3.残りたい。
興奮状態で魔界に帰って行く魔族達を見送る。
まさか、帰る時まで興奮状態が続くと思わなかった。
「はぁ」
「大丈夫か?」
アイオン神が笑いながら俺の肩を軽く叩く。
「精神的に疲れたよ」
誰かにジッと見られる経験なんて、今まで無かったからな。
そういえば、またこういう事があるんだよな?
いつか慣れるかな?
……無理だろう。
「さてと、私達も帰ろう」
「いや、俺は残るよ」
アイオン神が唖然とした表情でオータム神を見る。
「はっ? 残る」
「うん。俺は呪界に残ろうと思う」
「オータム神は呪界に残りたいのか?」
驚いた表情でオータム神を見ると、真剣な表情で頷かれた。
「お願いします。呪界に置いて下さい。俺が出来る事は手伝いますから」
「いや、手伝いはいいとして。なんで、残りたいんだ?」
オータム神は、優れた癒しの力を持っているんだよな?
その力は、神国でも重宝されるのでは?
「俺の友人達が俺の力を当てにして、愚かな事をするんです。何度言っても、行動を顧みてくれない。だから、一度離れようと思って」
「あぁ。奴等か」
アイオン神は思い当たる者達がいるのか、顔を歪めた。
「神達の間で、問題にならないならいいぞ。リーダー達は大丈夫か?」
傍にいるリーダーを見る。
オータム神が泊まる部屋などを準備するのは一つ目達だから、彼等の許可が必要だ。
「こちらは問題ありません。すぐに部屋を用意します」
「大丈夫だそうだ。今日だけ? それとも数日?」
俺の言葉にオータム神が考え込む。
そんな彼の様子を見たアイオン神が、俺を見る。
「1ヵ月で頼む」
「えっ?」
驚いたオータム神に、アイオン神が真剣な表情を向ける。
「数日で戻ったら、おそらく奴等は学ばない。だから、最低でも1ヵ月は離れていろ。1ヵ月後、奴等に反省が見られなかったら、呪界での滞在日数を伸ばした方がいい。やるなら徹底的にやらないと」
「そうだな。やるなら、甘い考えは捨てた方がいいな。ただ1ヵ月以上となると、呪界にかなり迷惑を掛ける事になってしまうのだが」
オータム神が、リーダーを見る。
「大丈夫です。部屋の準備さえしてしまえば、あとは食事の準備ぐらいなので」
リーダーの言葉に頷くと、彼は俺を見る。
「リーダーが大丈夫なら、俺は問題ない。それより、オータム神の友人? その者達に、アイオン神から注意をする事は出来ないのか? アイオン神は、神国ではそれなりの地位にいるんだろう?」
上の存在から注意を受けたら、少しは態度を改めるのでは?
というかオータム神が言う「愚かな事」とは何だろう?
「私だけでなくフィオ神も、既に何度も注意をしているんだ」
「そうなのか?」
「あぁ。オータム神の友人……あれは友人では無いと思うが。奴等は、神が不足している事を知っているから、ちょっと態度がな」
あぁ、神国の現状から大きく出ても大丈夫と判断しているのか。
「まぁ、創造神の力が安定してきたので、神不足も少しずつ改善されていくと思う。星の整備も始まったし。でも、すぐに解決するわけではないから、当分は奴等にも頑張っても貰わないと駄目なんだ。それを知っているから、注意をしても流されてしまうんだ」
「それは……友人達? には、いい環境だな」
俺の言葉にアイオン神が、苦笑する。
オータム神は、困った表情を見せた。
「オータム神は友人だと思っているんだよな?」
アイオン神は、違うと思っているようだけど。
「友人……だったはずなんだが」
昔とは変わってしまったという事かな。
「迷惑を掛けらているなら、関係を切ってもいいのでは?」
「そうなんだが、踏ん切りがつかなくて。でもいい加減にしないと駄目だから、一度離れてみようと。だから今回、創造神の依頼を受けたんだ」
離れる切っ掛けを作るためか。
「それならゆっくり呪界で過ごせばいい。その友人達の事も、離れてみれば違う角度から見る事が出来るだろう」
「ありがとう」
安堵の表情を見せたオータム神にアイオン神が肩を竦める。
彼女からしたら、「早く切れ」という感じかな。
「あっ、言葉が……」
オータム神が少し焦った表情で俺を見る。
「今の話し方でいいぞ。話し方なんて、ここで気にする者はいないから」
俺の言葉にホッとした様子を見せたオータム神。
アイオン神は少し呆れた様子で彼を見た。
「オータム神は、真面目過ぎるんだ」
「ははっ」
アイオン神の言葉に、申し訳なさそうに笑うオータム神。
その彼の態度に、アイオン神がため息を吐く。
「奴等はオータム神の性格を利用している。それを知った後でも切らないなんて」
どうやらオータム神は、懐に入れた者に甘くなってしまうようだ。
「部屋の準備が出来ました」
「えっ、もう?」
リーダーの言葉に、オータム神が驚いた表情になる。
「はい。部屋の中を整えるだけなので」
「そうなんだ。えっと、これからしばらく、宜しくお願いします」
リーダーに深く頭を下げるオータム神。
リーダーもオータム神に向かって深く頭を下げた。
「本当に真面目だな」
何事も真っすぐだな。
神達と関わって来たけど、彼のような性格の者はいなかったと思う。
「そうなんだよ。もっと気軽に生きればいいのに」
「アイオン神は少し見習ったらどうだ?」
俺の言葉に、眉間に皺を寄せるアイオン神。
「長く生きていると少しずつ手を抜く方法などは、覚えるものだ。オータム神は神の中でも珍しいんだ!」
そんな事を力強く言わなくても。
「オータム神の事は頼むよ。私は戻らないといけないから。いい加減、部下達がしびれを切らす」
「また仕事をさぼって来たのか?」
アイオン神の部下であるマッシュ達も大変だよな。
上司がふらふら呪界に行って帰って来ないんだから。
「オータム神を、翔に紹介するために来たんだ。これは創造神からの依頼だから、さぼりじゃない」
「ゆっくりお茶をしていたけどな」
「……仕事の合間の休憩は、仕事の効率を良くするために必要なんだぞ」
アイオン神の言葉に溜め息が出る。
2時間も、必要ないと思うけどな。
「オータム神、私は帰る。彼等の様子は、私が確認しておくから」
「あぁ、ありがとう。頼む」
オータム神の友人達が、態度を改める事はあるのかな?
フィオ神達からの注意を無視するぐらいだ。
あまり期待できないだろうな。
神国に帰るアイオン神を見送ると、一つ目に案内されオータム神がこれから泊まる部屋に向かう。
それを見送っていると、森から子供達の戻って来る姿が見えた。
「今日は森で、花の採取をしてくれているんだったな。無事に手に入ったかな?」
その花は、エルフの国で体調不良の時に飲む薬草の1つになっているそうだ。
そのため、オルサガス国では大切に育てられていた。
だが、数年前に全てが枯れてしまったらしい。
エルフ達は、非常事態に備えて置いていた種を使用し、もう一度花の復活を目指した。
しかし芽は出ず、種は腐ってしまった。
オルサガス国の王 デルオウスから助けを求められたのは8日前。
花の原種が、森のどこかにあるので探す許可が欲しいと。
この広大な森で花を探すのかと思ったが、切羽詰まった表情にすぐに許可を出した。
その2日後、魔物に襲われていたエルフ達をアリ達が保護してきた。
話を聞けば、花を探している最中に魔物に襲われたそうだ。
アリ達がいなければ命は無かったと、凄く感謝をされた。
俺はデルオウスに連絡を取り、彼等の事を伝え、花について調べてみる事を伝えた。
さすがに魔物に襲われる可能性があるのに、「行ってらっしゃい」とは送り出せない。
まず、森に詳しいウッズに話を聞いた。
その結果、すぐに花の咲いている場所が分かった。
俺は自分で取りに行こうと思ったのだが、傍で話を聞いていた子供達が「任せて欲しい」と手を挙げた。
少し迷ったが、子供達の傍にはバッチュがいる。
一緒に行くのか聞くと、当然と力強く頷かれた。
バッチュが一緒なら安心と、花の採取を子供達にお願いした。
子供達の表情が見えると、採取が上手く言ったと理解した。
どの子も皆、いい笑顔だ。




