123.不安しかない。
―第2位カシュリア神視点―
呪界に属している魔幸石のロープ。
の、人型。
……ややこしい。
というか、魔幸石と意思疎通できるという話は聞いていたが、自由に動き回るなんて聞いていない。
しかも、人型?
いったい、呪界という世界では何が起こっているんだ?
「どうしたの?」
人型のロープの視線に、ジワリと汗がにじむ。
私は、目の前にいる者との力量を自然と比べてしまう癖がある。
まぁ、数値で出るわけでは無いので、なんとなく私より弱いもしくは強いと分かる程度だけど。
それでも、相手の強さがある程度分かるのはとても役立つ。
部下をどれくらい動かせばいいか、判断出来るからな。
「いや、大丈夫だ」
ぼんやり分かる程度のはずなのに、このロープには絶対に勝てないと理解した。
おそらく恐怖を感じるほど、力の差が大きいのだ。
「そう? 体調が悪いなら言ってね。神国から呪界に行く時に、少し体に負荷がかかるから。体調が悪い時は止めた方がいいんだ」
「あぁ、心配してくれてありがとう。でも、体調が悪いわけではないから」
「そうなの?」
「うん。ちょっと緊張してしまって」
いつも通りの話し方でいいと言われたのも、不安なんだよな。
「あぁ、主は優しいから大丈夫だよ」
いや、呪界王ではなく目の前にいる君が原因なんだけど。
ははっ、そんな事は言えないな。
「そうか。それは安心だ」
ロープがフィオ神に呼ばれ離れて行く。
それを見送って、ホッと息を吐く。
「どうしたんだ?」
兄ガルアル神の言葉に、つい睨みを返してしまう。
それにちょっとたじろくガルアル神。
「えっ、何? 俺が何かした?」
驚いた表情をするガルアル神に、溜め息が出る。
「いや、してない」
私の返答に、少し不満な表情をするガルアル神。
きっと理不尽だと思っているんだろうな。
というか、どうしてロープのあの秘めた力に誰も気付かないんだ?
「本当にどうしたんだ?」
ずっと一緒にいるガルアル神には、私がいつもと違う事がバレたみたいだ。
でも、その原因までは分からないんだな。
さて、どうしよう。
ロープは今、神国の為に動いてくれている。
それなのに、「彼には隠している力があり、その力は脅威だ」なんて言わない方がいいよな。
「話しづらいなら、言わなくていい。でも、話したくなったらいつでもいいから話せよ」
ガルアル神の言葉に、笑みが浮かぶ。
この辺りが、兄なんだよな。
「ありがとう。いつか、話すよ」
いや、話す時なんて来るのか?
……考えるのを止めよう。
今は、必要ではない。
「それより……大丈夫だよな?」
ガルアル神の言葉に、これからの事を思い出し気分が落ち込んでいく。
大丈夫だと信じたい。
フィオ神もアイオン神も、気にする必要は無いと言った。
呪神は穏やかだから、大丈夫だとも。
でも、全く成果が無い状態で呪界王に会う事になるなんて。
「どうかな?」
あぁ、本当に最悪だ。
魔界でオウ魔界王が「声」について調べると話を聞いた時は、よく理解していなかった。
というか、神国は関係ないと思った。
だから、何故そんな話を創造神が私やガルアル神にするのか、分からなかった。
でも話を聞いて行くと、嫌な予感を覚え創造神の前なのに頭を抱えてしまった。
もう何度目になるか分からないが、また神が魔界に迷惑を掛けている可能性があるのだ。
魔神達が神国を攻めてきても、自業自得としか言いようがない。
まぁあの時はまだ、本当に神が関わっているのか不明だったけど。
そして嫌な予感は当たった。
オウ魔界王が結界の外に出た日。
ロープが創造神の住む建物に駆けこんで来た。
そして、この建物から「声」に関連する力が出ていると叫んだ。
浮かんだ言葉は「やっぱり」だった。
すぐに、建物内にいる神や神族が集められ調べられたが、ロープが捉えた力とは関わりがなかった。
次に創造神や上位の神達が調べられたが、こちらも無関係だった。
神や神族が関係ないとなると、残りは建物だ。
創造神の許可を貰い、徹底的に調べた。
が、何もわからなかった。
そもそも、声に関連する力を私は捉えられなかった。
だから、真っ黒な結界で守られた蜘蛛達に協力をしてもらったんだが。
それも正直、ありえない事だと感じた。
蜘蛛達は、呪界王の配下。
まさか神国を自由に動き回っているなんて、話を聞いた私もガルアル神も唖然としてしまった。
まぁ神国に対して彼等が何かするつもりは無いらしいので、問題は無い……わけないよな。
神国の事なのに、呪界の者に手助けされているなんて。
それと、気になる事がある。
呪界の者が協力している話を聞いている時に、神族達の反応がおかしかった。
普通は驚くだろう。
神国中を姿を隠しながら、動き回っているのだから。
それなのに、話を聞きながら頷いている神族がいたのだ。
あの反応は何だったんだ?
頷く行為はなぜ起こるんだろう?
呪界の者達の協力を肯定しているから?
部屋の隅にいる神族達を見る。
彼等はフィオ神が信用し、創造神の周りに置いた者達だ。
だから、問題ないと思うが。
「そろそろ、行こうか」
フィオ神の言葉に、ドキッと心臓が鳴る。
こんなに緊張したのは、いつぶりだろう?
もう、本当に嫌だ。
「落ち着け」
ガルアル神の言葉に、息を吐き出す。
チラッと隣を見ると、背中をポンと軽く叩かれた。
「フィオ神やアイオン神が大丈夫と言う以上は、生きては帰って来られるよ」
「おい」
全く不安が解消されない言葉なんだけど?
「ははっ。冗談だ」
「はぁ。ありえない」
これから呪界王に会う私に冗談?
本当にありえない。
「カシュリア神。大丈夫ですか?」
私の補佐をしてくれている神族のアリフィルが、心配そうに私を見る。
それに小さく笑って頷く。
部下を不安にさせるのは駄目だからな。
「大丈夫だ。ちょっと……」
失敗した。
不安に思っていると言いそうになった。
「カシュリア神。呪界王は、とても優しい方ですから、恐れる必要は全くないですよ。くだらない話にも付き合ってくれますし」
んっ?
アリフィルを見る。
「あの方は、暴力を好みません。とても穏やかな空気を纏っているので、傍に寄るとホッと落ちつくんですよ」
「そうか」
いや、おかしいよな。
うん、どう考えてもおかしい。
どうして俺の補佐をしているアリフィルが、呪界王の事をそんなに詳しく言えるんだ?
今の話し方、まるで個人的に、呪界王を知っている……のか?
「えっと、アリフィル」
「はい?」
「どうして、そんな事を知っているんだ?」
「……あっ」
アリフィルが少し焦った表情をした。
そして、困ったように笑う。
「アリフィルは、主と少し関わった事があるんだよね」
不意に聞こえた声に、視線を向けるとロープが隣に立っていた。
全く気付かなかった。
「それは、どういう関わりですか? 呪界の者に協力してもらっているという話に驚いていない神族がいました。彼等も、呪界王と関わった事があるんですか?」
緊張から言葉が硬くなったせいで、責めているような感じになってしまった。
でも今は、これでいいだろう。
「うん。その通り」
堂々と肯定するロープに眉間に皺が寄る。
「なぜ、関わりが?」
「神が、神族を疎かにするからだよ。誰でも鬱憤が溜まると吐き出す場所が必要になるだろう?」
えっ?
ロープの言葉に、少し戸惑う。
神族を疎かに?
そんなつもりは無い。
でも、アリフィルを見ると視線を逸らされた。
「アリフィル?」
「ほらっ。カシュリア神、呪界に行こう。アリフィルも来る?」
「はい」
嬉しそうに笑うアリフィルに、驚く。
そんなに嬉しいのか?
「こっち」
「あぁ」
戸惑っている私の手をロープが引いて、魔法陣の中に入る。
魔法陣が光ると、ふわっと体が浮く感覚に襲われた。




