1.さて、どうしようかな。
記録装置に表示された文字を目で追う。
『呪界王、魂の崩壊、初期状態』
「はぁ、何度見ても変わる事は無いか」
椅子に深く座って、背もたれに体重をかける。
目を閉じると、溜め息を吐いた。
目を開け、右手を顔の前に持ち上げる。
今、右手に痛みはない。
だが、魔法を使えばきっと痛みを訴えるだろう。
そしてこれが、初期症状なんだろう。
記録装置に視線を向け、先ほどの続きを読む。
『原因、許容量を超えた過剰な力。限界を超える力の行使』
うん。
思い当たる事しかないな。
だが、原因がわかっても、それについて後悔はしていない。
おそらくこうなると分かっていても、必要ならば俺は力を使うだろう。
「さて、どうしようかな」
続きを読んで、もう一度ため息を吐いた。
『魂の崩壊を防ぐ方法は無い。延命は力を使わない事。力を減らす事』
力を使わない事は、たぶん出来る。
でも力を減らすって、どうやって?
「それに、今も力が強まっているんだよなぁ。ははっ」
たぶん、魔界や神国で俺を支持してくれる者が増えているんだろう。
魔界も神国も俺が救ったように言われているから。
「リーダー達に、原因を知られる訳にはいかないよな」
仲間達の顔を思い浮かべる。
「過剰な力については、絶対に秘密にしないと」
それと、俺が居なくなった後の事も考える必要がある。
「呪界の事は、おそらくヒカルが対応できるだろう」
呪界にある唯一の星を、俺と一緒に支えているヒカル。
あの力は、俺とほぼ同じだ。
だから、呪界を支える事も出来るだろう。
ただ今のヒカルでは、力が弱い。
「力を増やす必要がある。でも、俺のようになっては困るから、ヒカルが抱え込める力の限界を調べないとな。あとヒカルの気持ちだけど……」
呪界王という立場を、押し付けるようなものだよな。
でも、他にこの立場に就ける者はいないし。
「お願いするしかないけど……はぁ」
気が進まない。
この立場は、非常に重い。
呪界に住む、全ての命を守る立場になるのだから。
でも、もしもの事を考えて、すぐにでもヒカルにはお願いするしかない。
「ヒカルは……」
優しい子だから、きっと俺の願いを聞いてくれるだろう。
「はぁ、駄目だ。全てを押し付けるのかと考えると、決意が揺らぐ」
自分が苦労するなら、いくらでも出来る。
でもその苦労を仲間に押し付ける決意なんて、出来るわけが無い。
「つらい決断だな」
もう一度目を閉じ、溜め息を吐いた。
ここ数日、ヒカル1人に押し付けない方法を考えた。
でも、世界に王は1人だけ。
それは決して変える事の出来ない、世界の決まり。
「ヒカルに、話すか」
彼を次の呪界王にする以外に、思いつく方法は無いのだから。
記憶装置のある空間から、皆の下に戻ると大きな声援が聞こえた。
それに首を傾げながら、広場に向かう。
「……何をしているんだ?」
なぜか広場では、アイオン神とドルハ魔神が戦っていた。
「あれ?」
2柱の戦う姿を見て、違和感を覚える。
「あっ、魔法の使用が禁止なのか?」
さっきから2柱は剣で戦っているが、1度も魔法を使用していない。
まぁ、あの2柱がここで本気の魔法を使ったら大変な事になるからな。
「主、お帰りなさいませ」
「ただいま」
リーダーが俺の隣に立ち、2柱の戦いに視線を向ける。
「どうしてこんな事に?」
「アイオン神が来た丁度その時、ドルハ魔神も魔族達を連れてやってきたんです」
魔神達を?
あぁ、観戦している者達の中に見慣れない魔族達がいるな。
「それで?」
「神と魔神、どちらが主の役に立てるかという話になって」
「はっ?」
どうしてそんな話になったんだ?
というか、アイオン神は創造神に。
ドルハ魔神はオウ魔神王の役に立つ事が重要だと思うんだが。
「どちらも自分の方が主の役に立つ譲らず、今のような事になりました。ただ、神や魔神が本気で魔法攻撃をすると大変な事になる為、飛びトカゲが2柱に魔法による攻撃を禁止しました」
飛びトカゲ、ありがとう。
「分かった。教えてくれてありがと」
さて、どうしようかな?
魔法攻撃が禁止されているなら、まぁ、特に問題は……無いな。
「止めた方がいいですか?」
リーダーの言葉に首を横に振る。
「星が傷つくような事にならないなら、放置でいいだろう。2柱とも、楽しそうだし」
「そうですね。楽しそうです」
最初はどうだったのか分からないが、アイオン神もドルハ魔神も楽しそうに戦っている。
なので、このまま続けても問題ないだろう。
「アイオン神、いけ~!」
んっ?
聞きなれない声に視線を向ける。
「誰だ?」
リーダーに、アイオン神を応援しているおそらく格好から神について聞く。
「アイオン神と一緒に来ました。初めて見る神ですね」
そうだよな。
それにしても、すっごい応援だな。
まぁ、ドルハ魔神を応援している魔族達も凄い応援だけど。
「勝負あり!」
コアの言葉に、アイオン神とドルハは魔神の動きが止まる。
「ドルハ魔神の勝利!」
「やった~。ドルハ魔神、お見事です」
コアの宣言に、魔族達が盛り上がる。
「ふぎゃぁわ~」
反対に、アイオン神を応援していた神が、変な声で叫んだ。
そんな中、2柱は握手したとその場に座り込んだ。
「疲れた~。こんなに動いたのは久しぶりだ。最近は書類仕事ばかりだったからな」
アイオン神の言葉に、ドルハ魔神が同意する。
「アイオン神もか?」
「ん?」
「書類仕事が多くなっているのか?」
ドルハ魔神の言葉に、嫌そうな表情で頷くアイオン神。
「あぁ、今はアルギリスが起した問題の処理に追われている。少し前は、落ち神の処理に追われていたのに。いい加減、書類仕事を誰かに押し付けたよ」
あれは本気だな。
一緒に来たらしい神が、苦笑している。
「あっ、翔」
アイオン神の言葉に、ドルハ魔神もこちらに視線を向ける。
そしてちょっと視線をさ迷わせた。
「悪い、主。許可も貰わずに好き勝手してしまって」
ドルハ魔神の言葉に、アイオン神が驚いた表情を見せる。
「あっ、悪い。そうだな。勝手をしてしまった」
アイオン神も少し困った様子で俺に謝った。
今まで自由に行動していた事に気付いたのだろう。
「別に大丈夫。何かあればリーダーが止めるだろうし」
「もちろんです」
俺の言葉に当然とばかりに頷くリーダー。
そんな彼の態度に、アイオン神の顔色が少し悪くなる。
「どうしたんだ? あのゴーレムが何か?」
ドルハ魔神がアイオン神の変化に、リーダーを見る。
「リーダーだ! あのゴーレムだなんて! いいか、絶対に怒らせるなよ」
アイオン神の勢いに、戸惑いながら頷くドルハ魔神。
「リーダー、アイオン神に何をしたんだ?」
「なんでしょうか? 特に思い当たる事はないんですが。あぁ、少し前にちょっと1発……特にありません」
1発?
……まぁ、いいか。
「そうか。それより2柱は、どうして呪界に?」
アイオン神は新しい神を連れてきたし、ドルハ魔神は新しい魔族を連れて来た。
昨日までに、呪界に誰かを連れてい来るという話は来ていないんだけど。
「創造神から、癒しの力が優れた神を選出して、呪界に送り届けるように言われたんだ」
癒し?
あぁ、俺の不調に創造神は気付いていたのか。
もしかして、原因もバレているのかな?
「俺は……悪い。毎日懇願されて仕方なく」
ドルハ魔神の説明に首を傾げる。
懇願?
「『一度でいいから呪界を見てみたい』と毎日、毎日俺の下に来ては願われるんだ。本当に毎日だぞ。いい加減、どうにかしたくて。連れて行くだけならと思って、一緒に来た。あ~あと、数回こういう事があると思う」
そんなに呪界に来たがる魔族が多いのか?
「目的は何なんだ? 呪界に来て、彼等は何がしたいんだ?」
もしかして、何か食べたいんだろうか?
呪界から戻る魔族達が作る料理は、凄い評判みたいだから。
呪界に来たらもっと色々食べられると考えたのか?
「違います! 我々はお礼を言いたくて、そして一度でいいので呪界王にお会いしたかったんです」
少し離れた所から、俺に向かって魔族の1人が叫ぶ。
というか、彼と俺の間にある10mぐらいの距離はなんなんだ?
本日より「異世界に落された」の新しい章を始めます。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
ただ、11月の中頃まで少し更新が不安定になります。
なるべく頑張りますが、更新が飛んだらすみません。
ほのぼのる500




