146.届け!
創造神の住む建物から出ると、ロープの前で立ち止まる。
そしてロープや親蜘蛛の周りを見る。
「ロープ。その飛んでいる物は何だ?」
周りを飛び回る、黒い粒。
直径1㎝ぐらいだろうか?
それが……数は分からないが、とにかくいっぱいいる。
そして、小さいのに一つひとつに呪いの気配がする。
「主! この子達! この子達は、闇にいたの」
のろくろちゃんが、興奮した様子で俺の周りを飛び回る。
それに驚きながら、言われた言葉を考える。
闇にいた。
つまり闇の中に……魂を持つ者がいたという事か。
えっでも、闇の中を調べても、魂を感じる事は無かったよな?
魂がいる闇と、いない闇がいるという事だろうか?
「アルギリスの力と溶け合っていたから『そこにいた』のに、気付けなかったみたい」
ロープの説明に首を傾げる。
アルギリスの力と溶け合っていた?
「孫蜘蛛が話しかけた事で、力の中で漂っていた意識が少しずつはっきりしたそうだよ」
「一緒! 一緒だよね。そうそう」
ロープの言葉に、のろくろちゃんが楽しそうに空中で飛び跳ねる。
器用だな。
それと、何が一緒なんだろう?
のろくろちゃん達も、何かと溶け合っていたのか?
「そうか」
とりあえず、孫蜘蛛が頑張ったという事だな。
「んっ?」
闇の中にいたんだよな。
飛び回っている黒い粒を見る。
周りを見渡すと、あちこちに闇が見える。
「ちょっと待て」
今、この空間だけでも闇の数は30個近くある。
それが神国全体だと?
「どれだけの闇があるんだ?」
俺の言葉にロープが首を横に振る。
「分からない。闇の中に魂は無いと思っていたから、調べていない。でも、相当な数だと思う」
そうだろうな。
アルギリスを探している時にも、あちこちで闇を見た。
その数は、本当に凄い物だった。
「あれだけの数が、被害に?」
「主。この状態になってから、話せなくなったけど。彼等は神だったらしい」
「神?」
近くにある闇に手を伸ばす。
あれ?
今までと触れた時の感覚が違う。
前は、掴みどころがない感じだったのに、今は掴めるような感じがする。
「これが孫蜘蛛の起こした変化なのか?」
それだったら凄いな。
でも、闇の中に魂の存在は感じない。
「いるんだよな?」
ロープを見ると頷いている。
魂と意識がアルギリスの力に溶け合っている、という認識でいいのかな?
……怖いな。
「この子達、にげたい。にげる。にげる」
のろくろちゃんが、俺の前に飛んでくる。
「逃げる?」
「そう。うん。怖いやつ、逃げる。逃げれない。でも逃げる」
怖い奴というのは、アルギリスの事だな。
逃げる、逃げれない?
……アルギリスから逃げたいけど、逃げられない状態なのか。
親蜘蛛の周りを、飛び回る黒い粒を見る。
彼等は、アルギリスから逃げ出せた子達。
目の前にある闇を見る。
この中にいる子は?
まだ、意識がはっきりしていない子達はどうなる?
話しかける方法しかないのか?
「変わった。みんな、すこしこっち。みてる」
のろくろちゃんが闇の前でくるくる回る。
こっちを見てる?
ドーーーン。
ドーーーン。
「あっ! また!」
創造神が上空を見上げる。
その視線の先には、光。
アルギリスの攻撃が、また始まったようだ。
「主。アルギリスは闇を使って攻撃をしているんだ」
「闇を?」
つまり神の魂?
「うん。アルギリスは闇に力を送って爆発させている」
「はっ?」
ぐっと両手を握る。
膨れ上がりそうになる力をぐっと押さえる。
「つまり神達の魂を爆発させているという事だな」
「うん」
あ~、心の底から怒りが湧いて来る。
魂までも利用するなんて。
のろくろちゃんを見る。
親蜘蛛の周りと飛び回る黒い粒を見る。
アルギリスから、全員が解放されるべきだ。
今までの苦しみから、憎しみから。
そして全てを諦めてしまった絶望から。
でも、どうすればいい?
考えろ。
きっと方法はある。
「主?!」
「呪界王?!」
ロープと創造神が、戸惑っている様子が分かる。
そうだろうな。
膨れ上がった力が抑えきれず、溢れ出してしまった。
「すまない」
力を制御しながら、彼等を解放する方法が無いか考える。
んっ?
囚われている者達は、呪いに落ちているよな?
親蜘蛛の周りを飛び回っている者達が持つ気配から、それは間違いない。
アルギリスも、呪いに落ちた存在だ。
でも、彼等は別の存在だから彼等が使う呪力は別の力だ。
でも闇からは、1つの呪力しか感じない。
「溶け合っているからか」
これを分ける事が出来たら。
アルギリスから送り込まれる力を、拒絶出来るのでは?
それに、強制的に力を分ける事で、意識がはっきりするかもしれない。
「だって、闇の中に囚われている者とアルギリスは、別々の存在なのだから」
目の前に合った闇が、ぐにゃりと形を変えた。
「えっ?」
ビックリした。
何が起こったんだ?
「主、危険だ」
ロープがスッと俺の前に出る。
それに首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「何が起こるか分からないから」
もしかして、俺を守てくれているのか?
「ロープ。俺は大丈夫だ」
俺の言葉に、チラッと振り返るロープ。
でも、場所を変える気はないようだ。
それなら、
「ありがとう」
変化を続けていた闇が、落ち着く。
そして、暫くすると闇がスーッと消え始める。
「消えた」
創造神の言葉に、周りを見る。
囚われていた者は、本当に消えてしまったんだろうか?
「「「「あっ!」」」」
完全に闇が消えると、同じ場所に黒い粒が現れた。
そして、仲間達の所に飛んで行く。
どうやら、アルギリスの力から逃げ切れたようだ。
でも、どうしてあの子に変化が起こったんだ?
変化が起こる前……俺の言葉か?
俺が「闇の中に囚われている者とアルギリスは、別の存在だ」と言った声が聞こえていたのか?。
目の前にいたから、その可能性は高いか。
周りを見る。
実験をしてみればわかるはずだ。
変化していた闇の様子を見ていたけど、痛がっている様子も、苦しがっている様子も無かった。
だから、きっと実験で苦しい思いをさせる事はない。
「結界」
周辺にある闇と、俺を囲うように結界を張る。
「主?」
不安そうに見つめて来るロープに、笑みが浮かぶ。
「大丈夫」
周りにある闇に声が届くように、息を吸い込む。
そしてアルギリスがやったように、声に力を籠めるように意識する。
「闇の中に囚われている者とアルギリスは、別々の存在だ」
結界内に響く俺の声。
すぐに、闇に変化が訪れた。
「さっきと同じだ」
ロープの声に、ぐにゃりと形を変えた闇を見る。
ただ、形を変えた闇は半分程度。
残りは、特に変化は起こっていない。
「全てに声は、届いていないか」




