141.誰が? 俺が?
花の問題は後回しにした。
今一番の問題は、神国だけとはいえ攻撃されている事だ。
神が傷つけられた事を考えると、いずれ呪界や魔界だって攻撃が効いてくるかもしれない。
だから、アルギリスを止める方法。
もしくは、倒す方法を考えないと。
そういえば、アルギリスの攻撃は止まっているみたいだな。
神国内にあるアルギリスの力を探る。
あちこちから奴の力を感じる。
でも、どれも弱いので攻撃をしているのではなく、攻撃の後に残った残骸だろう。
「攻撃は止んだと思っていいのか? それとも次の準備中か?」
うわっ、嫌な考えだな。
でも、次の攻撃を考えておくべきだよな。
「神国を、どうやって守ればいいんだ?」
結界を張る?
でもアルギリスは、神国と繋がった異空間にいる。
さっきは結界を張ったけど、よく考えるとあれはほとんど役に立たない。
俺が異空間から家に戻る時、呪界内なら何処でも行く事が出来る。
アルギリスも、おそらく同じ事が出来るはずだ。
闇がどこにでも現れるのが、いい証拠だ。
もっと別の方法で神国を、そしてそこに住む者達を守らないと。
『呪界王』
この声は、オウ魔界王だな。
『どうした?』
パネルを使って会う事に慣れていたので、声だけというのは少し違和感があるな。
できれば、実際に会って話してみたい。
でも王は、別の世界には行けない。
行った世界に、少なからず影響を及ぼしてしまうからな。
影響を与えない場所が、あればいいんだけど。
例えば、それぞれの世界に繋がっている異空間とか、か?
「そうだ。神国、魔界、呪界の中心に異空間を作って、オウ魔界王や創造神と会えばいいかもしれないな」
オウ魔界王と創造神、そして俺が異空間の中で会っている風景を思い浮かべる。
結構いい感じにイメージが出来たな。
これが実現出来たら、役立つだろうな。
「あれ?」
「なんだ?」
「えっ?」
なんでだろう。
創造神もオウ魔界王も驚いた表情をしている。
それが、凄く現実感があって。
んっ? 現実?
ピシッ。
「いたっ!」
指先に激痛が走った。
慌てて指先を見るが、傷も無ければ赤くもなっていない。
ただ、痛みが走っただけだ。
「大丈夫か?」
オウ魔界王の言葉に、視線を向ける。
心配そうに俺を見るオウ魔界王は、傍に来ると指に触れた。
指先に、オウ魔界王の温かさを感じる。
「……温かい? というか触った?」
指先に触れられた感覚がある。
「赤くはなっていないな」
「あぁ、大丈夫だ。ありがとう」
オウ魔界王をジッと見る。
間違いなく目の前にいるよな。
というか、ここは何処だ?
周りを見る。
「なんだ、ここ」
真っ白な広い空間。
そこにオウ魔界王と創造神、そして俺。
あまりにもおかしい状況に呆然とする。
「ここは、異空間だよな?」
創造神の言葉に首を傾げる。
異空間?
そういえば、この気配とこの真っ白な世界。
確かに、何も置いていない異空間だ。
「呪界王が、作った空間だろう?」
オウ魔界王の言葉に、驚いた表情で彼を見る。
「知らないけど」
「「えっ?」」
俺の言葉に、同時で驚く2柱。
もしかして、この空間を作ったのは俺だと思ったのか?
確かに、作れたらとは思ったけど、あれ?
イメージを作って実現できたらとは思った。
……もしかして、俺か作ったのか?
「とりあえずゆっくり話たいから、椅子が欲しいな」
創造神の言葉に、オウ魔界王が頷く。
もしかして、俺に言っているのだろうか?
本当に俺がつっくた空間だとしたら。
3人がそれぞれ座る椅子をイメージする。
何となくウッドデッキにある、ゆったり座れる椅子を思い出した。
「「あっ」」
2柱の言葉と視線に、後ろを振り返る。
そこには、ウッドデッキで見かける椅子が3脚出現していた。
「テーブルも」
椅子とおそろいのテーブルを思い出すと、パッと空間にテーブルが現れた。
「やっぱりこの空間は、呪界王が作ったんだな」
創造神の言葉に、戸惑いながら頷く。
まさか、出来ればいいと思っただけで異空間を作れるとは思わなかった。
しかも、しっかり2柱を招くことが出来ているし。
俺、凄いな。
「呪界王は、俺達を遥かにしのぐ力を持っていたんだな」
創造神の言葉に、胸に手を置く。
おかしい。
少し前までは、ここまでの力は無かったはずだ。
それなのに、数時間で力が増している。
どういう事だ?
「そうだな。でも前にパネルで会った時は、ここまでの力は感じなかったけど。パネルを通してだから気付かなかったのか?」
「いや。前に会った時は、こんなに力は無かったよ」
どうしてこんなに力が増しているんだ?
しかも、数時間の間に。
何があった?
ここ数時間は……アルギリスに襲われただけだよな?
他には何も無かったと思うけど。
「呪界王。大丈夫か?」
オウ魔界王の言葉に、苦笑する。
「あぁ、無意識で異空間を作ってしまったから、驚いていたんだ」
「無意識?」
俺の言葉に、目を見開くオウ魔界王。
あれっ、失敗した?
「あぁ、欲しいと願ったけど実現できるとは思っていなかったから」
「そうか。それにしても、俺達を連れて来るとか凄いよな」
オウ魔界王の言葉に、創造神が頷く。
「あぁ、俺達をここに連れて来たという事は、神国や魔界に住む者達からの支持が多くなっているからだよな。呪界だけの力では、他の2つの世界に干渉は出来ないから」
その通りだ。
それぞれに住む世界の者達から多く支持されないと、その世界に強く干渉できない。
俺が神国でロープを探す事が出来るのも、そして神国を見通す事が出来るようになったのも、神国に住む者達から俺に対して、かなり多くの支持があったからだ。
「そうだな」
創造神から、尊敬のまなざしを貰うけど駄目だぞ。
俺が貰った支持は、本当は創造神に向けられないといけないものなんだから。
「あっ、そういえば」
オウ魔界王を見ると、首を傾げられた。
「さっき、俺を呼んだよな? ここに連れてくる前」
オウ魔界王の声だけだったから、姿を見たいと思ったんだよな。
まさか、こんな事を起こせるとは思わなかったから。
それにしても強く願った分けでもないのに、異空間を作ってしまった。
どうしてだ?
あの時、言葉に力を籠めた記憶は無い。
つまり、本当に些細な切っ掛けて異空間を作ってしまっている。
「アルギリスが攻撃してきたら、その力を魔界に送ってくれないかと思って声を掛けたんだ」
「「はっ?」」
おぉ、創造神と声が揃った。
というか、オウ魔界王からおかしな言葉を聞いたような気がする。
「なぜだ? 魔神達や魔族達は賛成しているのか?」
俺の言葉に、頷くオウ魔界王。
まさか、周りの者が賛成しているとは思わなかった。
「アルギリスの攻撃は、魔界にある大木に花を咲かせ、新たな芽を誕生させた」
新しい芽まで生まれたのか。
「その芽を成長させるには、アルギリスからの攻撃が必要なんだ」
攻撃というか、アルギリスの力だな。
「アルギリスの力は、いったい何なんだろうな」
俺の言葉に、オウ魔界王も創造神も首を横に振る。
呪力だと認めたアルギリスの力。
まだ、分からない部分が多いな。




