150.こんな時間が大切。
魔幸石の話を聞いてから、もう一度集まる約束をしてパネルの通信を切る。
「神国は、大丈夫でしょうか?」
リーダーの言葉に、ポンと彼の頭を撫でる。
「大丈夫だ。創造神がいるから」
アルギリスが襲ってきた時は、不安や恐怖、焦りや怒りで神力を大きく揺らし不安定だった創造神。
でも、今日は完全に落ち着いていた。
そしてこの5日間で、彼は覚悟が出来たようだ。
神国は大きな被害を受けたが、彼は創造神として成長した。
今の創造神なら、多少の事では不安定にならないだろう。
「それは良かったです」
「うん。彼が創造神になってから、立て続けに色々とあって心配したけど、落ち着くところとに落ち着いたな」
かなり心配したけど、良かった。
「そうですね」
まぁ、呪界王の俺が心配する事ではないかもしれないけどね。
執務室を出てリビングに向かう。
途中、廊下の窓から庭と広場を見た。
今日も元気に、子供達と仲間達が特訓をしている姿が見えた。
「……」
「何か、ありましたか?」
リーダーの言葉に、立ち止まっている事に気付く。
「いや、なんでもないよ」
いつもの光景に、何故だろう。
凄くホッとした。
それに首を傾げながら、そっと右手を見る。
今は痛みも無く、普通に動かす事が出来る。
「大丈夫ですか?」
リーダーの言葉に、笑って頷く。
「大丈夫だよ」
ロープや蜘蛛達から、話を聞いたのだろう。
彼等に、痛みに耐えている姿を見られてしまったから。
それと創造神から話を聞いたアイオン神からも、「問題ないのか?」と、会う度に言われる。
というか、この5日間、彼女は毎日欠かさず呪界に来るんだけど、暇なんだろうか?
「夕方、アイオン神が来るそうですよ」
「また?」
ん~、本当に暇なのか?
でも、そんな事はないよな。
被害が出た星の対応に追われているんだから。
「彼等は、心配しているんです」
彼等?
もしかして、アイオン神は神の代表なのか?
「神達が?」
リーダーを見ると、頷かれた。
大変な時なのに、心配を掛けてしまったな。
「そうか」
右手の痛みについて、話をしないと駄目だろうな。
でも……少しだけ待って欲しい。
「少し時間が欲しいかな。原因を調べている最中だから」
「分かりました。皆に伝えておきます」
リーダーの言葉に申し訳ないと思うが、今は無理だ。
「話は終わったのか?」
リビングに入るとコアが傍に来る。
その後ろをチャイが付いて来た。
相変わらず2匹は仲が良いな。
「あぁ、終わったよ」
コアを撫でると、口元がひくひく動くチャイ。
きっと俺の手を止めたいんだろうな。
分かっているのに、コアを撫でる手は止まらない。
ごめんね、チャイ。
君の反応が可愛くて。
「奴は見つかったのか?」
飛びトカゲの言葉に、首を横に振る。
「姿を隠してしまったよ。痕跡も見つからないから、探し出すのは難しいだろうな」
「そうか。神国にいる神獣達に連絡を入れておく。何か気付いた事が合ったら、報告してもらうように」
「ありがとう」
飛びトカゲを見ると、首を傾げて俺を見た。
「どうした?」
飛びトカゲ達は、神国にいる神獣と親しくなって気持ちが揺れたりしないのかな?
「飛びトカゲ達は、神国に戻りたいとは思わないのか?」
きっと向こうの方が仲間は多いし、こっちより気楽に過ごせると思うんだけど。
「いや、全く思わない」
迷いなく即答する飛びトカゲに、少し驚く。
「他の者達も同じ気持ちだ」
「そっか。神国の方が仲間は多いと思ったんだけど」
「主が神国に行くというなら、もちろんついて行く。でも、主は呪界にいる。それなら神国になど、興味はない」
神国に、興味が無いという飛びトカゲ。
そして「当然」とばかりに頷いているコア達に、笑みが浮かぶ。
「えっと。皆、ありがとう。そう思ってくれて嬉しいよ」
あ~、顔がにやけそう。
「「「「「主!」」」」」
広場での特訓が終わったのか、子供達がリビングに駆けこんで来る。
その様子に、笑ってしまう。
「どうしたんだ?」
「今日は、ゆっくり出来るの? この頃、ずっと家にいなかったから」
桜が、少し不安そうに俺を見る。
確かに、数日ぶりにこんなにゆっくりするな。
この5日間、3柱が実際に会った影響が出ていないかと、呪界中を見て回っていた。
家で呪界中を見る事も出来たけど、実際に自分の目で確かめたかったのだ。
「今日はゆっくりするつもりだ」
王達が会った影響は少ないと分かったし、休める時に休んでおかないと。
いつ、アルギリスが動き出すか分からないからな。
「「「「「やった~!」」」」」
俺の言葉に、子供達から歓声が上がる。
そんなに関わっていなかったかな?
「主、こっち。こっち。一緒におやつを食べよう」
太陽に引っ張られるようにウッドデッキへ出ると、テーブルの上にはお茶とお菓子が用意されていた。
さすがリーダー、抜かりがない。
「主、皆でゆっくりお茶をしよう」
「そうだな」
コアの言葉に、椅子に座る。
「んっ?」
いきなり子供達は集まると、なぜかじゃんけんをし始めた。
どうしたんだろう?
「「よっしゃ~!」」
月と紅葉の笑顔に、他の子供達の悔しそうな表情。
何があったのかと首を傾げると、月と紅葉が俺の隣に嬉しそうに座った。
もしかして、俺の隣に座るためにじゃんけんをしたのか?
「主! 今日のお菓子に使った果実は俺達が森から採って来たんだ!」
翼の言葉に、テーブルの上に視線を向ける。
オレンジ色の果実が乗った焼き菓子。
「うまそうだな」
「生だと渋いんだけど、熱を通したら渋みが無くなっておいしくなるんだ」
翼の言葉に、頷いて焼き菓子に手を伸ばす。
「いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
焼き菓子を一口大に切って、食べる。
俺の様子が気になるのか、翼がジッと見てくるので笑ってしまいそうになる。
「あぁ、確かにうまいな」
さっぱりした甘味で、これは何個でも食べられそうだ。
「良かった」
翼の嬉しそうな表情に、笑って2口目を食べる。
やばい。
本当に、俺が好きな味だ。
これだったら、軽く3個か4個は食べられるな。
「お替りをどうぞ」
1個目を食べ終わると、リーダーが2個目を持って来る。
まだ、何も言っていないんだけど。
「ありがとう」
確かに、もう1個は食べたいとは思ったけどさ。
リーダーを見ると、どこか満足そうな雰囲気を出している。
それがおかしくて可愛くて、つい笑ってしまう。
「落ち着くな」
ゆっくりとした時間を過ごすのも、いいものだな。
以前はよくしていたのに、どうして最近は無かったんだろう?
……そうか。
俺も、不安から余裕が無かったのかもしれない。
そのせいで、ゆっくり休憩を取る事が無かったんだ。
これでは、創造神の事を言えないな。
まだアルギリスの事は解決していないから、安心は出来ない。
奴には協力者がいるし。
でも協力者については、創造神が「任せて欲しい」と言った。
記録装置が正常に動き出したから、協力者を割り出すのは出来るはずだと。
まぁ確かに、正常に動き出した記憶装置からは逃れられないだろう。
「主、もう1個いりますか?」
「えっ?」
お皿を見ると空。
考え事をしながら食べたせいで、2個目を無駄にしてしまった。
……3個目?
「いや――」
「材料はまだまだあります」
「お願いします」
リーダーに3個目の焼き出しを貰う。
んっ?
子供達に見られている。
「どうしたんだ?」
俺の言葉に、笑って首を振る子供達。
えっ、何? 何?
足元で寝そべっている飛びトカゲに、視線を向ける。
「皆、心配していたんだよ」
今の言葉は、リーダーからも聞いたな。
皆は、俺に余裕がないと分かっていたのかな?
「そうか、もう大丈夫。ありがとう」
自分の事は、案外分からないものなんだな。
これからは気を付けよう。
子供達や仲間達が、楽しそうに過ごす姿を見る。
やっぱり、こんな時間が大切だよな。
「守れてよかった」
まだ解決はしていないけど、とりあえずは守れたと思う。
神国にもっと被害が出ていたら、呪界や魔界にも影響があっただろうから。
だから今は、この時間を過ごせる事に感謝しよう。
大丈夫。
これからもきっと守れるから。
いつも「異世界に落とされた」を読んで頂きありがとうございます。
本日で、「隣人とは……適度な距離が必要!」の章が終わりとなります。
次の章の開始まで少し時間を頂きますが、次回もどうぞよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




