145.攻撃。
「創造神?」
ガルアル神は、目の前の光景に戸惑っているようだ。
まぁ、いるはずのない俺がいて、隣には泣きじゃくっている創造神。
目が覚めてこの光景を見たら、誰だってそうなるだろう。
「ガルアル神。体に痛みはあるか?」
「えっ? あっ、そういえば攻撃をされて……あれ? 怪我がない」
ガルアル神が、お腹を押さえて首を傾げる。
そこが、一番酷い怪我だったから気になるのは当然だ。
だって、ちょっと内臓が……いや、思い出す事はない。
「創造神、落ち着け。神力を押さえないと危険だ」
創造神が泣き出した瞬間、大きく揺れた神力。
攻撃を受けている状態で、神国の王が不安定になるのは危険だ。
俺の言葉に、ぐっと息をのむ創造神。
そして、1度深呼吸をした。
ドーーーン。
ドーーーン。
ドーーーン。
攻撃音に、崩れた壁から外を見た。
複数の光が、あちこちに見える。
まだ攻撃は止まっていない。
なんとしてもアルギリスの攻撃を止めないと。
だが、方法が思いつかない。
周りを探っているが、アルギリスの力を捉えられない。
攻撃をしているので、何処かに痕跡があるはずなんだけど。
「悪い。もう、大丈夫だ」
袖で涙をぬぐった創造神は、俺を見て頷く。
まだ少し、神力は揺れているがこれぐらいなら大丈夫だろう。
「オウ魔神が言っていたのを覚えているか? 『居場所がわかっているなら攻撃は出来る』と」
俺の言葉に、神妙に頷く創造神。
「こっちだ」
創造神を先頭に、アルギリスの作った異空間と繋がる場所に向かう。
後ろからガルアル神が、追ってくるのが分かった。
「怪我をして力もかなり失っている。もう少し、休憩した方がいいぞ」
「大丈夫です。俺は創造神を守る第1位の神ですから」
俺の言葉を強く否定するガルアル神。
チラッと振り返ると、鋭い眼をした彼の姿が見えた。
あれは、無謀な事をしそうな雰囲気だな。
ガルアル神を、死なせないように注意しておこう。
創造神には、彼が必要だ。
「あの扉か」
呪界で、この世界を調べている時に見たから知っている。
あれが、アルギリスと繋がる部屋の物だと。
小さく息を吐き出すと、気持ちを引き締める。
バン。
創造神が勢いよく扉を開けると、部屋の中に入っていく。
その後に続いて入ると、大きな空間に出た。
呪界で覗いた時も思ったけど、この寝室はデカすぎる。
「無駄に広いな」
俺の言葉に、創造神が苦笑する。
「俺もそう思う。無駄に広いよなって……まぁ、理由があったんだけどな」
創造神が足元を見る。
そういえば、魔法陣があったんだよな。
あぁだから、ベッドが部屋の中央に置かれているのか。
「あそこだ」
創造神が指す天井を見るが、見た目だけでは分からない。
力でそっと天井に触れると、感じる小さな違和感。
その違和感を覚える場所に、ゆっくりと力を送り込む。
「呪界王? 力が」
俺の力を感じたのか、創造神が不思議そうに天井を見る。
「アルギリスの作った異空間に力を送って、そのまま攻撃をしようと思う」
「俺が、やった方がいいのでは?」
創造神の言葉に首を横に振る。
「いや、俺の方が適任だ」
アルギリスは、神に固執している。
だから創造神の力が異空間に入り込んだら、気付かれるかもしれない。
でも俺なら大丈夫。
前に入り込んだ時も、気付かれなかったし。
あれ?
前の時は、神力を使わなかったっけ?
まぁ、今は気にしてもしょうがない。
集中しよう。
「なぁ、呪界王。アルギリスの作った異空間には、どうやって力を送り込んでいるんだ?」
「細い管の中に、細くした力を流していく感じだ。出来るだろう?」
「えっ?」
驚いた様子の創造神。
何か、おかしな事を言ったかな?
「フィオ神から聞いている。呪界王は、力のコントロールが凄いと。本当に、その通りだな」
コントロールが凄い?
ガルアル神の言葉に、意味が分からない。
俺が今している事は、細い管に細い糸を通しているだけだ。
イメージさえしっかり出来てしまえば、難しい事は何もない。
「力が、あんなに細くなるなんて」
創造神を見ると、ジッと天井を見ていた。
おそらく俺の細く長くなった力が、天井のある場所に飲み込まれる様子を見ているのだろう。
「力をただ細くするだけなら、少し訓練すれば出来るようになるはずだ」
動かすなら、また新しいイメージを作る必要があるけど、力を細くするだけなら難しくはない。
そう思うが、創造神が慌てた様子で首を横に振っている。
どうやら、そうでもないらしい。
「そうか」
そんなに難しいかな?
ゆっくりゆっくり伸ばしていくイメージを作るだけなんだけどな。
「届いた」
アルギリスの作った異空間に出た事が、送り込んだ力から感じられた。
「攻撃は……」
異空間に出た俺の力は、周りにある呪力を感じている。
だから攻撃は、浄化で大丈夫だよな?
少し不安だけど、とりあえず一度挑戦してみよう。
異空間に出た力を一ヵ所に集め、袋のように膨らませるイメージを作る。
その膨らんだ中に、濃縮した俺の力を送り込む。
地下の墓場にいた呪い達を、効率よく浄化出来ないか色々試行錯誤した時に生まれたイメージなんだよな。
かなり乱暴は浄化になりそうだったから使わないかったけど、アルギリスになら使ってもいいだろう。
どんどん袋を膨らませる。
かなり、大きく膨らんだ袋をイメージ出来たが、アルギリスの作った異空間で上手くいくのかは分からない。
でも、自分の力を信じるしかないな。
「浄化をした場合、反撃される可能性がある」
俺の言葉に、全員が壁の外に視線を向ける。
アルギリスからの攻撃による光が、四方八方で見える。
ただ、この空間い入ってからは攻撃音が聞こえなくなった。
全く聞こえないのは、ちょっと凄い。
「今さらだな」
創造神とガルアル神が肩を竦める。
確かに、今更だったな。
濃縮した力を一気に外に向かって爆発させるイメージを作る。
そして、
「浄化」
…………。
何も起こらない?
失敗したのか?
「攻撃が止んだ」
創造神の言葉に、壁の外を見る。
確かに、見える範囲で光っている場所は無い。
ガタガタガタガタガタガタガタ。
「揺れて……違う?」
地面が揺れたのかと思ったけど、揺れていない。
でも、何処かが揺れているし、体がそれを感じている。
バキバキバキ。
上からの音に視線を向けると、天井に大きなヒビが入っていた。
「出よう。此処は、あぶない」
ガルアル神の言葉に、扉へと向かう。
廊下に出て振り返ると、天井からドロッとした黒い物体が落ちてきた。
「なんだ、あれ」
ガルアル神が気持ち悪そうに、黒い物体を見る。
「分からないが、気持ち悪いな」
そっと力で探ると、知っている力を感じた。
「あれは、闇だ」
あの黒い物体からは、神国のあちこちにある闇と同じ力を感じる。
見た目がかなり不気味になっているが。
黒い物体は、床に落ち切るとゆっくりと移動を始めた。
「あれが、呪界王の言っていた闇か?」
創造神が戸惑った様子で、床をゆっくりと這う黒い物体を指す。
「見た目は全く違うが、力は同じようだ。うわっ、こっちに来る。行こう」
扉を閉め、外に向かって走り出す。
「攻撃音がしないな」
ガルアル神の言う通り、攻撃の音は今も無い。
つまり、浄化が効いたと言えるのだろうか?
「主!」
この声は。
「ロープ? 無事だったか」
返事がなかったから心配だった。
走って来る姿を見てほっとする。
ロープと一緒に、親蜘蛛とのろくろちゃん。
それと……親蜘蛛の上に、孫蜘蛛?
あと……なんかいっぱい、不思議な物を連れてきたんだけど!




