58.ある国の騎士3
-エンペラス国 第1騎士団 団長視点-
魔術師25名、その護衛に第2騎士団。
魔物討伐に第5騎士団。
集められた者たちを眺める。
第2騎士団員は少し緊張をしているように見える。
団長はそれほどではないようだが。
第5騎士団は魔石によって力を強化された戦闘集団。
狩りができると少し浮き足立っているようだ。
「森を焼くらしい」
友人が隣に立つ。
任務の失敗でお咎めなしは珍しいが、それだけ王にとって衝撃だったのだろう。
絶対だった魔石の魔力が破られて。
第4騎士団が帰ってきてから数日。
城の中は異様な静けさを見せていた。
そして集められた魔術師と第5騎士団。
王は森を切り捨てることに決めたようだ。
森には魔力がたまっていると言われている。
中に入り調べることができないためそれが本当なのかは不明だが。
まだまだ、森についてはわからないことが多すぎる。
森を焼いて大丈夫なのだろうか?
「不安そうだな、原因を消せば問題は解決だろう?」
友が俺の態度に疑問を持っているようだ。
森の中心に問題があるなら焼きはらって原因を消す。
とても理にかなっているようで実はとても恐ろしい判断だ。
ここに集まる者たちがどれだけ理解しているか。
「森の異変が王であるなら少しは有効かもしれないな」
「前にも言っていたな、だが集められた魔術師たちの力は相当なものだ」
そう、集められた魔術師たちは国でもトップの魔力量を誇る集団だ。
失敗しない自信があるのだろう、王も自信を取り戻しているように感じる。
「確かに彼らは素晴らしい力を持っている」
人間の世界では彼らの魔力は相当なものでその力は恐ろしい。
今回は森の結界を焼き尽くすため、全員で力を合わせると聞いている。
おそらくその威力は今までに見たこともないものとなる。
だが、それは人間の世界での話だ。
「王以上の存在を人間は相手にできるのだろうか?」
「え…それは」
森を焼くと聞いた時から言いようのない不安に襲われている。
静かに、でも確実に何かが起こる。
「団長、空が…」
俺の副団長の声が後ろから聞こえる。
その言葉に窓から外を見て目を見開く。
今日は晴れていた。
訓練も行ってきたのだ。
それが…
「なんだ、あの雲は…」
窓から見える空は異様なほど黒い雲に覆われてきている。
ドドーーーン
ガラガラガラ…ドーーーン
大きな音とともに部屋全体が揺れる。
音とともに悲鳴が城のあちこちで上がっているのが聞こえる。
何度も響く大音響。
そのたびに揺れる部屋。
騎士たちも対応できずにいる。
そんな中、
ガシャーンと謁見の間の窓ガラスのすべてが砕け散る。
ドドーーーン
窓から入り込む…雷。
一瞬にして部屋の中は地獄と化した。
時間にしておそらく1、2分。
短い時間だったのだろう。
城のあちらこちらから火が出て、その鎮火に人々が走り回っている。
雷が窓から部屋に入ることなど、普通の現象ではありえない。
王のいる場所を見つめる。
そして王の足元に視線を移す。
そこには雷が落ちた黒く焦げた床が。




