
俺の言葉に視線を向けるリーダー。
「子供達にはそれぞれ夢があるようです。まだそれが何か教えてもらっていませんが、子供達の間では色々と話をしているそうですよ」
「そうなのか? というか、誰から聞いたんだ?」
「蜘蛛達です。おそらく子供達が話す内容も知っているでしょうが、内緒だと言われているらしく教えてくれませんでした」
「そうなんだ。ちゃんと夢があるのか」
良かった。
子供達は、神達のせいで記憶を無くし幼くなってしまった。
だから色々心配していたけど。
そうか、夢があるのか。
「主~! エルフ達の快気祝いと花の採取祝いしようって」
雷の言葉に苦笑する。
快気祝いと採取祝いね。
いろいろな事にかこつけてお酒を飲もうとするのは……あっ、親蜘蛛とシュリが視線を逸らした。
「まったく」
「どうしますか?」
リーダーを見ると、数枚の紙を持っている事に気付いた。
チラッと覗くと、ワイン樽の在庫数と置き場所が記載されてる。
そして、今日の日付とワイン樽の数が書かれていた。
「もしかして料理も既に手配済み?」
「……もちろんです」
あっ、リーダーも視線が泳いだ。
まぁそうなるよな。
エルフ達の怪我を治したのは3日前。
その時に、復活祝いをしたもんな。
あの時、なぜ快気祝いでは無いのか不思議だったけど、もう一度飲む機会を作るためか。
「ふふっ。お祝いだから楽しもうか」
俺の言葉に、わっと周りから歓声が揚がる。
エルフ達はちょっと困っているようだ。
前回にしこたま飲まされていたからなぁ。
「子供達と一緒にいると、それほど飲まされないよ」
困惑顔で周りを見ていたエルフ達の傍に寄る。
「あっ、分かりました。あの、花をありがとうございました」
エルフ達が頭を下げる。
「どういたしまして。そういえば、この花が薬になるんだったよな?」
どんな薬なのか、詳しく聞いてないな。
「はい、そうです。魔力を溜める器の大きい子がお腹にいると、親の魔力を食い尽くしてしまい親子ともども命の危険にさらされます。この花から出来た薬は、お腹の子に魔力を与えてくれるため、親子の命を守ってくれるんです」
「そうなんだ」
まさか命に係わる薬だったなんて。
あれ?
「子供?」
「はい。ここ数年は新しい命を授かる事は無かったのですが、1月ほど前に新しい命を授かったと王に報告が上がったんです。その子は、特に器の大きな子供では無かったため親子の命に影響はないですが、これからは必要となるかもしれないため、花の捜索を急いだんです」
「そうだったのか」
おかしい。
呪界で、新しい命が生まれるはずは無い。
元になる魂が無いのだから。
いや、この世界で亡くなった者の魂か?
でも、その魂を新しく誕生させる力は無いはずだ。
もしかして、地下で咲いている花?
でも、花が咲いたという報告はあったが、その花に変化があったという報告は来ていない。
これは急いで調べる必要があるな。




