148.君達だったのか。
のろくろちゃんに誘われるように、神だった者達が呪界に向かった。
その様子を、創造神がジッと見つめている。
「どうしたんだ?」
「彼等の存在を、記録装置は残していなかった。どうしてだ?」
そう言われてもな。
「あの装置は全てを残しているはずなんだ。調べ方が悪かったのか? 確かに歴代の創造神が、装置をいじくっていたけど」
そんな事をしていたのか。
俺が管理している記憶装置を思い出す。
あれは記録装置にもなっているので、だいたいの性能や機能は同じだろう。
だから言える。
そんな事をしている暇があったら、もっとやるべき事があっただろうと。
絶対にな。
「だいたいは解除をしたと思ったんだが、まだ残っているんだろうか?」
解除したのか?
凄いな。
「あの装置には全てが残っているはずだから、そういう事になるんだろうな」
俺が呪界に落ちた頃の、情けない姿まで残っていたからな。
ふふっ。
何もない所に向かって「牛丼」とか「キャベツ」とか真剣に叫んでいる姿を見た時の恥ずかしさと言ったら。
誰もいないと分かっているのに、後ろを確認してしまったからな。
あの記憶を消そうと、俺も少し頑張った。
全く歯が立たなかったけど。
まぁ、その後も色々と恥ずかしい過去を見せられて諦めたけどな。
自分の人生を客観的に見ると、いたたまれなくなるという事は分かった。
分かりたくはなかったけど。
「そうだよな。もう一度、調べてみるよ」
「その方がいいと思う」
「まだ、いる。まいご。まいご」
のろくろちゃんが心配そうに、上を見る。
「迷子になってる者がいるのか。迎えに行った方がいいよな?」
「いいの? だいじょうぶ?」
のろくろちゃんをポンと軽く撫でて頷く。
あっ、手が黒くなった。
「ヒール。あぁ、いいぞ。皆を呪界に連れて行こう」
「わ~い。なかま。いっしょ!」
かなり嬉しいみたいだな。
「だったら、孫蜘蛛達に連絡を入れるよ。近くにいる黒い粒を回収するように」
ロープの言葉に、のろくろちゃんが嬉しそうに飛び回る。
「それでいいみたいだな。頼むよ」
俺の言葉に、親蜘蛛達と話を始めるロープ。
回収方法などの話し合いのようだ。
これで、迷子たちは無事に呪界に来れるだろう。
「生まれる。みんな、うまれる」
のろくろちゃんの言葉に首を傾げる。
今度は何だ?
「のろくろちゃん、何が生まれるんだ?」
「みんな、めいか、かいほう!」
めいか?
まさか、神国で命を生み出している命花の事か?
かいほうは、解き放つ解放でいいのかな?
「神達、みんな、命花を変えた」
あっそうか、闇はどこにでも入れたんだ。
つまり、命を生み出す場所にも自由に出入り出来るんだ。
「神達は、変化させられた命花を危険だと思ったんだ」
「えっ?」
いきなり流暢な話し方に変わったのろくろちゃんを見る。
「えっと、伝言を頼まれたから、この中にいる1人と入れ替わったんだ」
「墓場じゃない場所でも、入れ替わる事が出来るのか?」
のろくろちゃんは、呪いに落ちた子の集合体。
だから、自由に入れ替われる事は知っている。
でもそれが出来るのは、湖がある墓場か俺の家の周辺だけだと思っていた。
「うん。なぜか出来た」
「出来た?」
「主の近くにいる子と入れ替われたらと思ったら、ここにいた」
そんな、簡単にできる事なのか?
世界をまたいでいるんだけど。
もしかしたら、俺の力が増したせいか?
「そうか。それで伝言は誰から?」
「湖にやって来た神達から。皆、主に『ありがとう』と言っていたよ」
「そうか。皆は落ち着いているか?」
「うん。それで皆から記憶も預かったんだ」
記憶?
「命花を歪める魔石があったから、くっついて呪ってやったと言っていた。でも呪いが詰まった魔石をアルギリスの協力者が持って行ったそうだよ。これでは駄目だと、命花を育てる場所全てに呪いを浸透させて誕生を阻止したみたい」
色々と重要なキーワードが聞こえたな。
まずは何を聞くべきだ?
「協力者だと?」
創造神が、凄い勢いでのろくろちゃんに近付く。
「創造神、落ち着け。のろくろちゃんが、怖がっているから」
「あっ、悪い。まさかアルギリスに協力者がいたなんて思わなくて」
まぁ、アルギリスの力は魅力的だろうな。
どこにでも入れて、今回のように攻撃にも使える。
ただ、協力している者はそれほど力を持っていないかもしれない。
俺や創造神がその存在を認めるまで、アルギリスの攻撃が神を傷つける事は無かったのだから。
ただ、声だけは届いていた事が気になるけど。
「その協力者について、神達は何か言っていた?」
「詳しくは分からないって。ただ、アルギリスを崇める団体があるっていっていたよ」
「団体? まさか、アルギリスに心酔していた弟子たちの作った団体が、今も残っているのか?」
アルギリスの死後に、死に追いやった双子を悪者にしようと暗躍した弟子達か。
双子を知る者達に否定されて、上手くいかなかったんだよな。
そんな弟子たちの集まった集団が、今も引き継がれているのか?
もしくは、別の……アルギリスの力を利用するために集まった者達がいる可能性もあるな。
「そこまでは分からないみたい。ごめん」
「いや、ここまで分かっただけでも助かるよ。ありがとう。神達にも『ありがとう』と伝えてもらえるかな?」
「分かった。というか、皆と繋げた状態で話をしているから、聞いているよ」
そういえば、のろくろちゃん達はみんなで意思を共有できると言っていた。
どこまで共有しているのか聞いた事は無いけど、結構色々出来るみたいだな。
「ごめん。疲れたから離れるね」
入れ替わって話すのには、体力が必要なのかな?
「あぁ、ありがとう。ゆっくり休んでくれ」
気になる事は、墓場に戻ってから聞こう。
あの場所なら、神達とも直接話せるかもしれない。
「はなし。おわる?」
「戻ったな」
「ん~?」
目の前を、くるくる回るのろくろちゃんに笑みが浮かぶ。
「ありがとう」
「重要。大切。おっけ!」
最後は違うんじゃないか?
「呪界王というと、不思議な経験を沢山するな」
創造神を見ると、のろくろちゃんを見ていた。
「確かに」
ロープの言葉に、親蜘蛛も頷いている。
「その不思議の中に、ロープや蜘蛛達が含まれていると思うが」
「「えっ!」」
驚くロープと親蜘蛛に笑ってしまう。
あれ?
こんなのんびり話していて良かったっけ?
「駄目だよな」
「何が?」
「アルギリスは、どうなったんだ?」
奴の攻撃は止まった。
でも、まだ何か仕掛けて来る可能性がある……はずなんだけど。
「何も感じない」
創造神の言葉に頷く。
アルギリスが攻撃をしてきた時から感じていた、不穏な気配。
それが、今は全くしない。
「手足をもぎ取られたから、動けないのでは?」
ロープは親蜘蛛との話し合いが終わったのか、傍に来た。
手足?
……あぁ、闇の事か。
彼等を使って色々していたのに、それを俺が横取りしたんだな。
「怨んでいるだろうな」
自由に扱っていた物を、無理矢理取り上げられて。
それに、アルギリスは俺に気付いたはずだ。
「リーダーに、警戒するように言わないと」
アルギリスが、呪界を襲うかもしれない。




