147.逃げろ!
アルギリスから逃げられたのは、半分以下か。
これだと、助けられない者の方が多い。
どうすれば、全ての者に声を届ける事が出来るんだ?
「あの子達、一緒。蜘蛛達と一緒」
のろくろちゃんの言葉に首を傾げる。
あの子達、蜘蛛達……一緒?
蜘蛛達と少しでも一緒にいた事があるという事かな?
「やっぱり、蜘蛛達に動いてもらうしかないのか?」
でもそれでは、アルギリスの攻撃は止められない。
それに、爆発する直前の闇に入ってしまう可能性だってある。
蜘蛛達を、そんな危険な場所に行かせるわけにはいかない。
「蜘蛛達と一緒だと、何が起こるんだ?」
闇に囚われた神達に起こった事が分れば、他の方法が思いつくかもしれない。
「違う力。温かい力。ぽかぽか。ふわふわの力」
力?
のろくろちゃんの言葉は難しいな。
えっと……違う力というのは、アルギリスとは違う蜘蛛達の力という事だよな、たぶん。
その蜘蛛達の力が、ぽかぽかでふわふわで温かいのか?
蜘蛛達の力って、そんな感じだったのか?
「主の力を受けて、変わったんだ」
ロープの言葉に視線を向ける。
「変わった?」
「うん。呪界に住む者は、主の力に影響を受けて変化したんだ」
そうなのか?
全く気付かなかったけど。
「主の力が近くにあった者達は、守る力が異常に強くなったんだ。おそらく闇に囚われた者達は、その力を温かな力だと思ったんだと思う」
仲間達は、守る力が強くなっているんだ。
異常という言葉が、少し気になるけど。
「本当に?」
えっ?
親蜘蛛が、ロープに確認を取ったので少し驚く。
知らなかったのか?
「本当だよ。主と一緒にいる仲間達の力は、俺が初めて会った時と比べるとかなり変わった」
それは、力を制御せず垂れ流している俺のせいなんだろうな。
まさか、仲間の力を変えてしまうとは思わなかった。
「そうか。主と一緒」
親蜘蛛の嬉しそうな言葉に、孫蜘蛛も嬉しいのか前脚を2本上げた。
もしかして、ばんざいか?
ドーーーン。
ドーーーン。
あっ!
少し音が止んでいたのに。
音の発生源が遠いのか、光は見えないが連続して爆発音が届く。
「蜘蛛達の守る力か。俺の方が、その力は強いよな」
それなら囚われている神達に、俺の力を届けた後に声を届けたらどうだ?
力を届けたすぐに、俺の力が影響を及ぼすかは分からない。
でも、ここで何もせずに見ているよりは、いいはずだ。
アルギリスと囚われている神達に、俺の力を。
「という事は、神国全体か?」
俺の力、足りるかな?
すぐに復活すると言っても、少し不安だ。
でも、やるしかないよな。
彼等が逃げたいと思っているなら、手伝いたい。
それに攻撃を止めるには、彼等に協力してもらうしかない。
「主、何をするつもりだ?」
親蜘蛛の不安そうな声に、笑顔を作る。
「大丈夫。きっと成功させる」
アルギリスを探すために、神国全体を回っておいて良かった。
あれのお陰で、神国全体を把握する事が簡単に出来る。
頭の中に浮かぶ、神国。
その全体に、力を流していく。
「「「主!」」」
ロープと蜘蛛達の声が聞こえる。
あとで、怒られるかな。
「呪界王、俺の力を送ります」
創造神の声に、ちょっと驚く。
そうだ。
ここには、創造神がいたんだ。
「ありがとう」
神国は星が多いせいか、必要となる力が大量だ。
俺ですら把握できなかった大量の力を使っても、足りないなんて。
まぁ、すぐに新しい力が作られていくから、たぶん……大丈夫。
「あとすこし」
力は足りそうだけど、力を操るための体力がギリギリかもしれない。
「よしっ。力は、足りたな」
あとは、闇に向かって力を送ればいい。
『闇に囚われている神達に届け。そしてアルギリスから守れ!』
「浄化!」
体内の力が暴走したように、暴れ回るのが分かった。
「ぐっ」
膝をついて体を支える。
やはり神国全体に行き渡らせた力を操るのは、大変だな。
でもここで力を暴走させるわけにはいかない。
暴走している力を、なんとか抑え込んでいく。
「っつ」
右手に激痛が走る。
これまでの痛みとは全く違う激しい痛みに、左手で右手を押さえた。
しばらくすると、力を完全に落ち着かせる事が出来た。
痛みも同時に消えていく。
「はぁ」
んっ?
腕に、誰かの手の温かさを感じる。
地面に座り込み、腕を掴んでいた者に視線を向ける。
「アイオン神?」
「良かった」
あっ、攻撃の音が止んでいる。
成功?
違う、まだだ。
あとは声を届けないと。
「ふ~、ありがとう。あとは――」
「俺がやります」
創造神の声に視線を向けると、体が震えていた。
大量の力を使ったせいで、体が限界なんだろう。
「大丈夫か?」
声を届けるためには、力が必要になる。
今の創造神では、おそらく無理だ。
「全てを掛ければ」
「それは駄目だ。これからの神国に、君は必要だ」
俺の言葉に、眉間に皺を寄せる創造神。
さて、攻撃を再開される前に神達に声を届けよう。
力は既に溜まってるから、問題なし。
体力は……微妙だな。
「だが呪界王も力が……あれ? 力が戻っているのか?」
創造神も気付いたのか、目を見開く。
まぁ、いくら世界の王でもこの戻り方は異常だろうな。
「大丈夫だ」
さて、アルギリス。
お前から神達を解放させて見せる。
おそらく全ての神達は助けられないだろう。
でも1柱でも多く、守ってみせる。
「主、闇が」
ロープの声に視線を向けると、先ほどまで無反応だった闇に変化が起こっていた。
どうやら浄化の力が、闇に囚われた神達に変化を起こしてくれたみたいだ。
「アルギリスから逃げろ!」
力を籠めた声が、神国全体に響き渡る。
溜まった力が急激に減っていく。
「っつ」
激痛ではないが、右手に痛みが走った。
「翔? どうした? どこか、痛いのか?」
アイオン神の不安そうな表情に、首を横に振る。
「声が届いたか心配しているだけだ」
静まり変える神国。
いつもなら、神達や神族達の力が動き回っていたり、何処かから声が聞こえたりして賑やかなのに。
全く音がしない。
「成功したのかな?」
失敗していたら、攻撃が再開されてしまう。
どうだったんだろう?
「主!」
ロープの視線の先。
「「「「「あっ!」」」」」
俺や創造神。
蜘蛛達も、成功したあとの事を考えていなかったな。
目の前に迫る、大量の黒い粒。
成功したようで嬉しいが、ちょっと?
いや、かなり恐ろしい光景が目に入った。
「どうする?」
「創造神に任せるぞ」
「いや、ごめん。さすがに無理だ!」
あははっ、そうだろうな。
本当に、あの大量の黒い粒をどうしようかな?
1つひとつが、神だった者の魂なんだよな。
「どうしたらいいかな?」
彼等を受け入れる場所は、今の神国にあるかな?
アルギリスの事もまだ終わってはいないし、少し距離を開けたいかも。
「こっち、こっち」
「えっ?」
のろくろちゃんの声に視線を向ける。
「僕達、あの場所。一緒に、眠る」
あの場所? 眠る?
のろくろちゃんの眠っている場所?
「もしかして、墓場にある湖の事か?」
「そうそう。疲れてる、休む。一緒にやすむ」
いいかもしれないな。
囚われていた神達は呪いに落ちているから、呪界の方が落ち着けるだろう。
「創造神、彼等は俺の世界に連れて行くよ」
俺の言葉に、神妙に頷く創造神。
「うん。その方が落ち着けると思う」
「ありがとう」
というか、周りを黒い粒に囲まれだしたな。
急ごう。
呪界にある地下神殿。
墓場の空間にある湖。
彼等を送る墓場に意識を向けると、パッと目の前に扉が現れた。
「繋がったのかな?」
扉をそっと開けて確かめる。
「主?」
驚いた妖精の表情に、笑ってしまう。
「見守りありがとう、ちょっと呪いに落ちた神の魂を大量に送るから」
「えっ? えっ?」
不思議そうに、扉の前で飛ぶ妖精に離れるように言うと、扉を大きく開ける。
「こっち。こっち。みんな、こっち」
先頭を、のろくろちゃんが入っていくと、それに続いて黒い粒も扉を通って行く。
「……湖が黒い粒に占領されそうだな」
呪界に戻ったら、確認しないとな。
それにしても、本当に多いな。




