2.バレた? バレてない?
少し離れた所から、ちらちら見て来る魔族達には諦めた。
ただ、腕を動かすだけで盛り上がるのは止めて欲しいかな。
意味が分からないから。
「すまない。主は、魔界の救世主なんだ。だから、近付くのは恐れ多いが、一度だけでも見てみたいと思う者が多くて。彼等は、見たいと騒ぐ魔族の中でも、常識的な者達を選んで連れてきたんだが」
「はははっ。まぁ害がないなら良いよ」
救世主かぁ。
なんというか、重い言葉だな。
「オウ魔界王の邪魔になると困るから、魔界に広がっている救世主という考えを変えたいんだが、出来るだろうか?」
「…………」
無理なのか。
「今は無理でも、時間が経てば落ち着いて来るとは思う。でも、主が魔界を救った事実は変わらないから完全には消えないだろう」
「救ったのかな?」
俺は行く事を許可しただけで、実際に動いたのはサブリーダー達なんだけど。
だから、救ったのはサブリーダー達だよな?
「救ったさ。配下であるサブリーダーや蜘蛛達、アリ達を魔界に送ってくれたんだから」
配下ではなく仲間なんだけど。
いや、周りから見たら配下か。
「そうか」
考えを変えるのは時間がかかりそうだな。
諦めよう。
それにしても、チラチラ見られるのはけっこう気になるものなんだな。
慣れていないからかな?
あれなら、傍でジッと……いや、それは駄目だ。
もっと落ち着けなくなる。
「ふぅ」
慣れるしかないよな。
「悪い。見えない位置に奴等を移動させようか?」
小さなため息を聞かれたのか、ドルハ魔神が魔族達に視線を向ける。
「いや、大丈夫だ。すぐに慣れると思うから」
うん、あれ?
ドルハ魔神は「あと、数回こういう事があると思う」と言っていなかったか?
「あと数回?」
ドルハ魔神を見ると、申し訳なさそうな表情で頷いた。
「あと数回で、何とか全員を納得させる」
「あぁ、頼む。本当に頼むな」
魔族達は、このまま落ち着くのを待つしかないな。
まぁ、少しすれば飽きるだろう。
俺を見ても楽しくないだろうから。
「で、創造神からだっけ」
アイオン神の隣に立つ神を見る。
癒しの力が優れた神だっけ?
肩までの水色の髪に、真っ青な瞳が印象的だな。
「あぁ。彼はオータム神。神国では、優れた癒しの力を持っている事で有名な者だ。翔の体調を癒すために連れてきた」
神国での有名人か。
「呪界に連れてくる事を、止める神はいなかったのか?」
創造神が、無理矢理決めたとかではないよな?
そんな事をしたら、あとあと問題になるかもしれない。
「いや、全く」
全く?
「『すぐに連れて行け』と言う神がいたぐらいだ」
「はっ?」
「そんなことより、今日の体調はどうなんだ?」
そんなことって。
アイオン神を見ると、心配そうな表情で俺を見ている事に気付く。
それに笑みが浮かぶ。
「大丈夫だ。問題ない」
「本当に? 右手だったか? かなり痛みがあったんだろう?」
アイオン神の言葉に少し驚く。
まさか痛みを訴える場所がバレていたとは。
もしかして、創造神から何か聞いたんだろうか?
「本当に大丈夫だ。痛みも無いから」
アイオン神の前で右手を振ってみせる。
それをジッと見る彼女に、小さく笑ってしまう。
「本当に痛みはないのか?」
実際に動かして見せたのに、怪しまれているな。
「本当に痛みはない」
「調べてみようか? 痛みの原因も調べたいし」
オータム神の言葉に、アイオン神が頷く。
「頼む」
「わかった」
いや、待て。
俺の許可は?
「では手を」
オータム神が、右手を俺に向かって出す。
「まぁ、いいけど」
心配掛けているみたいだから、調べてもらうか。
記録装置ほどの力が無いと、原因がバレる事は無いだろうし。
いや、創造神にはバレているみたいだから隠す意味はないのか?
……あれ?
今、オータム神は「痛みの原因も調べたい」と言ったよな。
つまり、痛みの原因はバレていないのか?
あっ、そうか。
記録装置で知る事が出来るのは、その装置がある世界の事だけだ。
他の世界の事は、俺が実際に関わった時の事だけが、記録装置記載されるんだった。
創造神が、記録装置から俺の不調の原因を知る事は出来ないんだ。
となると、アイオン神から俺の不調を聞いて、オータム神を送ってくれたのかもしれない。
うん。
「バレた」と思うのは、俺の考え過ぎだな。
後ろめたい事があると、もしかしてという考えに陥りやすい。
気を付けないと。
俺がバラシてしまいそうだ。
オータム神の手に右手を乗せると、彼は俺の手を両手で包み込んだ。
「神力で調べるのはいいが、呪力や魔神力に悪影響はないのか?」
「あっ」
ドルハ魔神の言葉に、オータム神が少し困った表情を見せた。
「分からないのか?」
「はい。すみません」
オータム神の両手が、俺の右手から離れていく。
「大丈夫だと思うぞ。俺が持つ魔神力も呪力も、神力に慣れているから。とりあえず、やってみてくれ。違和感を覚えたら、すぐに知らせるよ」
俺の言葉に少し迷ったオータム神は、差し出している俺の右手を両手で包み込んだ。
「ゆっくり進めます」
「あぁ、頼む」
オーラム神が目を閉じると、彼の両手から温かな熱が伝わって来た。
これが彼の力か、温かいな。
ゆっくり流れて来る力に、ふと体が軽くなる。
別に不調では無かったはずだけど、疲れかな?
「気持ちのいい力だな。全身が温かくなってきた」
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
嬉しそうなオータムの様子に笑みが浮かぶ。
「終わりました」
しばらくするとオータムが俺の両手を離した。
「どうだ?」
アイオン神が不安そうにオータム神を見る。
「特に問題は見つかりませんでした」
やっぱり原因はバレなかったな。
それでもオータム神の力は凄いな。
本当に隅々まで調べていた。
「本当に?」
アイオン神が少し不審そうにオータム神を見る。
「本当です。俺の力で調べる限り、呪界王の体に、問題はありません」
「そうか」
ホッとした様子を見せるアイオン神に、少しだけ申し訳なくなる。
「でも、それならどうして痛みが出たんだ?」
「ん~、神力を使い過ぎたのかもな。まぁ、それについては調べるよ」
本当の事は、まだ言えない。
話すにしても、まず仲間からだ。
「アイオン神、安心したか?」
「あぁ、良かった。呪界に戻った翔の顔色がなかなか戻らなかったから、心配していたんだ。そういえば、今日は大丈夫みたいだな」
えっ、顔色が悪かったのかか?
気付かなかった。
「心配掛けて悪かったな」
だから周りにいる者達から、何度も体調を心配されたんだな。
顔色か。
それも初期症状の1つなのかな?
だって、毎朝ヒールで体調を整えていたから、顔色が悪いはずないんだよな。
「主?」
リーダーを見ると、何か言いたいそうな雰囲気だと気付く。
「どうした?」
「……おやつの時間ですね」
リーダーが話を誤魔化した?
「そうだな」
「では、皆さんとゆっくりお茶とお菓子をお楽しみください」
リーダーが、ウッドデッキを見ると既に色々と準備がされていた。
さすがだ。
「ゆっくりしようか。リーダーが準備してくれたし」
俺の言葉に、ドルハ魔神が嬉しそうに笑う。
「ありがとう。呪界で出る食べ物は何でもうまいから、気に入っているんだ」
「そうか。魔族達にもあるのか?」
リーダーを見ると当然とばかりに頷いていた。
「準備を、ありがとう」




