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異世界に落とされた…  作者: ほのぼのる500
隣人とは……適度な距離が必要!
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144.ここにいた。

―闇に閉じ込められた者―


こっちに向かって話しかける2匹。

いや、1匹に無数の声が聞こえるから……何匹だろう?

見たこともない存在は、どちらも黒かった。


無音の世界が崩れたのは、少し前。

奴の力に囚われ漂っていただけの俺に、なぜか音が届いた。

人生を奪われ、体を奪われ、意思も奪われ。

ただただ、ここで漂っていた。


この場所は、奴の……奴て誰だっけ?

まぁ、いいか

ここに囚われてから……何があったかな?


ん~思い出せない。


ずっと暗闇と無音の世界にいた。

消えてしまえば終われるのに、それさえ出来ない場所。

ただただ、ずっと、ずっと、ここにいる。

もう、何かを感じる事はない。

ただずっと、漂っているだけだと思った。

永遠という地獄で。


なのに、音が届いた。

急速に何かが出来上がっていく。

何が?

なんだろう?


ハッとする。

あれ?


「おはよう」


「おはようございます」


また音だ。

音は複数あったんだ。


あれ、久しぶりに何かが見える。

でも、ぼやけているからそれが何かは、分からない。

動いている。

あれは、何だろう?


ふつふつと、変化が起こっている。

その度に、音はどんどん鮮明になっていく。


「今日も見張りなんだ。暇だから、今日も俺達と話をしような」


「話と言っても一方的にだよね」


「そうそう。虚しい」


「虚しい」


そうか、音は1つじゃないんだ。

沢山聞こえる。


「そこは気にしないの! 今日の、のろくろちゃんは俺に冷たい!」


「そんな事ないよ~」


「無いない」


「周りから見たら、孫蜘蛛は独り言をぶつぶつ」


「きゃ~怖い~」


「そうならないために、のろくろちゃんがいるんでしょ?」


「「「「「巻き込むの反対!」」」」」


「残念。もう手遅れだよ」


楽しそうな音。

あぁ、そうだ。

これは、楽しそうな音だ。


何故だろう、俺も楽しい。


「「「「「おはよう」」」」」


『おは、よう』


そう、これは挨拶。

声は聞こえるけど、俺の声は届かないみたい。

残念だな。


あっ、今日は昨日より見える。

そして、見え始めた姿は……生き物だよね?

真っ黒な2匹。


あっ、また来た。

ん~、昨日の子ともう1匹は同じ姿みたいだけど違うのかな?

まだぼやけていて、はっきり分からない。


「おはよう」


真っ黒い姿をした明るい声の持ち主。

この子が、毎日来てくれる子だ。


「おっはよ~」


「おはようです」


「今日も神国はどんより~」


「闇の中はゆっくり~」


そして、複数の音を持つ子。

今日の音も、昨日とは違う。

だからきっと毎日違う子が来てる。

見えてる姿は、一緒なんだけどな。


こっちに話しかけて来る子達。

聞こえないと分かっているけど、つい応えてしまう。

その度に、悲しくなる。

でも、いいや。

ここにいる事を、知ってくれているから。


「「おはよう」」


あれ?

今日は2匹分の音?


「おは……よ」


あれ?

んっ?

なんだかいつもと違う。

声が出にくい。

えっ、声?


そうだ、音ではなく声だ。


「あ~! 返事があった! やっぱりいた! ほら、のろくろちゃん。ここにいたんだ!」


喜んでいる。

どうして?


あれ?

今「返事があった」と言った?

……もしかして、俺の声が届いた?


「本当だ」


「いった!」


「いった!」


声が届くたびに、ふつふつ、ふつふつ。

視界がはっきりとしてくる。

そして、ふわふわ漂っていた俺が、形作られていく。


そして、はっきりと見えた2匹の姿。

……やっぱり真っ黒だ。


「聞こえてる?」


聞こえてはいる。

でも、なぜか眠くなってきた。


「ね、い」


漂っていた時は、寝られなかったんだ。

ねむい。


「昨日のあの声は幻聴だったのか!」


大音量の声に、ハッとする。

あれ?

ここは?

あぁ、そうだ。


「返事……しない、と」


「あっ、聞こえた! のろくろちゃんも聞こえる? 俺の耳が、おかしくなったわけじゃないよね?」


「大丈夫、僕達にも聞こえているから。聞こえた~」


なんだか喜んでいる。

それなら、俺も喜ぶ。


「返事をしてくれてありがとう」


「あり、が、と」


途切れ、途切れの声。

きっと聞きにくい。

でも、俺に向かって嬉しいという気持ちが伝わってくる。

あぁ、これは温かい。


そういえば、他の子達はどうしたんだろう?

奴、奴?

名前は知らない。

でも俺を買った奴から、一緒に酷い目にあった仲間達。

昔は、声が届いていたのに、今は全く聞こえない。


昔のように話しかけたら、届くかな?

無駄かな?

いや、やってみよう


「あっ! いたく、に」


そうだ。

こうやって何かしようとすると、痛みに襲われたんだ。

思うだけも、駄目だった。


……あれ?

痛みに襲われない?


「どこか痛いの? ちょっと待ってね。ヒール」


あっ、これは……ふんわりした温かな風に包まれているみたい。

奴より弱いけど、強い力。

力は痛いと思っていたけど、優しい力。


「あり、が、とう」


「効いてくれて良かった。また痛くなったら言ってね。ヒールで何度だって痛みを無くすから」


痛くないけど、痛いと言いたくなる。

でも駄目だよね。


……仲間達にも教えたいな。

この温かさを。


近くにいないかな?

とりあえず、周りに声を届けてみよう。

だって、痛みに襲われないし。


やるぞ! 


あれ?

何かに触った。

これは、俺を捉えている奴の力か?


というか、俺の力が少しずつ戻ってきているみたいだ。

全てを奴に奪われるはずなのに。


それに触れるの変だ。

奴の力は、強いが誰にも触れなかったのに。

何かが、奴の存在を変えた?


……んっ、何かが俺の中に、これは記憶?


俺は……力の弱い神だった。

あまりに力が弱すぎたから、親に売られた。

そうだ、売られた先に奴がいたんだ。

うん、なんだか色々思い出して来た。


あれから、どれくらいの時間が経ったんだろう?

奴の行った実験のせいで、俺達の魂は消える事が出来なくなった。

原因は分からない。

でも、この世界では消える事も生まれ変わる事も出来ない。


あぁ、そうだ。

永久に奴の力になるために、色々されたせいだ。

……思い出したくなかったな。


「大丈夫? なんだか、悲しい気持ちが伝わって来たけど」


「だいじょう、ぶ」


また少し、声が出やすくなった。

いろいろ思い出すより、話しやすくなりたいな。

そっちの方が、嬉しいのに。


「それならいいけど、無理しないでね」


「ありがと、う」


嫌な事を思い出すかもしれないけど、仲間達に声を届けよう。

だって、彼等と一緒に祈ったから。

いつかきっと、奴から逃げ出すと。


周りにいるかつての仲間達に、声よ届け。


『おはよう』


何度も、何度も繰り返す。

やっぱり駄目なのかな?

もしかしたら、消えた?

感じたのは、気のせい?


ふわっ。


あっ、これは。

奴の力から伝わる、仲間の微かな気配。

やっぱり、消えられなかったんだね。


『……』


仲間が震えている。

でも、感じて。

今までとは、何かが変わったから。


『逃げられるかもしれない』


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