143.神って!
―ロープ視点―
アルギリスの攻撃で、神がとうとう怪我を負った。
失った腕はすぐに復活させたけど、神達の受けた衝撃は大きいみたい。
蜘蛛達が言葉を掛けているが、落ち着くにはもう少し時間がかかりそうだ。
それにしても、神達を見て思うんだけどメンタルが弱い。
弱すぎる!
これしきの攻撃で、身がすくんで動けなくなるなんて!
俺達は、神達のせいで一度主を失いそうになった。
でも、あの時皆はひたすら出来る事をした。
そのお陰で、主を失わずにすんだ。
それが神達ときたら、たかが腕1本。
そうたった1本の腕を失っただけで、怪我を負った者は倒れるし!
周りにいた神達は、恐怖で動けなくなるし!
駆けつけてくれた蜘蛛達は、そんな神達の様子に引いていたからな。
まぁ、すぐ結界に治療にと動き回ってくれたけど。
今まで神達は、攻撃する側だった。
神国に害する者や世界は、攻撃してもいい。
いや、攻撃して滅ぼすべきだと思っていた。
それが彼等の当たり前。
だから、攻撃される側になる事は一切考えていなかった。
なぜなら神達は、特別な存在だから。
根拠も無いのに、彼等は自分達が「特別な存在」だと思い込んでいる。
特別な存在だから、攻撃などされる訳がないと。
「ロープ、全ての蜘蛛達から連絡がきた。怪我を負った者はいない。すぐに結界を張って対応してくれたようだ」
親蜘蛛さんの言葉にホッとする。
怪我を負ったなんて事になったら、主にどう説明したらいいのか。
怒られる事はない。
それは、絶対に。
でも悲しむ。
だから、誰も怪我をしないように気を付けないと。
「ロープ。我々の仲間達は、主を悲しませるような事はしないから大丈夫だ」
親蜘蛛さんを見ると、ポンポンと前脚で腕を軽く叩かれた。
「そうだな。蜘蛛達が、主を悲しませるような事などするわけが無いな」
さて、攻撃は止まっている。
このまま、終わるのか。
それとも、何かを準備しているのか。
「攻撃は止まったけど、気を緩めないように――」
ドドドドーン。
ドーン。
ドドドーン。
「えっ!」
アルギリスの巨大な力が、あちこちで爆発を起こし始めた。
まさか、こんなに早く攻撃を仕掛けて来るとは!
それに、攻撃場所が多い。
「被害の確認を!」
親蜘蛛さんが、各所に散っている蜘蛛達に連絡を入れる。
数秒後には徐々に返答が集まりだした。
でも、攻撃されているからなのか遅い場所もある。
帰って来ない返答に、不安がつのる。
蜘蛛達に、何かが起こったのかもしれない。
「連絡が取れるだけでは、不十分だったな」
神国全体が、一瞬で見られるようになればいいのに!
「あれ?」
視界がぶれ、何かの映像が空中に浮かんだ。
「これって……神国か?」
目の前に現れた映像に唖然とする。
「えっ?」
後ろで何かが光ったので振り返ると、そこにも映像が流れていた。
そして気付けば左右にも。
確かに神国全体が見たいとは思ったけど、まさか出来るとは。
ドドドドドーン
アルギリスの力が、近くで爆発した。
結界を何重にも張っていたので問題はないが、音と衝撃は抑えられなかったみたいだ。
「結界は有効のようだな。えっと、攻撃されている場所は」
なぜ、こんな映像が浮かんだのかはあと回し。
今は、使える物は何でも使う。
全部で21ヵ所。
あれ?
なんだろう?
黒くなっている箇所がある。
「ロープ! 数は不明だけど星が無くなったと報告が来た」
「星が?」
ハッとして目の前にある画像を見る。
黒くなっている場所は3ヵ所。
もしかして星が消えた場所か?
ドドドドドーーーン。
音と同時に、映像の中に赤い場所が増える。
攻撃された箇所は、全部で33ヵ所。
「本当にあちこちに攻撃をしてくるな。何か法則があるわけでもなさそうだし」
この場合は、攻撃される場所を特定するのは難しい。
「凄い。いつ、こんな物を出せるようになったんだ?」
親蜘蛛が隣に来て、映像を見る。
「どうしてか、出来た」
「……主の力が増しているのかな?」
「えっ?」
主の力?
そういえば、数時間前より主の力を強く感じる。
「確かに」
「さすが主だな」
親蜘蛛の言葉に頷く。
ドドン。
「主の事は、後で考えよう。今はアルギリスの攻撃をどうにかしないと」
「あぁ、そうだな」
どうすればいい?
攻撃先が分れば、攻撃前に結界も張れるが。
「ロープ! ごめん! 連絡が遅くなった! 闇だよ! 闇!」
無理矢理通信を繋いだ孫蜘蛛から、大音量で声が届く。
とっさに耳を防ぐ。
「えっと、闇がどうした?」
「闇にアルギリスの力が急激に集まって、爆発しているんだ!」
「「えっ?」」
マジで?
今俺達は、闇の中にいるんだけど?
つまり、ここがいつ爆発するか分からないという事か?
「どうしてそれが分かったんだ?」
親蜘蛛の慌てた様子に、不思議そうな孫蜘蛛の声が届く。
「闇が教えてくれた」
「えっ、闇が?」
いや、闇はただそこにあるだけで、話せないぞ。
もしかして話す闇があったのか?
報告は来ていないけど。
あぁ、だから報告が遅くなったと言ったのか。
「見張りが暇だったから、のろくろちゃんと一緒に闇に話しかけていたんだ」
「闇に? 答えはあったのか?」
「全く無かったよ。でも闇とのろくろちゃんは似ていたから、いつかは応えてくれると思ったんだ。たぶん感じられないだけで、そこに魂はあると思ったし」
なるほど。
「ずっと話しかけ続けたら、反応が返ってくるようになって」
「それは、凄いな」
一体、どれだけ話しかけたんだ?
「4日目にとうとう返事みたいなものが返って来たんだ」
4日も話し続けたのか?
「話しかければ、話しかけるほど反応が大きくなって。今日の朝からは、途切れ途切れだけど話す事が出来るようになったんだ! それで分かったんだよ。アルギリスが闇を使って神国を攻撃している事に」
「そうか、分かった。とりあえず、俺達は闇から出るよ」
「どうして?」
蜘蛛の不思議そうな声に、首を傾げる。
「闇を利用しているのだろう? いつ、ここが爆発するか」
「あっ、大丈夫。俺の友人になった『やみっち』が、仲間がお邪魔している闇に伝えてくれたから」
「……」
まずは何を聞くべきだろう?
「やみっち」というのは、話す事が出来るようになった闇の名前かな?
いや、これはどちらかというと後回しにしていい質問だ。
今は。、安全なのか確かめないと。
「大丈夫とは、俺のいる闇は爆発しないって事?」
「うん。アルギリスが送って来る力を拒絶してくれたみたい。だからロープのいる闇も、いつもと変わらないでしょう?」
確かにいつも通りだな。
「そうか。ありがとう」
んっ?
呼ばれているけど、誰だ?
「……主かな?」
そうだ。
今の事を、主に知らせないと。




